第21話 ホニングス侯爵の動向
王都に戻ったがギルドには寄らずにケルス鍛冶店に直行して、俺のショートソードと同じ物を四本注文する。
その際にナイフの鞘や剣帯等の革細工もしているので、革袋も作れるのかと尋ねて見た。
ボロボロになった袋の残骸と簡単な図を見ると、作ってやるよと言って貰えたので頼むことにした。
剣は鉄製でショートソード4本金貨12枚、革袋は銀貨2枚で五本作って貰うことにして13枚の金貨を支払い、10日後の受け取りと決まった。
今回はコッコラ会長に会いに行く為に、四人をホラード通りのベルリオホテルに放り込んでおく。
明日の昼までには迎えに来るので、家に帰るなりホテルでのんびりするなり好きにしていろと言ってホテルを後にした。
エルベ通りに建つコッコラ商会は、それなりに大きな建物だが穀物商にしては倉庫が意外に小さい。
本来倉庫に貯蔵すべき穀物や塩砂糖を、マジックバッグに入れているのだろう。
王都で販売する穀物と塩や砂糖だけを倉庫に入れているのであれば、この程度の倉庫で事足りるのだろうと思われる。
店に入り周囲を見回して番頭らしき者を探す。
「兄さん何の用だね。冒険者を呼んだ覚えは無いぞ」
「会長に呼ばれて来たんだ、冒険者の小僧が来たと伝えてくれ」
「頭は大丈夫か?」
その言葉と共にがたいの良い男達が集まって来るが、預かっているコッコラ商会の紋章入りメダルを見せる。
即座に態度が変わり「どの様なご用件でしょうか」と尋ねてくる。
「先日商業ギルドでお会いして、是非来てくれと言われて訪問を約束したんだ。冒険者が尋ねてきたと伝えてくれ」
「お名前をお伺いしても?」
「今言ったとおり伝えてくれないか。会わないと言えばそのまま帰るから」
暫く待たされたが商業ギルドで出会った護衛の男が迎えに来て、軽く一礼をした後「ご案内致します」と一言言って店の奥へと案内してくれた。
店の奥から二階に上がると雰囲気はがらりと変わり、分厚い絨毯の敷かれた広い通路と簡素だが金の掛かった壁板や扉が並んでいた。
一つの扉の前で止まるとノックをして「お客様をお連れしました」と告げると鍵の外れる音と共に扉が引き開けられた。
「お招きにより参上致しました」
「いやいや、中々おいで下さらないので困っていたのですよ。何せ大々的にお探しする訳にも行かずお住まいも判らないので、今は何方にお住まいで?」
「先日お会いした時に同行していた者達と、冒険者としての訓練をしているので森や草原に居るのですよ」
当たり障りの無い挨拶を交わして、メイドがお茶を置いて下がると護衛や秘書も部屋から下がらせた。
「あれから半月もせずに、件の店が賊に襲われましてね。当主と家族に護衛や番頭など、主要な者は殺されました」
低く囁く様な声でトリガン商会の事を伝えてきた。
「あの男も仕事が早いですねぇ、尻に火が点いているので必死なのかな。お店の方へは何か言ってきましたか」
「元々トリガン商会は田舎町が本店でしたが、あの御方と手を結んで店を大きくしてきたのです。フォーレンに本店を移して10年にもなりませんでしたので、殆どの店がヴォーグル領内に有ります。事件の後片付けが終わって直ぐに店の者が呼び出されまして、トリガン商会を引き受けてくれないかと打診されたそうです」
「そう来たか。餌をちらつかせているけれど、条件は何でした」
「我々の本店をフォーレンに戻す事と、トリガン商会の全ての権利を金貨2,000枚で引き取れと」
「強欲だねぇ」
「主人と相談致しますと返事をして、急ぎ知らせてきた番頭も呆れていましたよ。その際トリガン商会本店をくまなく見回ったのだとか。帳簿も何もかも持ち去られていて、金庫も地下室も空っぽで酒蔵とガラクタ置き場が何とか元のままだったそうです」
「盗賊に襲われたにしては極めて不自然ですね。それでフォーレンに戻られるのですか」
「ユーゴ様もお人が悪い。ホニングス侯爵様には、お預かりした書類は懇意な御方のお屋敷にて、厳重に保管しておりますのでご安心下さいと書面でお伝えしましたよ。それとトリガン商会を引き受ける事は、手持ち資金が無いので無理と断りました。番頭には、血で汚れた店など縁起が悪くて引き受けられない書いて送りました。其れとなく噂を流せともね」
「それで引き下がるかな」
「いえいえ、あの書類は命取りにはなりませんが極めて不味い物です。なにせ直筆の署名血判付きですからね。しきりに店に出入りした者を探っていますよ」
「この店は?」
