第15話 お仕置き

 好き勝手をほざきやがって、初心者相手と侮った付けを払わせてやるからな。


 「おら、のんびりしてんじゃねえよ。」


 また蹴りやがったが、おかしいと気付かないのかよ。

 俺の服は耐衝撃・防刃・魔法防御を貼り付けていて、蹴っても俺が何の反応もしないのが判らないのかな。

 痛くも痒くも無いが、蹴られた感覚だけでムカつくんだよ!


 冒険者ギルドの裏手、四角い闘技場の様な場所では訓練をしている奴なんて一人もいない。


 「おう万年ブロンズの糞共が、偉そうに小僧に絡んでいるが勝てるのかよ」


 「何だよう。俺達がこんな小僧に負けるとでも?」


 「ふん、しっかりやれよ。終わったらお前達にゴブリン討伐の手ほどきをしてやるからな」


 「偉そうに言ってるが、お前等も万年ブロンズだろうが」


 「馬鹿だねぇ~。相手の力量も判らない呆けが」


 おいおい、別口と揉め始めたよ。

 俺に背中を向けているので、思いっきり尻を蹴飛ばしてやる。


 「何をしやがる!」


 「相手は俺じゃなかったのかよ。今のはさっき俺を蹴ってくれた礼だよ」


 〈かー、なんて恥ずかしい奴なんだ〉

 〈喧嘩を売った相手に、背中を向けて能書き垂れている様じゃ死ぬまでブロンズだな〉


 何か食堂の方からぞろぞろ人が出てきて、俺達の周囲を囲み始めたよ。


 〈賭けになりそうもないな〉

 〈彼奴らって〔血の血盟〕なんて面白い名前のパーティーだろう〉

 〈碌に討伐も出来ずに薬草をちまちま集めている奴らだよ〉

 〈あの小僧が言ったとおり、ゴブリンの数が少し多いと逃げ出す奴らだぜ〉


 「あっらー、何か酷い言われ様ですねぇ。俺ってゴブリンより強いんですけど、遣りますか?」


 「糞がぁ~、そこの木剣を取って構えろ!」


 「あっ、俺は魔法でやるので要りませんよ」


 〈おー、魔法使いだってよ〉

 〈ショートソード一本下げているだけだから、魔法にはそれなりに自信が有るのだろうな〉

 〈にいちゃん、その血の血盟って馬鹿の群れを、血便に変えてやれ!〉


 周囲から揶揄われて、真っ赤な顔で木剣や短槍に見立てた棒を手にする奴ら。

 俺の周囲を取り囲みそれぞれに得物を構える。


 「へぇ~、王都の冒険者って7対1で訓練をするんですか。実戦的ですねぇ」


 鼻で笑ってやると、いきなり横殴りに攻撃が来たが一歩踏み込み正面の奴に抱きついて位置を入れ替える。

 むさいおっさんに抱きつく趣味はないので、即座に突き放すと同時に腹を蹴り付ける。


 〈えっ〉

 〈ななっ〉

 〈邪魔だ! どけ!〉


 色々言ってますが隙だらけだぞ。

 腹を押さえている男の左の奴に向けて、腕を伸ばすと同時にアイスバレットを顔面目掛けて射ち込む。

 〈バキーン〉といい音を立ててバレットが砕け散り、同時に男が歯を撒き散らして仰け反る。

 ピッチャーが投げるボール程度の速度だから死なないだろうが痛いぞ。


 右手にいる男が呆気にとられているが、腕をそいつに向けると同時にアイスバレットを顔にお見舞いする。

 心優しい俺は、当たれば砕ける柔らかい氷を射ち込んでいるのだが、氷の砕ける音と悲鳴に周囲が文字通り凍り付いている。


 残る四人も、何が起きているのか理解出来ずに傍観状態なので、伸ばした腕を向けてにっこり笑い「ばーか」と短縮詠唱代わりに呟きながら射ち込んでいく。

 もう一人俺を蹴った奴を発見したので、転がっている木剣を拾ってフルスイングで顔面を殴りつける。

 見とれてないで闘えよと思うが、助言してやるほど親切でもないので遠慮無く叩きのめして終わり。


 最初に腹を蹴ったおっさんが、漸く我に返って動き出したので木剣を振りかぶった手首に一撃。

 見回しても反撃してくる気配がない様なので、ちょっとお話をしてみる。


 「誰が誰を護衛するって? 俺ってゴブリンと殴り合った事はないけど、負けた事もないよ。判ったかな」


 〈情けないなぁ~〉

 〈まるっきりの新人に叩きのめされるブロンズって何よ〉

 〈七人掛かり、しかも不意打ちで負けるとか〉

 〈血反吐を吐いた馬鹿の群れ〉

 〈7対1の訓練って、叩きのめされる訓練だったのか〉

 〈王都の冒険者の恥だから、冒険者を辞めろ!〉


 「あの~、もう訓練は終わりなの? 早すぎない」


 あららら、土下座を始めたよ。

 睨んでいる奴は少しは根性が有りそうなので、御免なさいをするまで殴りつける。


 「おいおい兄ちゃんよ。もう勝負はついているだろう」


 「えっ・・・これって勝負事なの。訓練だし、まだ睨んでいる奴には何方が上か教えておかないと後々面倒だろう」


 「違いない。まっ、殺さない程度にな」


 笑って食堂に戻って行っちゃった。

 見物人も殆ど〈つまらない勝負〉とか〈飲んでいた方が良かった〉と言いながら食堂に戻っていく。


