第12話 侯爵邸は宝庫

 俺を睨んでいた二人は、いきなり首輪が締まり呼吸が出来なくなって焦り、ジタバタし始めたが黙って見ている。

 頷いた二人が驚いてそれを見ているが、呼吸の出来ない二人は目を見開き顔が真っ赤になり痙攣を始めたところで緩めてやる。


 空気を貪って〈ヒュウヒュウ〉と言っているので、落ち着くのを待って再度問いかけると必死で頷く。

 それを確認してから、四人の口内に入れたバレットの魔力を抜く。


 「さっきの質問に答えろ」


 「私を誰だと思っている。この拘束を解き、ただちに立ち去れ!」


 今度は侯爵と思しき男の首を絞めて息が出来ない様にしてやる。

 息が出来ずにジタバタしている男を眺めて、真っ赤な顔になり目が裏返り失神する寸前で緩めてやる。

 何とか息が落ち着いたところで再度四人に警告してから、再び質問を繰り返す。


 「問われた事にのみ返事をしろ! 長居をするつもりは無い。問われた事に答える気が無いのなら、死んでもらうだけだ。昨晩の客人17人と招き入れた男は全て死んだぞ。後を追いたければ直ぐに後を追わせてやる。判ったら頷け」


 一斉に頷くので、改めてソファーに座らせて確認をする。


 「そうだ・・・儂がノルカ・ホニングス侯爵だ」


 「此奴が、逃げた奴の中に其奴が居たと喋ってな」


 ガゼルダの死体をマジックバッグから取り出して、四人の前に転がす。

 腹から血が流れているが至って綺麗な死体で、誰なのかは判ったのだろうカディフの顔色が変わる。


 「殺したな!」


 「当たり前だ、寝込みを襲ってくる盗賊を見逃すほど優しくはないからな。お前の名が出たので此処に来てみれば、きっちりホニングス侯爵とお揃いで居る。街の噂通りの仲の良さだな。まあ、それはどうでも良い。夜は静かに眠りたいし、余計な手出しを止めてもらいたくてな。侯爵殿」


 「何の話だ。儂は賊に襲われる謂れは無いぞ」


 「それっ、そっくり同じ言葉を返すよ。伊達や酔狂で態々此処まで乗り込んで来たんじゃないんだ。俺の希望を叶えてくれないのなら、この部屋の者は皆殺しだな」


 「何が望みだ?」


 「昨日襲われた家の、商売敵との繋がりを詳しく記した書類と、昨日の襲撃を命じた理由を詳しく書いてもらおうか」


 「そんなものは知らん! お前は相手を間違えているのではないか」


 「そう、伊達や酔狂で無い事を証明しなきゃ駄目そうだな。隣の二人は御子息かな?」


 「そうだが、それがどうした!」


 「パパは知らぬ存ぜぬと惚けるつもりなので、最初の犠牲者になってもらうよ」


 そう告げて、侯爵の隣に座る男の首を一気に絞める。


 〈グエッ〉と一言漏らしたが、首に食い込んだ輪の為に直ぐに窒息して倒れ込んだ。

 侯爵の見守る前で、死の痙攣をして動かなくなる。

 此の世界に目覚めてから野獣を多数殺してきたので、目の前で人が死んでも何の感情も湧かず鈍感になってしまった。


 「きっさまぁぁぁ」


 暴れ出す侯爵の首輪を再び締めて声を出せなくして、序でに暴れられない様に身体を何重にも拘束しておく。

 〈ヒュウヒュウ〉言っているが何とか息をしているので、倒れている騎士達にも首輪をプレゼントしていく。

 何の為の首輪か理解した騎士達の顔色が悪くなるが「ご主人様次第なので生きる望みは有る」と言ってにっこり笑っておく。

 スカーフで覆面をしているので、笑顔を見せられないが気は心だ。


 侯爵は〈ヒュウヒュウ〉言いながら顔は土気色になり、暴れるのを止めて必死で呼吸をしている。


 首輪を緩めてやり呼吸が落ち着くのを待つ。


 「次はお前だが、その後はパパだからね♪ 侯爵家の当主と嫡男が死に、お前も死ぬと侯爵家はどうなるかな?」


 俺の言葉を聞いて、侯爵家を滅ぼす事に何の躊躇いも無いと悟った侯爵の顔が一気に青ざめる。


 「俺の希望を叶えてくれないのかな」


 返事を躊躇う侯爵を見て、もう一人の息子に目を向ける。


 「君の命などどうでも良さそうだよ。素敵なパパだね」


 「待て! 待ってくれ。従うお前の望むとおりに書く!」


 必死に俺の要求に従うと返事をする侯爵の傍らで、黙って俺を観察していたカディフの顔色が変わった。


 「まさか・・・」


 数度しか言葉を交わした事が無いが、どうやら俺の正体に気付いた様なので此奴の首も絞めておく。

 〈ウッ〉と言って目を見開いたが、口を開けても言葉を発する事が出来ずに俺を睨んだまま倒れて動かなくなった。


 「余計な事をしようとしたら、即座に首を絞めてやるからな」


 そう言って侯爵の拘束を外してやる。

 カディフを殺したのは警告の為と思ったのか、黙ってコクコクと頷く侯爵を執務机の前に座らせて椅子に固定する。


 トリガン商会の会長トリガンとの繋がりを書いた紙を読んだが、言葉を濁し曖昧模糊な表現で綴られた書面に、頭を一発張り倒して書き直しを命じる。

 三度書き直しを命じてから再度警告する。


 「長居をするつもりは無いと言ったよな。これ以上書き直しを命じるつもりは無い。お前達二人を殺せば今後襲われる心配はないし、男爵家三家が侯爵家の後継争いで面白い事になる。死ぬも生きるも好きな方を選べ!」


