第14話 冒険者の洗礼
フォーレンの街を旅立ち王都クランズを目指すが、隣の領地グレンセン領ワーレン迄はズダリン街道脇の草原を歩き、人と出会わない様に気を付ける。
野獣と人の目を気にしての旅は、馬車ならワーレン迄七日の所を十日もかかってしまった。
ワーレンからは王都行きの馬車に乗ったが、此が大失敗で馬車の旅が此ほど苦痛だとは知らなかった。
煩いし尻は痛いし景色を楽しむなんて無理な相談だ。
* * * * * * *
王都の冒険者ギルドに行き、コークス達大地の牙の四人を捜すが見当たらず受付で聞いても判らなかった。
五日ほど毎朝ギルドに顔を出してコークス達を探したが、見つけられなかったので取り敢えず王都で冒険者登録をする事にした。
何せ身分証無しの旅は色々と厄介で、先ず成人している事を証明する事から始まる。
肩掛けバッグ一つでの旅を不審がられるし、街の出入りでは必ず金を要求されてホテルでは正規料金以上を請求される。
冒険者登録自体はギルドの規約を教えられて、銅貨三枚を支払ってギルドカードを貰って終わり。
名前はフェルナンを使いたく無かったので、日本名の河瀬雄吾から〔ユーゴ〕で申請したが何の問題もなかった。
ラノベでお馴染みの水晶球も反応せず、魔法不明の魔力73と記載されている。
受付のお姉さんが水晶球を覗き見て魔法名が判らず、眉をしかめてしまった。
何これっと問われて、神様の悪戯だと神父様に言われたと言ったら変な顔をされた。
初心者登録はアイアンランクで、ブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナと五クラスだが、各クラスは一級二級と分かれている。
俺はアイアンの一級で、名前の下に横線が一本引かれていて二級になると横線が二本になる。
なんの事は無い、新しいカードを作るのが面倒だから線を増やして昇級する仕組みになっていた。
ブロンズランクで一人前と認められるので頑張って下さいと言われたが、当分飯の心配は無いのでのんびりするつもりだ。
冒険者御用達の店の場所を尋ねて、コークス達に買ってもらった服や装備より良い物を買いに出掛けた。
確かに冒険者御用達の店だけあって相応の品揃えだが、品質は今着ている物と変わらない。
背負子と薬草袋だけ買い、鍛冶屋の場所を尋ねて店を出る。
ハタリナル通りケルス鍛冶店、ショートソードと短槍に大振りのナイフを注文する。
ショートソードは銃剣と同じ見た目で、少し幅広で刃長約50cm握りは20cm程にした。
短槍も槍先はショートソードと同じで、全長190cm程度にしてもらう。
ナイフは剣鉈に似て刃幅を広くして貰ったが、鍛冶屋の職人がこんな物は初めてだと首を捻っていた。
材質は鉄・魔鋼鉄・ミスリルとあり、鉄より頑丈で少し重い魔鋼鉄製にして貰ったが、お値段が鉄製の1.5倍でショートソードと短槍にナイフで金貨12枚を支払った。
ホラード通りのベルリオホテルに宿泊している事を告げて、一週間後の受け取りを約して店を出る。
後は服とキャンプ用の寝具だが、欲しい性能の物は注文する事になるので一度ホテルに戻る事にした。
ホテルの女将さんに注文服を頼める所を尋ねたが、庶民は吊るしか古着屋で買うので良く判らないと言われて、商業ギルドに行く事を勧められた。
フェルナンの記憶ではフンザの町しか知らない田舎者で、此の世界の常識も持ち合わせていないので先が思いやられる。
サンテレス通りに建つ商業ギルドは四階建ての堂々たる建物で、流石は王都の商業ギルドだと少々ビビる。
商業ギルドに入ろうとしたら、お約束通り警備の者に前を塞がれた。
「坊主、此処はお前の来る所じゃないぞ! 冒険者ギルドと間違えているのか?」
「判っているよ。金貨を200枚ほど預けて、少し尋ねたい事が有ったから来たんだよ」
そう言ってマジックポーチに作り替えたポケットから、金貨をつかみ出して指で弾いてみせた。
〈キン〉と軽い音と共にキラキラと光る金貨が宙に舞う。
それを見た警備の者が「ご案内します」と言って扉を開けてくれる。
結構混み合っていたが、案内してくれた男がカウンターに俺の用件を伝えると直ぐに受け付けてくれた。
「商業ギルドの会員じゃないけど、預けられるのかな?」
「身分証をお持ちでしたら問題ございません。必要であれば商業ギルドの会員証もお作りいたします」
金貨200枚、大雑把な日本円換算で2,000万円を預けるのだ、にっこりと笑って了承してくれる。
冒険者ギルドのカードと共に、真新しい革袋を二つカウンターに置く。
ホニングス侯爵家の紋章入り革袋は流石に不味いと思い、入れ替えてきたので中を確認すると言って枚数を確認している。