 さあ訓練の続きだと振り返ると即座に得物を投げ捨て土下座をするが、謝罪の言葉が聞こえないのでお仕置きを続行する。


 〈もう止めて下さい。悪かったです〉

 〈すいませんでしたぁ~〉

 〈二度と絡んだりしません〉


 「漸く詫びを入れたね。弱いんだから負けたらさっさと謝りなよ」


 〈ゴブリンに勝てる様になってから勝負しろよ〉

 〈そりゃー永遠に無理な話だな〉


 残っていた見物人に馬鹿にされて項垂れているが、自業自得だばーか。


 * * * * * * *


 王都周辺で薬草の採取出来る場所を聞いて通っているが、それこそ新人冒険者の稼ぎの場の様なので薬草採取は止めておく。

 茂みや灌木の密集地を巡り、ホーンラビットやヘッジホッグに小型のエルクを狩り、三日に一度程度ギルドに持ち込んでいる。


 王都周辺は人口が多いので必然的に冒険者も多く、野獣も大型の金になる奴は粗方討伐されているので初心者向きだ。

 等とのんびり考えていると、遠くで煌めく物が見えた。


 こんな所で見える煌めきは、野獣討伐かそれとも争い事かと興味を引かれて近づいてみる。

 ゴブリン対新人冒険者の闘いだが、ゴブリン八頭に対し新人冒険者五人でいささか分が悪い。

 その上新人冒険者達は体力不足でヘロヘロになっていて、負けて食われるのは時間の問題だろう。


 見た以上は放置するのも忍びないので助ける事にした。

 周囲をゴブリンに包囲されて必死なので、声を掛けずにアイスバレットを高速でゴブリンに射ち込んでいく。


 〈ドガ〉とか〈バキーン〉と音がする度に〈グギャッ〉〈ゲッ〉と奇声を発してゴブリンが転倒し藻掻いている。

 次々とゴブリンが倒れて、三頭ほどが背を向けて逃げ出したが逃がすつもりはない。

 背中にアイスアローを射ち込んで逃げられない様にすると、あっけにとられている冒険者達。


 「未だ死んじゃいないので、止めを刺して魔石を抜き取りなよ」


 助かったと判り、力が抜けたのか座り込んでしまった彼等に声を掛ける。

 肩で息をして水をがぶがぶのみしていたが、5分以上を経ってから漸く立ち上がり止めを刺しに行く。


 「助かりました。有り難う御座います」

 「死ぬかと思いました」

 「こんなにゴブリンが居るとは思ってなかったです」


 「ベテランが一人も居ないの?」


 俺から見ても不自然な、新人だけのパーティーなので聞いてみた。


 「〔王都の剣と仲間達〕の人達と一緒でしたが・・・」

 「奴等は俺達を囮にして逃げやがったんです」

 「それも、ゴブリンの前にウルザクを後ろから突き飛ばして」

 「偉そうに冒険者の事を色々教えてやるからって」

 「集めた薬草代の半分も取り上げておいて、糞ッ」


 あ~ぁ、ベテランに食い物にされていたのか。

 色々と愚痴を漏らすのを聞いていると、王都の剣と仲間達は四人組で全員ブロンズの二級らしい。

 六頭のゴブリン討伐中に、背後から襲って来た別のゴブリンの群れに襲われて、五頭を何とか倒したが不利とみて王都の剣と仲間達が逃げ出したらしい。

 それもゴブリンから逃げる時に、新人を背後から突き飛ばし囮にして逃げた様だ。


 この間絡んで来た奴と言い、王都のブロンズランクって程度が低すぎないか。

 ブロンズが四人も居れば、ゴブリンの五頭や十頭は討伐出来る筈なんだけどなぁ。

 大物が少ない王都周辺なら、大した腕でなくてもブロンズになれるのかな。


 何とかゴブリンの魔石を抜き取り礼を言ってきたが、ふらふらで陽が暮れるまでに王都まで帰り着けそうもない。

 俺が座り込んでお茶を飲んでいるのを見て「街に帰らないんですか」と問いかけて来た。


 俺は毎日帰るのが面倒なので、2、3日に一度しか帰らないと伝えるとあからさまにがっかりしている。

 助けたからと言って、家まで送ってやるほど親切じゃないんだよ。


 「その状態で、陽が暮れる前に街まで戻れるのか?」


 「何とか頑張ってみます」

 「野営するほどの腕はないので、街まで帰らないと」


 乗りかかった船だ、俺と共に一晩野営する事を勧める。

 仲間達で顔を見合わせていたが「俺、王都まで帰れそうにない」と一人が泣きそうな顔で言う。

 囮にされたと言う小柄な男の声に、最初に俺に礼を言った男が「お願いします」と頭を下げた。


 同い歳のようだが素直だねぇ。

 尤も、俺って28才プラス一年少々の年齢で、日本では少し捻くれていると良く言われていたからな。


 寝具も何も持っていないので、急いで周辺から草を刈らせて今夜のベッドの用意をさせる。

 その間に俺は彼等の為に野営用のドームを作るが、五人が並んで横になれる大きさの蒲鉾形ドームを作る。

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