第29話 ホウルの魔法
ホウルの魔法が最初に発動した時に、鑑定で魔力残量を確認したら〔魔力・20〕と出たので四回しか魔法が使えない事になる。
俺の予想とかけ離れていたので、大喜びするホウルに再び土管を作らせる。
その際、さっきより魔力を少なく使えと助言する。
なかなか魔法が発動しないからって魔力を多く使うのでは無く、一度の魔法に使う魔力を極力少なくする練習も大事だと諭す。
毎夜寝る前に土管を作らせるが、魔力が少ないと魔法が発動しないと思っているのか中々進歩しない。
ホウルの魔力27の内25/100を使って魔法を発動させているので、今使っている魔力の半分でやれと強制的にやらせてみた。
鑑定を使って予想したとおりなら、十分魔法が発動する筈なのだ。
此が上手く行けばホウルの自信にもなるので手を緩めない。
「土管」差し出した手の前で、ホウルを包む様に土の壁が立ち上がる。
「出来るじゃない。今の感覚を忘れない様に続けて」
その日は八個の土管を製作したが、強度が今一甘いので強度を上げる事も教えなければならない。
俺が作る非常用避難所を何度も見せて、土魔法で鋼鉄をイメージしたハンマーを作って叩かせる。
「いま非常用避難所の土管作りに、五つ数えるくらい掛かっているが一呼吸で作れるまで練習だな。それと俺の作った物を叩いて判っただろうが、岩の様に固いだろう。壁だけなら普通の土魔法使いでも作れるんだ、自分や仲間の命を守る物だから早く強固に作れよ」
そこそこ非常用の土管作りが出来る様になったので、宿泊用のドーム作りを教える。
幅60cm高さ1m程の扉と枠は俺が作り、ドームだけを枠に会わせて作らせる。
その際急ぐ必要はないので、直径3m程のドームを毎回作らせて考えなくても作れる様に練習させる。
慣れたら出入り口も作る必要はなく、出入りする際に穴を開け閉めすればよいと教えておく。
勿論強度は固い岩の様にと指定してだ。
扉は外開きで、閉めて丸太の閂を掛ければおいそれとは開けられない。
少し狭いが四人が安全に寝られるのだから文句は有るまいし、不満になればもう少し大きな物を作るだろう。
* * * * * * *
何時もの様に冒険者ギルドで獲物の査定をお願いして、食堂で朝食を取っていた。
「ようフェルナン。良く此処が判ったな」
「コークスさん! お久し振りです。王都に居なかったのであそこから遠い所で稼ぎになる所だって思い、この街に来たんですよ」
「良い子だな。で、あれはどうなった?」
「全て終わりました、何処に行こうと問題ありません。後で詳しく話します」
「あんた・・・少し大きく為った様ね」
「むう、子猫が少し成長したってところかな」
「心配したが、元気そうで何よりだ」
「俺は今ユーゴって名乗ってます」
そう言って冒険者カードを見せる。
「あら、あんたブロンズになってるじゃ無い」
「どらどら、ふう~んフェルナンがねぇ」
いきなり俺と親しげに話し出したコークス達を前に、もじもじしているハリスン達を紹介する。
「俺と共に王都からシエナラにやって来た、王都の穀潰しの四人だよ。ハリスンにホウル・グロスタ・ルッカス。ここ暫く一緒に稼いでいたんだ」
「そう、フェルナンがお世話になったわね。私達は大地の牙ってパーティーよ。私はハティー宜しくね」
「ボルトだ」
「キルザだ宜しくな兄ちゃん」
「大地の牙のリーダー、コークスだ。フェルナンはどうだ、少しは役に立っているか?」
「はっ、いえ・・・ユーゴにはいろいろ教えられて、お世話になりっぱなしです」
「あのう・・・フェルナンって?」
「それは冒険者登録前の名前で、捨てたものだよ。忘れてよ」
* * * * * * *
積もる話もあるし、俺達は森に疎いので暫く一緒に行動する事になり、夕刻俺が全員が入れるドームを作るとコークス達が吃驚していた。
「あんた、相変わらず無詠唱だし上手くなっているわね」
「神様の悪戯のはずが、並みの魔法使いより上手いってなぁ」
「どうなっているんだ? 相変わらずよく判らん奴だな」
「それはおいおい話すよ」
大地の牙と王都の穀潰し二つのパーティーの顔合わせ食事会のはずが、途中からハリスン達に酒を飲ませて宴会になってしまった。
翌朝コークス達と共に、二日酔い気味の王都の穀潰しを連れて森に向かい、四人の腕試しをする。
俺が斥候役で獲物を探して、狩るのは王都の穀潰しの四人に任せ大地の牙はバックアップだ。
まず最初にハイゴブリンの群れを見つけたのでそちらに誘導する。
手信号で方角と7頭と示し、ハリスン達にハイゴブリンと告げて彼等と位置を変える。
全員小弓を手に静かに近づき、約20mの距離から一斉射に続き連射であっという間に片付ける。
さっさと魔石を抜き取ると、ハイゴブリンの死体は俺が穴を掘り埋めてしまう。
