第22話 襲撃
何時もの様に王都に戻る為キャンプ地を離れ、以前のキャンプ地の近くまで来た時に違和感を感じた。
先頭はホウルで索敵も任せているが、彼は現在40m前後の索敵範囲だ。
後ろに続く三人も俺も、慣れた道だと周囲の警戒を彼に任せていたが何か引っ掛かる。
俺の気配察知は現在40m前後だが、誰かに注視されていると感じるので悪意か敵意が有るのだろう。
索敵で周囲を探れば、50m以上離れて数名の者が潜んで居るのが判る。
「ホウル、注意し・・・」
先頭のホウルが背後に吹き飛ぶ様に倒れるのと同時に俺の胸にも矢が当たって足下に落ちた。
「伏せろ! 襲撃だ!」
俺の怒鳴り声に三人が伏せた上を次の矢が通り過ぎる。
弓持ちは二人、気配察知に近づいて来る人の気配は五人、二人が遅れてやって来る。
「ユーゴ! ホウルが・・・」
「小弓を構えて動くな! 姿が見えたら遠慮無く射て! 盗賊相手に躊躇うな、躊躇ったら自分が死ぬぞ。ハリスンは少し右手、ルッカスは左でグロスタは右真横だ」
俺は少し遅れてやって来る弓持ちと思われる男の背後を目指してジャンプする。
一瞬誰もいないのに焦ったが、飛び越している事に気づき慌てて振り向く。
まさか転移魔法使いがいると思っていないので、背後の用心がまるでない。
背中に矢を射ち込んで倒し、次の男を捜す。
〈ウワッ〉俺に射たれた男の悲鳴を聞き、振り返る賊の背後から矢が飛んできて彼等を襲う。
〈エッ・・・〉
〈ギャー〉
〈挟まれているぞ!〉
混乱して棒立ちになる弓持ち目掛けて、前後から矢が襲い掛かり射ち倒す。
逃げ出したのは二人、即座に転移魔法で後を追い背後からアイスランスで射ち抜く。
一人は転倒して呻いているので、隠形のまま静かに近づき後頭部へ木剣の一撃を入れて倒し、逃げられない様に足枷を付けておく。
ホウルの所に駆け寄ると、右胸を射抜かれていて意識は有るが苦しそうだ。
小さな切り傷や擦り傷程度しか経験がないが、そうも言っていられない。
ホウルを押さえて、ハリスンに声を掛けたら矢を引き抜く様に指示して胸に手を当てる。
矢の突き立った根元に手を当てて深呼吸「よしっ引き抜け!」一気に引き抜かれる矢と共に浮き上がる身体を押さえる。
矢が抜けると同時に血が噴き出してくるのを手で押さえ、(傷よ塞がれ!)と祈りつつ(ヒール!)と口内で呟く。
血は止まった様だが完全に治っている様には見えない。
(鑑定!・状態)〔肺の損傷・重傷〕
矢傷の上に置いている掌に魔力を流しつつ(治れ! ヒール! ヒール! ヒール!)と連続して治癒魔法を掛ける。
「おい・・・治癒魔法だぞ」
「初めて見るよ」
「ああ・・・楽になったよ・・・ユーゴって治癒魔法まで使えるの?」
(鑑定!・状態)〔肺の損傷・軽傷〕
焦って魔力を考えずに闇雲に治癒魔法を使った様なので自分を鑑定して魔力の残量を確かめる。
(鑑定!・魔力)〔魔力67〕
ドームへの出入りと、二回のジャンプに四回の治癒魔法を使って魔力残量が67。
1/73の魔力では一気に傷が治せていないって事になる。
もう一度1/73の魔力を使って(ヒール!)(鑑定!・状態)〔健康〕
「治ったと思うけど調子が悪ければ直ぐに言えよ」
「ユーゴ、有り難う。治癒魔法も使えるなんて凄いね」
「あー、俺もまともに使ったのは今日が始めてだけど、口外禁止ね。喋ったら相応の報いは受けて貰うよ」
「恐いからそれを言わないでよ。ユーゴの事をあれこれ喋る気は無いよ」
「そうさ、ユーゴには思いっきり恩が有るもんな」
「それより此奴等をどうする」
「全員集めてよ。生きている奴はちょっと実験に付き合って貰うから」
「死んでいる奴は?」
「身ぐるみ剥いで、野獣の餌って訳にはいかないな。金だけ抜いたら埋めて無かったことにするよ」
「ユーゴ見てくれ! この間絡んで来た奴等だぞ」
「こっちにはウルザクまで居るぞ。未だ息が有るな」
「三人死んでいるが、ウルザク含めて四人は息が有るけどどうするの?」
「ん、治癒魔法の練習台になって貰うよ」
死んでいる者達は金だけを抜き取り、穴の中へポイ。
息のある者は手足を拘束してから、治癒魔法の練習台として活躍して貰う。
一人目は前後から矢を射込まれた男で、前後に三本の矢を受けて死ぬのは時間の問題だった。
一本ずつ矢を抜いて貰い、即座に矢傷を手で塞ぐと1/73分量の魔力を使って傷を塞いでいく。
(鑑定!・症状)〔重傷・瀕死〕
矢傷を治しただけでは重傷で瀕死の状態なので、1/73の2倍量の魔力を使って(ヒール!)(鑑定!・状態)〔重傷〕瀕死は消えたが重傷に変わりなし。
