第13話 誓約書

 「火魔法、魔力は66です」

 「土魔法・建築スキルです。魔力は81」

 「水魔法・風魔法・長剣スキルで魔力は77

 「水魔法・裁縫スキル・魔力は96

 「氷結魔法・雷撃魔法、農業スキルを授かりました。魔力は79です」

 雷撃は試してみたいので、雷撃スキルのみを記憶する事にして〔雷撃魔法×5〕


 20名以上聞き取りをして、漸く転移魔法持ちを見つけた。


 「火魔法と転移魔法で、魔力は84」


 「転移魔法ってどれ位の距離を転移出来るのかな」


 「はっ・・・私の場合は通常は壁抜け程度です」


 「最長どの程度の距離を転移出来ますか?」


 「最大で50m程の転移経験がありますが、それ以上を試した事が在りません」


 返事を聞きながら必死で(読み取りと記憶)を繰り返し〔転移魔法×10〕を獲得すると同時に、自分にも貼付すると〔土魔法・火魔法・氷結魔法・治癒魔法・転移魔法・5/5〕と頭に浮かぶ。


 俺が自身に貼付出来る上限に達した様なので火魔法を削除すると〔土魔法・氷結魔法・治癒魔法・転移魔法・4/5〕と頭に浮かぶ。

 やはり削除すると空きが出来、別の魔法を貼付出来る様だ。

 此で全魔法を記憶しておけば、全ての魔法が使える事になるはずだ。

 練習は必要だろうが、喜んで練習するさ。


 30数名から聞き取りをして結界魔法持ちはいなかったが、結果には大満足だ。

 聞き取りをしている間に、護衛の騎士や侯爵が隙あらばと伺っているのか気配察知に引っ掛かる。

 その度に首輪を軽く締めてやり、振り返ってニヤリと笑うと顔面蒼白になり下を見て冷や汗を垂らしている。

 顔を隠しているので、笑顔を見せられないのが残念。


 授かった魔法とスキルの聴取と、読み取りと記憶は終わったので呼び付けた魔法部隊の者達を帰すと、最後のお仕事に取り掛かる。


 「ホニングス侯爵殿、最後のお願いだが聞いて貰えるかな」


 「望みを叶えれば、大人しく立ち去って貰えるのか?」


 「ああ、お前達を滅ぼすのが目的じゃ無いからな」


 そう言って、死んだ嫡男をマジックポーチから取り出して侯爵の前に置く。


 「先ず一つは、此の男のマジックポーチを貰いたい。使用者登録を外して中の物は要らない、ポーチだけで良い。それとマジックバッグを持っている筈だが、それを見せて欲しいな」


 ホニングス侯爵の顔が強ばり動きが止まる。


 「あー・・・寄越せとは言わないよ。見るだけだし少し質問に答えてくれれば良いだけだ」


 「本当だな!」


 「欲しければ真っ先に取り上げているさ。お宝を溜め込んでいるのだろうが、生憎俺は物取りじゃ無いのでね。マジックポーチが欲しいのも別な理由からだ」


 尚も疑わしげな目で俺を見ているが、立場を判っているのだろうかな。

 俺の機嫌を損ねたら、即座にあの世行きだぞ。

 何度も見せるだけだと念押しをして、マジックポーチからマジックバッグを取り出して俺に見せた。


 (読み取り・マジックバッグ・12-360)


