第30話 告白

 「私達が何処に行こうと、お尋ね者にならない事は判ったわ。それじゃー魔法の事を聞かせてよ。先ず土魔法をホウルに手ほどきしたって、あの子の話では魔力が27って言ったけど、普通は魔法を使えないわよ。使えても一発で魔力切れになり倒れるわ」


 「授けの儀で神父様の読み取れない落書きの事を話したよね。神父様には読めなかったが俺には落書きの意味が判ったんだ」


 「読めないってか、例の落書きのか?」


 「言葉としては魔法やスキルじゃないんだ。だから俺は魔法もスキルも授からなかったと思っていたよ。その意味を理解したのは、男爵家の長女エレノアが魔法を授かる少し前の事だったんだ。俺は魔道具や他人が授かった魔法とスキルを自分の物として使えるんだよ」


 「・・・そんな話を信じろと?」

 「でも・・・フェルナンの授けの儀の事は神様の悪戯だって、町の者は皆知っているわよ」

 「町では噂になったからな」

 「他人が授かった魔法やスキルが使えると言ったよな。氷結魔法や土魔法以外に何が使えるんだ?」


 「今のところは氷結魔法と土魔法に、治癒魔法と転移魔法に結界魔法だね」


 「フェルナン・・・ユーゴは無敵の魔法使いじゃねえか」

 「転移魔法に結界魔法か、土魔法と氷結魔法で攻撃も防御も出来て治癒魔法ときた」

 「それをお貴族様に知られたら・・・」


 「だから誰にも話していない。話したのは今回が初めてだよ」


 「何故、俺達にそんな大事な事を話すんだ?」


 「フンザのあぶれ者達には随分世話になったからね。13の子供を冒険者パーティーに預けて森や草原に行かせるなんて、殺せと言っているのと同じだろう。普通の冒険者パーティーなら一月もせずに死んでいただろうからね。でもコークス達はそれをしなかったばかりか、俺の面倒を見て色々と手ほどきをしてくれた」


 「それは、まぁ~・・・子供を見殺しにするのは忍びないからな。それにお前が死ねば、どんな難癖を付けられるか知れたものでもなかったし」


 「それにしちゃ~、随分親切だったよね」


 「茶化すなよ」


 「王都のハリスン達は草原でゴブリンの群れと遣り合っていて、全滅寸前のところを助けたんだ。彼等は俺と殆ど同じ時期に冒険者登録をして、冒険者としての手ほどきを受けていたんだ。それがゴブリン討伐で分が悪くなった時に、ゴブリンの前に蹴り出されてベテランに見捨てられのさ。まっ、13の俺とは境遇は違うが見捨てるのは忍びなかったからね。彼等は殆ど能力無しだったので、俺が授かった能力を彼等で試す事にしたんだ」


