第28話 魔力の扱い

 ウイザネス商会をお暇したのは、レオナルを届けてから七日後になってしまった。

 世話係の娘の葬儀と、レオナルが四人に懐いてしまって中々離れるのを嫌がり、母親や令嬢に一日延ばしに滞在を望まれたからである。

 ハリスン達も令嬢の頼みには弱くデレデレなので、此奴等を置いて俺だけシエナラに行くと告げた時に俺達も行くと慌てだした。


 レオナルを助けてアインを連れ帰った礼にと、ハリスン達四人には金貨を一袋。

 俺にはフェルカナまで送り届けた費用として金貨50枚、ハリスン達と同じく金貨25枚にレオナルの治療費として金貨100枚の提供を受けた。

 その際に、俺の治癒魔法の事は口外しないと約束してくれたので、ハリスンの軽口を許す事にした。


 ただ俺達の目的地がダブリンズ領シエナラの街と判ると、俺の身元は隠すので治療依頼を受けて貰えないかと頼み込まれた。

 確約は出来ないが、暇があればと言葉を濁しておいた。


 旅立つ時にはウイザネス商会の馬車を用意してくれて、シエナラの街まで送ってくれた。

 流石は金持ちの馬車で、借りた馬車より遥かに豪華で乗り心地も良い。


 「乗合馬車とは段違いに尻に優しいなぁ」

 「あれに比べれば借りた馬車でも最上級と思ったけど」

 「上には上があるよな」

 「人助けはするものだね」


 「えっ、襲われるまで助けないって、言って無かったっけ」


 「あの恥知らずな奴等なら、襲われても見物しているよ」

 「だけど、今思い出しても身震いが出るよ」

 「ユーゴ、真面目にやるから土魔法の手ほどきをお願いします!」

 「ホウルが土魔法を使える様になれば、俺達も安心だから頑張れよ」


 * * * * * * *


 シエナラの街に入ると商業ギルドへ送ってもらい、此処で礼を言って馬車を帰した。

 豪華な馬車で冒険者ギルドへ送ってもらえば後が恐いし、貰った金貨を商業ギルドへ預ける必要も有った。


 此処でも出入り口で止められたが、金貨の袋は良い働きをしてくれる。

 カウンターで預ける時に商業ギルドのカードを申請して作って貰う事にした。

 知らない街の商業ギルドに行く度に止められるのは面倒くさい。

 ハリスン達が、恐る恐る俺達でも預けられるのかと尋ねてきたので、確認すると可能だとの返事にほっとしている。


 「商業ギルドのカードも作っておきなよ。出入りの度に止められるのも面倒だよ」


 出入り口での遣り取りを見ていたので、素直に頷いて申請している。

 全員金貨25枚を預けてほっとしている。


 「どうしたの?」


 「いや~、あんな大金持った事が無いので落ち着かないんだよ」

 「必要な金は冒険者ギルドに預けている分で十分だし」

 「何れランク2のマジックポーチを買うときのために預けておかなくっちゃ」


 「ん、預けている奴を上げるから個人で欲しくなるまでそれを使っていなよ」


 「でも預かっている2-30は130万ダーラだったからもう買えるね」


 「金はもしもの時の為に貯めておきなって」


 カウンターの職員にこの街にコッコラ商会って在るのかを尋ねると、サンドラ通りにコッコラ商会が在ると場所を教えてくれた。

 あのおっさん結構手広く商売をしているのに感心した。


 そのまま教えられたサンドラ通りのコッコラ商会に出向き、メダルを示してコッコラ会長宛の手紙を認めて預ける。

 月に一度か二度、返事がきたか確認に来ると告げて店を後にした。


 * * * * * * *


 シエナラ冒険者ギルドは獲物が多いと聞いたが、その分冒険者の数も多いのか王都のギルドより建物が大きい。


 「人が多いね」

 「王都のギルドよりでかいし」

 「取り敢えず掲示板を見てみようぜ」


 お上りさん宜しくゾロゾロと依頼掲示板を見に行くが、アイアン相手の依頼は街の掃除や片付けなどの使い走りや薬草採取しか見当たらない。

 ブロンズの掲示板はどうかなと見ていると、襟首を掴んで持ち上げられた。


 「猫の子がブロンズの場所なんぞ見ているんじゃねえぞ! 邪魔だ!」


 人を子猫扱いしてぶら下げたまま怒鳴るので唾が飛んで来る。

 汚いので思わず男の腹を蹴り上げると〈ウゲッ〉と言って蹲ってしまった。

 ばっちいので、クリーンで綺麗きれいしているとまたもや怒声が響く。


 「野良猫のくせに、良い度胸だな!」


 怒鳴る男を見て? 何処かで見た顔だ。

 小首を傾げて記憶を探っていると、再び怒声が響く。


 「てめえぇぇ、無視するんじゃねぇぞ!」


 「思い出した! 王都のギルマスにボディーブロー貰って、一発でのされたおっさんだ!」


 思わず声が大きくなったのは勘弁して欲しいが、俺の声を聞いた野次馬連中が吹き出している。


 〈聞いたかよ〉

 〈ボディーブロー一発でのされたってよ〉

