第20話 再会
背後に誰かが立ったのだが、ルッカスが苦い顔をして見ている。
ギルドカードを見ていた二人も顔を上げたが、明らかに不快気だ。
「中々景気が良さそうだな」
「何か用かい?」
「邪険にするなよ。同じクーオル通りで育った仲じゃないか」
「どうした、ウルザク」
「ブロスンさん、此奴等ですよ」
「おう、金持ちのボンボンの気まぐれに付き合っている奴等か」
此奴等って、僅かな間に言葉に棘を持ったな。
気配からしてウルザク以外に6人かな。
一人がホウルの前に置かれた査定用紙に手を伸ばして繁々と見ている。
「ほう、55万ダーラか、稼いでいるじゃねえか」
「誰に断って、他人の査定用紙に手を出している。元に戻せ!」
「おんや~あぁぁ。新人ばかりで群れて、お山の大将は強気だね」
「ウルザクもこんな奴に放り出されたのかよ、情けねぇなぁ~」
「聞こえないのか、他人の査定用紙に手を出すのなら、それなりの覚悟は有るんだよな」
「おっ、俺達と模擬戦でもやるか!」
「面白ぇ~。舞い上がっている、天下無敵を気取ったボンボンにお仕置きをしてやるか」
「兄貴! 一度痛い目を見せてやって下さい」
「勝手な事をほざいているが、ギルドの規約を忘れたのか? 他人の査定用紙を取れば泥棒・・・つまり盗賊と看做されるってことを」
そう言った瞬間、査定用紙を手に笑っていた男の顔にアイスバレットを射ち込み、背後の男に椅子ごと体当たりをする。
呆気にとられているウルザクを殴り倒すと、隣にいた男の股間を蹴り上げる。
〈野郎ぅぅ〉
腰の剣を掴んだ男に「剣を抜いたら殺すぞ!」と警告をしてアイスバレットを顔面に射ち込む。
後の二人の動きが止まったが、体当たりされて吹き飛んだ男が殴りかかった来たのを伏せて躱し、今度はショルダーアタックで吹き飛ばす。
「何の騒ぎだ!」
「動くな!」
「誰も動くな!」
あらら、ギルドの職員とギルマスの登場だよ。
「何の騒ぎだ? 一人立つ俺とハリスン達を見て、俺が騒ぎの中心とみたギルマスがハリスンに問いかけている」
「えっ・・・あの、査定用紙がその」
「ギルマス、その歯を撒き散らした男が俺達の査定用紙を取って返さず、注意をしたら、仲間共々模擬戦だと騒ぎ出したのさ。騒ぎに紛れて査定用紙を持っていこうとしたので、泥棒と認めて叩きのめしただけだよ」
周囲で食事をしたり飲んでいた者達に確かめた後、ウルザクとお仲間の六人がギルド職員によって食堂から連れ出された。
「ユーゴだったな、もっと静かにやれ! 見ろ! 氷だらけじゃねえか」
「えーぇぇ、素手でやったら、負けるか殺す事になっちゃうよ」
「負けるは判るが、殺すってなんだ?」
「俺って黒龍族の血が半分入っているので、本気で殴ると骨が折れる程度じゃ済まないよ」
「猫の仔じゃねえのかよ」
失礼なギルマスだな、一発本気で尻を蹴飛ばしてやろうかしら。
まぁ黒龍族と言っても、殴り殺すのには体格的に無理があるが周囲で見ている奴等の牽制にも、多少の吹かしは勘弁な。
一騒ぎはあったが、朝食後それぞれ金を受け取った後冒険者御用達の店に行く。
皆が服を選んでいる間に、俺は薬草袋の特大を四つ購入しておく。
彼等の武器を新調するには俺の懐もすっかり軽くなっているので、全員を連れて商業ギルドへ出向く。
* * * * * * *
今回はゾロゾロとお供を連れていったがすんなりと通してくれたので、カウンターへ直行して金貨30枚と銀貨200枚を下ろす手続きをする。
「お久し振りですね。お代わり御座いませんか?」
突然声を掛けられて振り向けば、コッコラ会長が立っていた。
「お久し振りです。無事に王都に着かれた様ですね。名乗り遅れましたがユーゴと申します。コッコラ様」
「ユーゴ様ですか。是非一度正式なお礼もしたいので、当家へお越し願えませんか」
「コッコラ様、私は一介の冒険者ですので様は不要です」
恐々商業ギルドへ付いてきたハリスン達が、コッコラの名を聞いて
目を見開いている。
会長の護衛は俺の声で気付いた様だが、一瞬顔が強ばったが素知らぬ風を貫いてくれた。
「良ろしければ、此から当家へお越し願えませんか」
「申し訳在りませんが連れの者もおりますので、何れ伺わせて頂きます」
商業ギルドのカウンター前で、コッコラ会長に必ずお越し下さいお待ちしておりますと、何度も念を押されたのには参った。
近日中に必ず訪ねて行くと約束して、漸く解放された。
大店の会長が冒険者の小僧に対して頭を下げ、丁寧な物言いで招待しているのだから目立つ目立つ。
周囲の視線も痛いが、ハリスン達の好奇の目が恐い。