 「それがさっき言った『他人が授かった魔法とスキルを自分の物として使える』って事か?」


 「そう、それにはもう一つの意味も有ったんだ。他人が授かった魔法やスキルと魔道具の魔法陣を、自分だけでなく他人も使える様に出来るんだ」


 「そんな馬鹿な!」

 「それじゃぁ~、まるで創造神様と同じじゃないか!」

 「お前・・・それを俺達が他人に話したらと考えなかったのか?」


 「誰が、こんな話を信じるの?」


 「おい!」

 「冗談なの?」

 「そんな事だろうな。見事に担がれたよ」


 「そうじゃないよ。今の話を他人に教えても誰も信じないって事だよ。本気で話せば、頭のおかしい奴と思われるのが落ちだよ」


 「では、本当に他人の授かった魔法やスキルを使えるのね」


 「俺が逃げ出す話をした時に、2-60のマジックポーチを見せたのを覚えているかな」


 「ああ、ボロい釘袋だったな」

 「唯の財布だと思った革袋が、ランク1だとも言ったわね。確か1-30だったと思うけど」


 マジックポーチから1-5のマジックポーチを四つ取り出して見せる。


 「此は冒険者御用達の店で売っている最低ランクのマジックポーチで、ご覧のとおりショートソードが入るが短槍は入らない」


 そう言って入れたショートソードを取り出して、付与された魔法を(削除・削除・削除)と念じて削除する。


 「確かめてみてよ、魔法を使えなくしたから」


 不審顔で見ているキルザに手渡して、確かめさせる。


 「本当だ、ナイフも入らないぞ」


 キルザから返して貰った革袋に、(マジックポーチ、3-180・貼付・貼付)すると、記憶は〔マジックポーチ、3-180×7〕が〔3-180×6〕に変化した。

 次いで(耐衝撃・防刃・魔法防御、貼付・貼付)すると〔耐衝撃・防刃・魔法防御×6〕と7から6に変化した。


 再びキルザに渡すと「3-180で耐衝撃・防刃。魔法防御付きだよ」と伝える。

 キルザがフリーズしてしまったので、それぞれにマジックポーチを渡してキルザの持つものと同等品だと伝える。

 それとは別にオーク革のバッグをコークスに差し出して、5-30の物だと伝え大地の牙で使ってくれと手渡す。


 暫く誰も何も言わなかったが、コークスが口を開く。


 「俺達に世話になったからと言っても此は・・・」


 「大して金は掛かってないよ。全て俺の能力で作った物だからね。最低ランクのマジックポーチと鞄の代金だけなので気にしないで使ってよ」


 「以前の革袋の時もそう言ったけど、あれもあんたが作っていたのね」


 「ハリスン達王都の穀潰しには教えてないからね。彼等には俺の魔法の実験の為に、内緒でスキルを与えて鍛え上げたのさ」


 「アイアン一年目にしてあの手並みはその為か?」


 「そうだよ。でもスキルを与えても訓練は必要だし、当人の能力によって習得や熟練度に差が出るよ。ホウルは魔法を授かって無かったけど、魔力が27あったので試しに土魔法を与えて鍛えてみたんだ」


 「それで、あの子が土魔法を使える様になったのね」


 「ああ、ハティーも欲しい魔法が有れば言ってよ。どの程度与えられるのかは判らないけどね。皆も欲しいスキルが有れば言ってよ」


 「男爵様は、金の卵を産む鶏とは知らずに俺達に押しつけていたんだな」


 「その代わりと言っちゃ何だけど、一つお願いが有るんだ」


 「俺達で出来る事ならな」


 「暫く王都の穀潰し達を鍛えて、彼等を一端の冒険者にしてやってよ」


 「つまり、俺達と行動を共にするって事か」


 「そう、俺も大地の牙と一緒に行動するけど、魔法や魔力の事について未だまだ調べたい事があるんだ。これ以上は彼等の面倒を見ながらだと無理だし、教えられないからね」


 「その代わり、私にも魔法の手ほどきをしてね」


 「良いよ。治癒魔法や転移魔法も教えて上げるよ。但し教えた事を他人に話さない教えない事が条件だよ」


 取り敢えず索敵と気配察知スキルを持たない者に貼付する。


 「索敵と気配察知のスキルか、何にも感じないけどなぁ」

 「索敵って斥候スキルとどう違うんだ?」


 「同じだよ。スキルとして授かる時には索敵スキルって授かるんだ。けれども冒険者達は感覚の鋭い者が周囲を探りながら先頭を行くので、斥候と呼んでいるだけと聞いたよ。索敵スキル持ちには与えてないよ。それとスキルを授かっても練習しなきゃ使えないのは常識だから練習は必要だよ。ハティーには鑑定スキルも付けておいたので、魔法を使う時に魔力の残量などを常に確かめる様にして」


 「鑑定って、どうやるの?」


 「暫くは草を見て、此は何かと考えながら(鑑定!)って念じていると判る様になるよ。俺はそうして使える様になったんだ」


 「鑑定か、俺も欲しいな」

 「それなら俺も」

 「おいおい、俺にも頼む」


 結局全員に鑑定スキルも貼付する事になってしまった。


 * * * * * * *


 翌日からコークスが先頭を歩き索敵スキルを磨く練習を始めて、その後ろをハリスン達王都の穀潰しの面々が続く。

 勿論コークスの索敵は全然役に立たないが、危険が迫ればホウルが教える事になっている。


 俺はボルトやキルザ達の間に挟まれて、彼等が適当に毟り取った草の鑑定をしているのを見ている。

 ハティーも最後尾に位置し、後方の警戒をしながら鑑定の練習だ。


 夜にはハティーに魔力の扱いについて教えて、魔法と魔力を同調させながら魔力の使用量を減らす練習に付き合う。

 口内短縮詠唱と非常用避難所作りはホウルと同じで、瞬時に作れる様になるまで練習させるつもりだ

 その後はストーンアローとストーンランスの制作と、命中率の向上に連射だが、先は長い。


 その後は俺一人のドームに籠もり、魔力切れと回復時間の測定などで結構忙しい・・・かな。


 シエナラに到着してから本格的に魔力切れを体験しているが、魔力が増える様子はない。

 だが魔力切れで気を失ってからの回復時間が僅かながら短くなった様な気がする。


 最初は平均8時間で目覚めて(鑑定!・魔力)と確認すると73に戻っていたが、最近は7時間45~50で目覚めている。

 まぁ、誤差の範囲ではあるが希望は捨てないでおこう。


 などとのんびり考えながら歩いていて、俺の索敵に何か知らない物が引っ掛かった。

 現在俺の索敵は80~90m可能で、50m程度索敵可能なホウルやハティーも気付いていない。

 取り敢えず隊列を止めると、コークスに何か大きな物が居ると報告して対策を任せる。


 「何かって、何だ?」


 「俺も初めての感覚でよく判らないけど、一頭だけどオークより遥かに大きいと思う」


 「オークより遥かに大きいとは、聞き捨てならないな」


 コークスがハリスン達に避難所に入れと指示をして、ハティーにも同じ物を作って待てと言っている。

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