 〈アイアン相手に威勢が良いと思ったら〉

 〈アイアンしか相手に出来ない、腰抜けだってよ〉


 「おっさん、偉そうに怒鳴っているけど馬鹿にされてるよ。彼奴らには喧嘩を売らないの?」


 可愛く小首を傾げて尋ねて見る。


 〈おっ、俺達に喧嘩を売るのなら買ってやるぞ!〉

 〈一丁模擬戦で揉んでやるか〉

 〈弱そうだから賭けになりそうもないな〉


 「おっさん、馬鹿にされてるのに黙っているの? 万年ブロンズのプライドは無いの?」


 〈ブハッ、絡んだアイアンに揶揄われているぞ!〉

 〈アイアン相手じゃ物足りないだろうから、俺達が相手をしてやるよ〉

 〈よーし、サブマスを呼んで来るか〉


 おっさん達は顔色を悪くして、コソコソとギルドから出て行っちゃったよ。


 「ところで坊主よ、お前のランクは?」


 「ブロンズだよ」ギルドカードを取り出して見せると頷いている。


 「やっぱりな、彼奴らに絡まれてものほほんとしている訳だ。初めて見る顔だが何処から来たんだ?」


 「王都からだよ、獲物が多いと聞いたし知り合いが来ているかもしれないと思ってね」


 「後ろの四人は仲間か?」


 「そうだよ。王都の穀潰しってパーティーを組んでいる四人組だ」


 「ん、お前は?」


 「俺は大地の牙っパーティーのおまけなんだ。多分この街に居ると思うんだけど知らない?」


 「此処は冒険者が多いので判らないなぁ。いきなり森の奥には行くなよ」


 気の良い男からの忠告は有り難く聞いて草原から慣れていく事にして、今日は道中で狩った獲物を処分してホテルに泊まる事にした。


 * * * * * * *


 シエナラの街は王都の西、シエナラ街道のどんずまりで街の西と南は森で北は草原地帯になっている。

 周辺の町や村は、シエナラ街道から枝分かれした道の先で何れも袋小路の様な所だった。


 王都周辺なら安全の為にも積極的に野獣の討伐をしているが、この街は冒険者の裁量にと言えば聞こえは良いが、腕次第って所の様だ。

 獲物は周囲から湧いて出るので、冒険者が多数集まっているとの事。


 「獲物が多いですねぇ」

 「今日だけでゴブリンを16頭に、ホーンボアとヘッジホッグにホーンラビット」

 「草原なのに王都じゃ考えられないよな」

 「それにファングドッグにホーンドッグとブラックシープだもんなぁ~」

 「ホウルが早く土魔法を習得してくれたらな」


 「まだ魔力の扱いを練習している所なので、暫くは無理だぜ」


 ホウルの魔力は27、俺の73から比べれば一回の魔法に使う魔力は1/27では無理。

 俺の魔力と同量を使用して魔法が発動するのなら、多分10回程度で魔力切れになると思われるが、一度試してみる必要がある。


 昼は狩りと薬草採取に励み、夜はドームの中でホウルが魔力操作の練習に明け暮れる。

 俺は彼等のドームに密着した俺専用のドーム内で魔力切れの為に毎日ドームに魔力を込めて失神する日々を送っていた。


 3、4日に一度程度シエナラ冒険者ギルドに出向いて獲物を売り、市場で食料を仕入れては草原に戻る。

 一度獲物を売れば30~40万ダーラの稼ぎになるので、一人平均6万~8万ダーラの収入なので皆ほくほく顔だ。


 ただ毎回食堂に行きコークス達を探すが姿が見えないので、この街に居ないのかも知れないと思ってしまう。

 一月半程してコッコラ商会へ行った時に、待望の知らせが届いていた。


 * * * * * * *


 本格的にホウルに魔法を教え始めたのは、魔力操作のやり方を教えてから二月ほど経ってからの事。

 攻撃よりも防御、それも四人を包む非常用避難所作りからだ。

 ホウルも魔力が少ないので攻撃は無理と諦めているので、身を守る為の避難所作りに真剣だ。


 先ず四人にぴったりとくっついて貰い、周囲を包む様にゆっくりと地面から壁を立ち上げる。

 俺を含めて五人を入れた土管だが、上部を絞り込み空気穴は残す。

 特に空気穴を残さないと自殺行為になるので、此を塞ぐって事は口と鼻を塞ぐ事と同じだと口を酸っぱくして教える。


 詠唱は無し、俺が何時も無詠唱で魔法を使っているので無くても良いと理解しているが、イメージ構築の為に短縮詠唱で〔土管〕と口内で言わせるとともに、俺が作った土管の出来上がっていくイメージを連想させる。

 その時出来上がりのイメージと共に俺が作った土管の硬さも忘れずに思い出せと教えておく。


 イメージと共に注ぎ込む魔力を魔力溜りから引き出すのだが、ホウルに短縮詠唱と共に魔力溜りから少量の魔力を腕を通して出す練習をさせる。

 何度も何度も口内で(土管)と呟いては発動せずに空振りとなる。

 その度に魔力溜りから取り出す魔力量を増やしていかせる。

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