ホーンボア、エルクと小弓の一斉攻撃で仕留めると、俺がマジックバッグに入れて次の獲物を探す。
陽も傾き始めた頃にオークの群れを発見、五頭なのでどうするかコークスに相談する。
ハリスン達を呼び「お前達だけでやるか、俺達の手伝いも必要か」と尋ねている。
少し考えたハリスンが「俺達でやります。撃ち漏らしたらユーゴにお願いします」と答え、ホウルの索敵に従って位置に付く。
開けた場所で各個撃破は無理なので各自が受け持つオークの足止めから始める事に。
遠距離射撃は無理なので身を低くして近づくが、直ぐにオークに発見されてオークが雄叫びと共に走り出した。
「各自受け持ちの足止めを確実にな、倒れたら無事な奴を先に頼むぞ! 未だだよ、未だまだ。」
先頭のオークとの距離が30m程になった時に「射て!」ハリスンの声と共に、一斉に弦音が響く。
それぞれが担当のオークの太股に連続して矢を射ち込み、動きが鈍るとすかさず反対側の足にも矢を射ち込む。
最後尾に居たオークが、動きの鈍った仲間の後ろから回り込みグロスタに襲い掛かるがグロスタは見向きもしない。
距離10mで俺がアイスランスを胸に撃ち込み、額にアイスバレットを打ち当てて転倒させる。
動かないオークを確認して四人を見ると足止めしたオークの心臓を狙ってそれぞれが矢を射ち込んでいる。
暴れて矢でとどめを刺せないオークには、短槍を手に背後から近寄り首に一突きしてとどめを刺す。
「有り難うユーゴ。流石に五頭ともなると開けた場所では無理だったよ」
「中々手際が良いな、だが小弓はもう少し威力の高い物に変えた方が良いぞ」
「そうね、その弓は私やフェルナン・・・ユーゴの持つ物より少し強いけど。もう少し威力が有れば重い矢を使い、一発で足止め出来るはずよ」
「アイアンとは思えない手際の良さだな」
「ブロンズと言っても、十分通用するな」
「有り難う御座います。これも全てユーゴのお陰です」
ハリスンの返事に、又じろじろとコークス達に見られる。
宴会になった時にハリスン達が俺から色々と教わったと話した為に、話せと詰め寄られたが実験に使ったとは言えない。
詳しい事は明日の夜と濁しているので、興味津々ながらも追求されなかったが、今夜の話し合いは長くなりそうな予感。
* * * * * * *
その夜食事の後でそれぞれの野営用ドームを作ると、ホウルに質問が集中する。
ハティーから土魔法の事を聞かれて、へどもどしながら俺から手ほどきを受けたことをホウルが話すと、またまたジロジロと見られる。
俺の作ったドームの中へコークス達と入ると、即行でハティーから魔法に対する質問が飛んでくる。
「あんた、以前より土魔法と氷結魔法を自在に使い熟しているけどどうなってるの?」
「待てよハティー、それは後でゆっくり聞けば良いさ。それよりあれからどうなったのか話せよ」
コークスに言われて、大地の牙と別れてからの事をかいつまんで話した。
「つまりお前は、フォーレンの侯爵邸と王都の侯爵邸に乗り込んだって訳か?」
「まあ、結果としてそうなったけどね」
「呆れた。あんたの隠形はうっかりすると見えなくなるけど、あれは本気じゃ無かったのね」
「本気で使うと俺が何処に居るのか判らなくなって斥候として合図を送れないからね」
習得した隠形スキルに、アッシーラ様から授かった奴の隠形スキルを読み取り自分に貼付している。
それに魔力を乗せると、ほぼ完璧に姿を隠せる事は話さない。
「で、本気の隠形を使って侯爵邸に忍び込んだって・・・」
「ちょっと待て・・・それじゃあの話は、問題ないって」
「まさかお前・・・侯爵様を」ボルトが首を掻き斬る仕草をする。
「冗談じゃないわ、完全なお尋ね者じゃないの!」
「えっ侯爵様は代替わりして、今後一切コッコラ商会と俺の事には手を出さないと約束したよ。俺は覆面をして顔を隠していたから、コッコラ会長以外は誰にも顔を見せてないよ。それに王家に差し出されると不味い書類を、俺とコッコラ会長が持っているから大人しくしているさ」
「お前の親爺は爵位剥奪の上で、財産を没収されて領地から追放になったんだな」
「約束だったからね。それが終わったので、新しいホニングス侯爵からコッコラ会長に全て終わったと連絡が来たんだ」
「お前ってとんでもない奴だったんだな」
「まさか侯爵家を潰す寸前だったなんてなぁ~」
「と言うか、侯爵と嫡男次男三男が死んで五男は追放か」
「で、その四男様は信用出来るの?」
「侯爵家の中に在っては異端で、男爵位を与えられて僻地に飛ばされていた変わり者なんだ。侯爵の書いた書類を見せたら怒りで震えていたよ」
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