「長年この店に仕えてくれている者達で、口の堅い者ばかりです。フォーレンは当主のお膝元ですからどうしても・・・その点ユーゴ様がお顔を隠していたので誰とも知られていませんのでご安心を」
「いや、何れバレますが、会長よりも先に俺を襲って来ますよ」
俺の姿が消え、次いでフンザのあぶれ者達も消えた後で、コッコラ商会襲撃が失敗して次の日には自分達が襲われた。
俺やフンザのあぶれ者達の実力は別にして、話が出来すぎている。
少しでも頭が回る者ならば、一度は確認する為に俺達を探すだろう。
そして賊は成人前の男の声となれば・・・馬鹿でも俺と目星を付けて確認するだろう。
名前は変えたが猫人族としては結構目立つ様なので、本気で探されたらそうそう逃げられないだろう。
あの時皆殺しにしておくべきだったかも知れないが、奴等を皆殺しにするほどの恨みも無かったしな。
コッコラ商会に二度と手を出すなとは言ったが、俺に手を出すなって言わなかったからなぁ。
身の安全を図るのなら、一度はホニングス侯爵の元に出向き全てを忘れろと警告すべきかな。
「ホニングス侯爵が王都に来るのは何時か判りますか」
「新年の宴が有りますので、各地の領主は12月には王都に集まりますが・・・何をなさるおつもりで?」
「警告ですよ。あの時に、二度とコッコラ商会に手を出すなとは言いましたが、俺は知られていないので何も警告しなかったんですよ。嫡男と次男が死ねば、俺を追い回す余裕もなかろうと思いましてね。俺を探しているのなら、改めて警告の必要が有るでしょう。あの時に侯爵家を破滅させれば大騒ぎになります。そうなれば、コッコラ商会の事が浮かび上がる恐れがありました。だから俺に逆らった二人だけで許したのですが・・・」
「それでですか。最近フォーレンでは、御嫡男様と御次男様が相次いで病気で亡くなられたと噂が流れました」
「直ぐに葬儀も出来ないので、マジックバッグに入れて保管していたのでしょう。ホニングス侯爵の屋敷の場所と執務室の位置は判りますか」
* * * * * * *
コッコラ商会に一晩厄介になり、翌朝ホテルまで送って貰い四人と合流してキャンプ地に戻った。
コッコラ会長の話から、ホニングス侯爵が王都の屋敷に来る12月の末迄は後一月少々、ドームの出入りにしか使っていなかった転移魔法の練習を本格化させた。
現在自在に使えるのは土魔法と氷結魔法、ホニングス侯爵邸にお邪魔をするのなら壁抜け以上の能力を獲得していたい。
だが壁抜け程度なら大した問題では無かったが、一定以上の距離を転移するとなると魔力が心配だ。
壁抜けには一回1/100の魔力を使用しているが、壁抜けに必要な魔力と1/100の魔力でどの程度の距離を転移出来るのか。
100分割で魔力残量を計っているが、魔力73として1/73の魔力を使用した時の威力も確かめたい。
結果として魔力を100分割して使っているとアイスバレットでは1発目と50発目では威力が落ちている。
考えてみれば当然か、常に1/100の魔力を使用しているので魔法を使う度に魔力は減っている。
なのに減った魔力を同じ様に1/100にして使えば、1発目と50発目では魔力の使用量は半分近いはずだ。
単純に考えれば73の魔力を100枚の紙束と見立てて、一回の魔力使用に1/100切り取っていると同時に紙を1枚抜き取っているのと同じだ。
常に1/100を切り取るが、毎回紙を1枚抜き取れば50発目の魔力の使用量は一発目の半分にならざるを得ない。
どうすべきかと悩んだが1/73の魔力を丸薬の様に丸めて常に同量の魔力を使用することに変更した。
結果として、壁抜け程度の転移魔法では1/73の半分の量でも壁抜けは可能と判った。
アイスアローもストーンランスも、1/73の半分でも十分な威力を持っている。
ホニングス侯爵邸に侵入した時に、最後まで魔法が自在に使えたのも納得だ。
魔力残量は自身を鑑定して計ることに変更だ。
壁抜けをしながら常に自身を鑑定してみると(鑑定!・魔力量・73)が72・72・71・71・70・70と下がって行く。
0.5刻みではなく一つずつ下がるらしいが此で十分だ。
転移魔法は広い場所に筒状の岩を立て、内部の空間に向かって転移する訓練で少しずつ距離を取り現在40mの転移が可能となっている。
40mの距離でも1/73の半分の魔力で可能なので1/73丸々使えば相当な距離を転移可能だと思われる。
アイスランスとストーンランスは、魔力を1/73の半分以下で使った時に発動しなくなったので此は注意が必要だろう。
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