冒険者ギルドと商業ギルドに預けた金は何方でも出し入れ出来るが、冒険者ギルドでは高額の引き出しには日数が掛かるので注意して下さいと言われた。
冒険者用服とブーツに街着を注文したいのでと紹介を頼む。
ブーツはホルシウム通り〔マリンダ皮革店〕へ、服は商業ギルドの商談室で生地の説明を受ける事になった。
冒険者用服の生地は特殊な繭から織った布で高撥水ながら丈夫で満足頂ける物ですと勧められた。
上下一式とフード付きローブの生地代で金貨90~100枚、仕立代が金貨10枚と言われてげんなりする。
耐衝撃・防刃・魔法防御の付与は自分で出来るが、安全快適な冒険者ライフの為には投資は必要だろうと諦める。
街着は侮られない程度に上等な生地を選び、上下一式の生地代が金貨40枚に仕立代金貨5枚。
生地代の金貨140枚をマジックポーチから出して商業ギルドに預け、仕立代は仕立屋に直接払ってくれと言われる。
生地代がこんなに高ければ仕立屋に在庫はない筈で、商業ギルド経由での注文になるのは仕方がないか。
ホラード通りのベルリオホテルに宿泊している事を告げて、明日採寸に来てくれる様に頼むと商業ギルドを後にした。
ホルシウム通りのマリンダ皮革店、此処も立派な店構えでみすぼらしい冒険者の来る所ではない。
立ち塞がる男には、商業ギルドの紹介状を示して中に入れて貰った。
革製品全般を作る様でブーツは店の片隅で採寸して、金貨15枚を支払って八日後の受け取りとなる。
残金約415万ダーラ、仕立代を払うと265万ダーラが懐に残る計算になるが、商業ギルドに金貨200枚2,000万ダーラ預けているので、当分生活の心配は無い。
後は吊るしの服を買い、小市民を気取るつもりなのでこれで良かろう。
仕立屋に採寸と服の要望を伝えて七日後の仮縫いに合わせて仕立代を払う事になった。
ホテルの女将に吊るしの服を売っている所を聞いて買いに行き、見掛けは王都の住人になる。
田舎者丸出しの冒険者の小僧が、商業ギルドの場所を聞いた翌日に、仕立屋が訪れて来たので、女将がビックリしていた。
注文した品々が揃うまでは王都でのんびりとして、それ以降は本格的に冒険者家業を始める事に決めた。
* * * * * * *
注文の品々を全て受け取り、翌日には冒険者ギルドに赴き周辺の情報を尋ねて薬草採取から始めるつもりだった。
目立たない様にブーツは艶を消し、服はモスグリーンで腰のショートソードの見た目は完全な冒険者御用達品だが、やはり注目を浴びてしまった。
野外生活の為にくたびれた衣服の者達の中に混じれば仕方がないが、即行で絡んで来るのは止めて欲しい。
「よう、おぼっちゃん。ピッカピカの冒険者なら護衛が必要だろう」
「俺達はベテランでよ。王都周辺の事なら任せてくれ」
「かー、服やブーツに背負子まで新品だぜ」
「何処のお坊ちゃまか知らないが、護衛料は弾んで貰うぞ」
「あのー、護衛は間に合ってますので他をあたって下さいね」
「なんだぁ~。俺達の親切を断るつもりかよ」
「なぁぼっちゃんよう。冒険者になって直ぐにゴブリンの餌になりたく無いだろう」
「俺達は親切だからな。ゴブリン討伐の手ほどきもしてやるぞ」
「煩いなぁ、邪魔だから俺の前に立つなよ。ゴブリン討伐って、ゴブリンより弱そうなくせに大口を叩くな。見たところ冒険者になって2~3年ってところか、お前等が俺の護衛に付いたら、お前達は即行で死ぬ事になるぞ」
「ほう、言ってくれるじゃねえか」
「ゴブリンより強いか弱いか、試してみるか?」
「泣き出す前に跪いて詫びろ!」
「ぼくちゃんに冒険者の心得を教えてやるから、訓練場へ行こうや」
「良いけどさ、ポーション代を持っているの? 借金奴隷になる覚悟は有るの?」
「てめえぇぇ、とことん舐めた餓鬼だな」
「心配しなくても、ポーションが必要なのはお前だよ」
「訓練場で木剣の振り方から教えるやるよ。但し俺達の教え方はちぃーとばかり実戦向きだから痛いぞ」
「おらっ! 行けよ!」
後ろから蹴りやがったので、本気で相手をしてやるので覚悟しやがれ。
「おいおい、お前等私闘は禁止だと知らない訳じゃないだろうが。遣るのならギルド立ち会いの模擬戦にしろ」
「煩せぇ爺だな。模擬戦なんてかったるい事なんて遣ってられるかよ! 木剣の振り方を教えるだけだからほっとけ!」
「どっちかと言うと、木剣の受け方だな。骨の2、3本は覚悟して貰うがな」
へらへら笑っているけど、直ぐに泣き顔に変えてやるからな。
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