ハタリナル通りのケルス鍛冶店に寄るのは中止して、食料を仕入れるとキャンプ地に逃げ帰る。
コッコラ会長と会って一つ気になったのが、積もる話も御座いますと意味ありげな目で言われたことだ。
俺が誰かを知っていた会長には、顔を見せておく必要があると思い素顔を晒したが、吉と出るか凶と出るか。
* * * * * * *
キャンプ地に戻ると薬草袋を切り裂き、各自に針と糸を渡して細長い袋を作らせる。
太さは約5cmで長さは80cm程で布の傘袋の様である。
コッコラ会長の事を聞きたそうな四人だが、その気配を完全に無視して計画通り進める。
「ユーゴの教えは後になってなるほどなと思うけど、今回の此は全然判らないや」
「こんな薬草袋を縫って何になるの?」
「そのうち汗だくになって、この袋を縫ったことを後悔させてやるからね。だからと言って手抜きすると、また同じ物を縫う羽目になるのでしっかり縫えよ」
翌日から短槍と小弓の訓練の後は、長さ60cm程の棒を振る練習だが、ルッカスは長剣スキル持ちなので残り三人と自分に貼付しての練習を始める。
直径五cm程で、持ち手にはすっぽ抜け防止の紐を輪にして手首を通している。
左右からの袈裟斬りや突き払い横薙ぎと、それぞれ50回ずつ繰り返すが打ち合いはしない。
昼食後はゴブリンを求めて森と草原の境界を中心に索敵の練習を続ける。
ウルザク達の事で索敵スキルだけでなく、気配察知のスキルも必要と痛感したので冒険者ギルドで集めてきた。
全員に気配察知スキルを貼付し、予備として五つほど記憶しているが結構便利だ。
それも索敵スキルと重複する部分もあるので、索敵スキルが使える俺達には習得が割合簡単で、現在20m程度なら存在と気配が判る。
此までの結果、グロスタの様に生活魔法を持たず魔法もスキルも授かれなかった者も、スキルを貼付すればそれなりに使える事が判った。
残りの三人は生活魔法と多少なりとも魔力を有するが、貼付したスキルはそれぞれの適性により習得の度合いは違うが使える様になった。
スキルに関しては適性があれば練習により習得出来るが、授かったスキルは割合習得が容易いだけのようだ。
もう一つ実験したいのだが、魔力の関係で今も手が出せずにいる。
* * * * * * *
討伐したゴブリンは魔石を抜き取るとクリーンを掛けて綺麗にしてから、剛毛を剃り薬草袋に詰め込んでいく。
ハリスンやルッカス達のクリーンでは綺麗になるが匂いまでは取れず、俺が生活魔法に魔力を乗せて強制的に綺麗にして匂いも除去している。
いきなりゴブリン狩りを始めたので皆不思議がっているが、俺の指示には素直に従ってくれる良い奴等。
お礼に大汗を掻かせてやろうとほくそ笑んでいる。
まっ、訓練の日々で娯楽が少ないので、遊びの要素も大切だろう。
刈り集めたゴブリンの毛を、筒状に縫った袋にギュウギュウに詰めさせる。
片方を縛り棒で突き込みながら毛を詰める作業は大変だったが、出来上がった物を持って振り回し楽しそうに仲間で叩き合っている。
「作って貰った物は約60cmの長さだ、欲しがっていたショートソードと同じだな。さっき叩いて遊んでいたが、こいつをショートソードに見立てて打ち合って貰う。ただし本気で遣って貰うので当たればそれなりの痛さがあるので真面目にやれよ」
そう言ってニヤリと笑うと、手に持った袋をマジマジと見て顔色を変えている。
そうだろうな、遊びでたたき合っていた時も〈痛い〉と言っていたからな。
スポンジの剣を使うチャンバラって競技にヒントを得た、ショートソードの訓練方法だ。
昔の剣道の練習にも革袋に裂いた竹を入れた袋竹刀ってもので殴り合ったそうだからそれよりはマシだろう。
怪我をすれば、俺が自分に貼付している治癒魔法の実験台にして治してやれる(多分)と思う。
俺も含めて五人なので常に一人あぶれるが、疲れた者から交代で抜けていく取り決めで打ち合いを始める。
打たれたら痛いので真剣になり、木刀より軽いので変幻自在の攻撃を繰り出せる。
元より多少自主訓練をしていた俺の方が強いが、四人ともみるみる腕を上げていく。
しかし布製の竹刀では強度が足りず、一週間もせずに破れて使い物にならなくなってしまった。
その頃には皆青あざを多数作り、破れた袋を見てほっとしている。
心配しなくても、今度は頑丈な革袋を注文してやるからと心の中でほくそ笑みながら、一度王都に戻ることにした。
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