 流石は侯爵様だ良い物をお持ちなので、早速(読み取りと記憶)を繰り返して〔マジックバッグ・12-360×10〕とさせて貰う。

 当然、耐衝撃,防刃,魔法防御も付いているが、嫡男のマジックポーチが手に入れば永遠に耐衝撃,防刃,魔法防御を読み取れるのでそちらは放置する。


 「有り難う。仕舞ってくれて良いよ。そろそろお暇させて貰おうと思うのだが、再発防止と謝罪は必要だろう」


 お暇と聞いた瞬間に顔色が戻ったが、再発防止と聞いて又も硬直する。


 「あれっ・・・俺が帰ったら又あの店を襲うつもりなの? と言うか、首輪を解除して拘束を外せば襲い掛かる気なのかな?」


 「滅相も御座いません・・・何をすれば良いのかお教えください」


 「あの店を襲って与えた被害弁償に、謝罪と二度と襲わない事を誓った誓約書を三通だな」


 「そんな・・・」


 「何故直接的な表現をせずに話したのか判らないのか? はっきり言えば、それを知った護衛達を殺して口封じをするだろう。嫌ならそれでも良いが・・・」


 「支払います! 誓約書も書きますのでお許しください!」


 「お前は考えが足りないのだ、侯爵の身分があれば何でも出来ると奢りすぎだよ。ホニングス侯爵家を長らえさせたければ、大人しくしていろ!」


 ガックリと肩を落とすと執事に金貨の袋を持ってくる様に命じ、侯爵自身は誓約書を書き署名し血判を押した書類を三枚差し出した。


 執事が金貨の袋をワゴンに乗せて俺の前に差し出す。

 侯爵に目で問いかけると「謝罪と賠償に20袋、貴方への迷惑料に二袋用意させました」


 此奴、荒稼ぎしていたと白状しているのも同然だぞと思ったが、嫡男のマジックポーチに22袋の革袋を放り込む。

 執務室の扉を開け振り返ると「邪魔したな、二度と会う事が無い様に祈っているよ」そう伝えて全員の拘束と首輪を解除して、扉の陰に回り隠形スキルで姿を隠す。


 * * * * * * *


 「父上! このまま見逃すつもりですか? 店の奴等を捕らえて、賊の正体を吐かせましょう! 父上!」


 「例え正体が判っても、姿の見えない相手をどうやれば・・・」


 「父上は、兄上を・・・嫡男を殺されて黙っているつもりですか? ホニングス家の誇りはどうしたんですか!」


 「お前は、先程の賊を捕らえる手立てはあるのか? 迂闊に動いて、あの書面と誓約書が王家に渡れば・・・」


 「どうせコッコラ商会に帰るはずですから、先回りをして店を包囲し皆殺しにすればどうとでも為ります!」


 馬鹿だねぇ、姿が消えたからって帰った訳じゃ無いし、固有名詞を出さずに話したのに、自ら騎士達に教えてしまっている。

 俺を殺せと喚く馬鹿の胸に、ストーンランスを一発射ち込み吹き飛ばす。


 ほっとしていた侯爵や騎士達が、ストーンランスに胸を射ち抜かれた次男を見て愕然としている隙に、静かに侯爵邸から抜け出してコッコラ商会にむかう。


 * * * * * * *


 ホニングス侯爵邸では思ったよりも時間が掛かったが、未だ陽の高いうちにコッコラ商会に帰り着いた。

 コッコラ会長の執務室に行き、3・1・2回ノックをしてドアが開くのを待つ間に隠形を解除する。


 「何か御用でしょうか?」


 「明日にはお暇をするが、その前に二人だけで話がしたい」


 そう告げると、黙って頷き執事と護衛を下がらせた。


 ソファーに向かい合うと、マジックポーチから20個の革袋をテーブルに積み上げる。


 「ホニングス侯爵からの詫びと謝罪金だ」


 そう告げて金貨の袋の上にトリガン商会との繋がりを記した書類と、ホニングス侯爵の此までの悪行を記した書類に二度と、コッコラ商会を襲わない事を誓った誓約書を置く。


 金貨の袋よりも書類に興味を示してパラパラと読むと、呆気にとられた表情で俺を見る。


 「これは・・・どうして?」


 「ちょっと侯爵邸にお邪魔して、今後について話し合ってきた。これから先安全だとは言わないが、牽制にはなるだろうな」


 「此を取り戻そうと、躍起になるのではないでしょうか?」


 「誓約書は三通、それ以外は二通作らせたので貴男だけを襲えばどうなるのかは盆暗侯爵にも判るでしょう。貴男が私の事を喋らなければ、此処に居た私が何処の誰かは判りませんしね」


 「そのために、何時も顔を隠されていたのですか」


 「あの町の噂を知っていて、俺が誰かと気付いたのならあの町に手の者を入れているのでしょう。顔を隠してホニングス侯爵領から逃げ出す謂われも判るでしょう」


 「お名前は存じませんが、その様なお子が居る事は知っていましたが貴男様ですか。此から何方に?」


 「取り敢えず王都に行き、それからの事はゆっくり考えます」


 「私も王都に行こうと思っています。王都の支店はこの店よりも大きいので、そちらを本店にしてこの店は信頼出来る番頭に任せるつもりです。出来れば王都まで護衛をお願い出来ませんか」


 「それは止めておきます。貴男との関わりを消してきたのが無駄になりますからね。この店を人に任せるのなら、その人に言っておいて下さい。この店の代わりに、トリガン商会が消える事になるでしょから店舗拡大のチャンスだとね」


 「・・・口封じと証拠隠滅ですか」


 黙って肩を竦めておくが、あの男なら絶対にやるね。

 俺の持つ書類が王家に渡れば極めて不味い状況になる、コッコラ商会に手が出せないとなれば、もう一方の当事者を消せば逃げ道を作れると考えるはずだ。


 今回の謝礼として金貨の袋を二つ貰う事になってしまい、金貨400枚がマジックポーチに収まる事になった。

 それとは別に護衛料金貨10枚は使い辛いでしょうからと、銀貨100枚の革袋とコッコラ商会の紋章入りメダルを手渡された。


 コランドール王国内の何処であろうと、コッコラ商会本支店に行きメダルを示せば便宜を図って貰えるし、私とも自由に連絡が取れると言われた。

 話を聞けば相当な大店の様だが、此の世界の事は殆ど知らないしこの先どうなる事やら。

 取り敢えず王都に行き〔フンザのあぶれ者達〕改め〔大地の牙〕パーティーと合流して、何処かの街で名前を変えて冒険者登録するのが第一目標だ。

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