 トリガン商会との繋がりと、どの様な便宜を図ってきたのかを書いた用紙を差し出す。

 次はコッコラ商会を襲わせた経緯と、襲撃後コッコラ商会をどうするつもりだったのかを書かせて、最後に此まで同様な手口で潰した店の名前を書かせる。


 長い時間を掛けて書きだした書面をざっと読み、この程度で良いかと署名させる事にした。


 「まあ適当に書いているのだろうが良いだろう。最後に署名して血判を押してもらおうか。署名は他の書類と見比べるので誤魔化すなよ」


 署名をしていない書面を渡し、してやったりと思っていたようだが甘いな。

 それにこの書面では罪に問えないと思うが、ホニングス侯爵の名誉を傷付けて王家に睨まれる原因にはなるだろう。


 さて、本題に入りますか。

 転がっている騎士達の足の拘束を外し、壁際に何時もの様に立たせて再び足に細い棒状の枷を嵌めて拘束する。

 腕も後ろに組ませて固定しておくが、首輪はそのまま嵌めておき軽く締めたり緩めたりして自由に出来る事を教えておく。


 扉の左右に立つ騎士の手足の拘束を外すと、勝手な真似をすると侯爵達が死ぬと警告をして持ち場に付かせる。

 死体はマジックバッグに入れて準備完了。


 執事を呼ばせ、やって来た執事に治癒魔法使いと魔法部隊の者全員を呼んで来させる。


 「治癒魔法使いと、魔法部隊の者全員ですか」


 侯爵の傍らに立つ俺を不審気に見ながら答えるが、侯爵に〈早くしろっ!〉と怒鳴られて慌てて呼びに行った。


 伊達に危険を冒してのこのこ侯爵邸に潜り込んだ訳じゃない、本命は魔法とスキルの読み取りと記憶だ。

 既に侯爵のマジックポーチを読み取り、3-360と高性能なマジックポーチを読み取り10個分記憶している。

 息子二人のマジックポーチは3-180で、此も10個分を記憶したので後はマジックバッグを持っている筈なので、それの読み取りと記憶だ。


 マジックポーチの読み取りで判った事が一つ、彼等の持つマジックポーチには耐衝撃・防刃・魔法防御が施されていて、読み取りと記憶が出来た事だ。

 試しに俺が持つオーク皮製2/60のマジックポーチに貼付してみると、耐衝撃・防刃・魔法防御付きのマジックポーチになった。

 序でに着ている服上下とブーツにも、耐衝撃・防刃・魔法防御を貼付しておく。

 耐衝撃・防刃・魔法防御の魔法も(読み取りと記憶)で〔耐衝撃・防刃・魔法防御×10〕


 魔法は火魔法が侯爵と次男で、嫡男は魔法無しだった。

 騎士達の魔法やスキルも興味を引くような物は無かった。


 執事に引き入れられた集団がゾロゾロと執務室に入ってきたので、壁際に控える騎士達の前に横一列に並ばせると回れ右をさせる。

 白い服装の治癒魔法使いが三名居るので、彼等から読み取りを始める。

 その間に鑑定使いと空間収納持ちが居る筈だと確かめて、呼びに行く様に侯爵に命じさせる。


 肩を叩いたら授かった魔法とスキルに魔力を報告する様に命じさせると、1人ずつ肩を叩いて読み取りながら確認して行く。


 「治癒魔法、魔力は65です」(読み取り・・・治癒魔法)(読み取り・記憶)×4、〔治癒魔法×4〕


 「治癒魔法・水魔法・調理スキルです・・・魔力は77です」(読み取り・記憶)×4、〔治癒魔法×8、水魔法×4,調理スキル×5〕


 「治癒魔法と鑑定スキルです。魔力は92です」(読み取り・記憶)×4、〔治癒魔法×12、水魔法×4,調理スキル×5、鑑定スキル×4〕


 治癒魔法に鑑定スキル持ちで魔力92か、どの程度の腕かは知らないが決して自由な生活は望めないだろうな。

 三人の治癒魔法を読み取り記憶したが、合算して治癒魔法が12になったが魔法自体に違いは無さそうだ。


 「魔力が92だと、治癒能力は三人の中で一番なのかな」


 「いえ・・・私は二番手です」


 「有り難う。君達三人は持ち場に帰って良いよ」


 魔法は魔力の多寡よりイメージ力に依るようで、魔力は使用回数か威力になるのかな。

 

 鑑定使いが二人居たが魔力は84と88で、共に魔法は無しだったので鑑定スキルを読み取り記憶して帰らせた。

 空間収納持ちも二人だが、一人は授かったばかりで訓練中との事でベテランから読み取る事にした。

 欲しかった治癒魔法と鑑定スキルが手に入り、後は結界魔法と転移魔法が手に入れば完璧だ。

 魔法部隊からの読み取りが楽しみだ。

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