もう一度二粒・・・2倍量の魔力を使って(ヒール!)で完治したが、体力を消耗しているのかぐったりしている。
瀕死の状態から完治するまでに7/67の魔力を消費している、一粒300じゃなく分割した魔力を七粒使って瀕死の者を助けたことになる。
魔力が満タンの状態からだと、瀕死の者を10人助けられる計算になるが状況に依るだろうから目安だな。
次の奴は腹と足に矢を受けて動けなくなっていた。
「査定用紙の次は、野盗の真似事か?」
「糞食らえだ! お前達のお陰でギルドから追放されて、王都から放り出されたんだぞ。ウルザクの言葉に乗ったら此の様だ!」
「ウルザクはなんて言ったんだ」
「お前がたんまり金を持っているとさ。マジックバッグも持っていると聞いたが・・・早く治してくれよ。治癒魔法師さん」
グロスタが矢を抜こうとしたのを止めて替わってやる。
「なめた口を利いたお仕置きだ」
矢を握ってグリグリグリと三度ほど回してから一気に引き抜く。
〈グワッ、止めてくれ! 頼む・・・止めて〉
「何だ、大口を叩く割に堪え性が無いな。もう一本残っているから楽しめよ」
再度矢を乱暴に握ってグリグリ攻撃をしてから抜いてやる。
〈止めて下さい、お願いします・・・死にたくない〉
でかい口を利く割に気が小さいのか、泣き出しちゃったよ。
(鑑定!・状態)〔重傷〕
さっきの奴は重傷で魔力二粒で治ったので、同じ二粒の魔力を使って(ヒール!)(鑑定!・状態)〔ほぼ完治〕
遊んでいる間に一人は死んでしまい、残っているのはウルザクの馬鹿だけになった。
「さっきの奴が、面白い事をほざいて居たぞ」
「お前が俺を放りだしたからこんな事になったんだ! 責任を取って綺麗に治せよ」
肩と太股に矢を受けているがまだ元気なウルザクだが、煩いので腹に一発爪先キックを入れておく。
此奴の矢は特別にじっくりとこねくり回し、「お願いですから抜いて下さい」と泣き出すまで甚振ってやった。
「偉そうに言う割にすぐに泣き出すんだな。もう一本有るから、じっくり楽しめよ」
肩の傷は痛めつけ過ぎたのか、魔力一粒では二度(ヒール!)を掛けることになってしまった。
太股の矢は抜かずに追加でナイフを突き立てて横に滑らせて腱を切断する。
煩くなるのを見越して口にボロ切れを詰め込んでおいたので、可愛い悲鳴が聞こえる。
ハリスン達がドン引きだが、死ぬ前に治癒魔法の練習に貢献して貰う為の尊い犠牲さ。
そう言うと、四人ともそれはそれはじっとりとした目で俺を見る。
俺はサディストじゃないが、逆恨みをして襲って来る奴に優しくしてやるほど心は広くないんだと、強調しておいた。
実験が終わり、聞くことも大してないのであっさりと穴の中へ蹴り落とすと、蓋をして終わり。
四人には何にも無かったのだと念押しをしておく。
冒険者なら、襲って来る奴に情けは無用だとニヒルに言ったが、早く王都へ行こうと軽く流された。
* * * * * * *
王都に到着するとハリスン達はショートソードを受け取りに行き、俺はコッコラ商会の会長に会いに行く。
店の中に入ると、会長にお報せしてきますと言って一人が奥へ消えた。
迎えに来た護衛に案内されて以前の部屋に入ると、直ぐに護衛も秘書も下がらせて執務机から1枚の用紙を持って来た。
表に貴族街の概略図で、裏にホニングス侯爵邸の簡易図が書かれている。
簡易図、玄関ホールから二階に上がり左に曲がって五つ目、左側の部屋がホニングス侯爵の執務室だと教えられた。
「侯爵は王都に来ていますか?」
「先日到着したようです」
「顔色が冴えないようですが、何か心配事でも」
「定例ですが、商家の者達を集めたお茶会の招待状が来ました。毎年のことなのですが、今回は特に断りづらくて」
「お茶会の日取りは?」
「5日後ですが・・・侯爵邸内で何か言われたら、逃げようがないですからね」
「それじゃー断りの書面を送りなさい。書面の内容は、体調不良にて訪問を控えさせて貰うが、近日中に代理の者が参上致します。と」
「まさか、また行かれるおつもりですか」
「それこそ近日中にお邪魔するつもりでした。警告は無視された様なので黙ってはいられませんよ。届ける書面には、如何なる署名もしないで下さい」
俺の指示に従い、招待状の返信を認めて店の者に届けさせた。
俺は一度冒険者ギルドに出向き、ハリスン達と落ち合うとベルリオホテルに部屋を取る。
ハリスンには明日迎えに来るつもりだが、来なかったらキャンプ地へ先に戻っていてくれと伝えて、再びコッコラ商会に戻った。
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