第11話 夜の訪問者
賊の横手に静かに移動して待つ。
十数人が入って来てそれ以上増えそうもないと思ったら、閂を外した奴が引き返して来て集団の先頭に回る。
小さなライトの明かりだが、魔力を纏った猫人族の目はよく見える。
薄暗いので、足下がよく見える様に俺もライトを点けてやる。
「オイ! 招かざる客の様だが挨拶は無しか」
明るいライトと俺の声に驚き、一斉に俺の方に向いた瞬間フラッシュの三連発。
目を閉じていたとは言え俺も半分目潰し状態だが、目が見えずに棒立ちの男達にアイスバレットを射ち込んでいく。
拳大の当たれば砕ける氷の塊だが、新幹線並みの速度で腹に撃ち込まれた氷は絶大な威力を発揮して、次々と男達を吹き飛ばして打ちのめしていく。
〈バシーン〉〈ドスン〉〈ギャーッ〉〈ガラガラガラ〉様々な音色を響かせて倒れた男達は誰も立ち上がれない。
〈なんだ?〉
〈どうした! 何事だ!〉
〈これは何だ!〉
〈怪しい奴!〉
下着や寝間着姿で剣を片手に飛び出して来た警備の男達が、俺の姿を見て剣を突きつけてくる。
「慌てるなよ、賊は全員そこに転がっているだろうが。執事と会長を呼んでこい。それと、使用人達を絶対に此処へ近づけるなよ」
棒立ちの男に指示して、縛り上げるロープを取りに行かせる。
昼間俺の姿を見ているので剣を下ろすと、俺の言葉で慌てて店の奥へ走る。
倒れている奴らも顔を見られない様に全員覆面をしているが、騒がれると面倒なので覆面を剥ぎ取り口に突っ込んでいく。
「賊を捕らえたのですか?」
「手引きをした奴と、店内に入ってきた奴だけですけどね」
「あなたお一人で?」
「警備の者を呼ぶ暇が無かったのでね。此奴等を街の警備隊に渡したら直ぐに自由になり、出直して来ますよ」
「どうすれば宜しいのですか?」
「夜明けまで待ちましょう。夜明けまでに街の警備の者が来なければ、片付けて今夜の事は無かった事にしましょう」
「それで・・・相手は引き下がるでしょうか?」
「難しいですねぇ。難癖を付けてくるか、素知らぬ顔をするか。それより此奴等を少し尋問しますので、全員裏の倉庫に移動させてください。相手の弱みは少しでも握っていた方がよいでしょう」
尋問は呑気に寝ていた護衛の男達に遣ってもらったが、聞き出す事は二つだけだがその前に少し教えておく。
「残念だが、お前達の事は事前に教えられていたのさ。そして逃げた馬車が誰の物か、後をつけているから直ぐに判る。聞きたい事は二つだけだ。誰に命じられたのかとこの中の指揮官は誰か。痛い思いをしてから喋るか、そのまま死ぬかは好きな方を選べ」
後ろに控える護衛の男達に頷く。
賊の侵入を知らず呑気に寝ていた男達は、主人の前での名誉挽回とばかりに手加減無しの殴打を加え始める。
夜明けまで時間はたっぷり有るので、一人ずつじっくりと嬲る様に殴り蹴り身体に痛みを染みこませていく。
息絶えた者や瀕死の者は止めを刺して、現世からマジックバッグの中へと移動させる。
罵声も怒声も無い、坦々と殴り蹴り身動きしなくなったら絞め殺していく。
三人もマジックバッグの中に収まると、俺達の本気を悟ったのか皆顔面蒼白で次の犠牲者を見ている。
店に押し込んで主人以下手当たり次第に殺す気だった相手に、情けを掛ける気は無い。
八人がマジックバッグの住人になった時に、お漏らしをしている男を見つけた。
「散々殴られて死ぬより、喋った方が楽だよ。喋る気が有るのなら頷きなよ」
思いっきり頭をブンブン振り、喋れば生き延びられると思った様で希望に顔色も良くなる。
仲間達から離れた場所に連れて行き尋ねる。
「誰に頼まれたの?」
「大元は知らないが、俺達を雇った奴は・・・今殴られている奴の次の次にいる。名前は〔ガゼルダ〕だ。もう一人居た筈だが、姿が見えないので逃げたかな」
「もう一人の名は?」
「カディフ、領主様と繋がりが有ると自慢していた。なぁ、喋ったんだから殺さないでくれるよな」
「判ってるよ。ガゼルダの所に行こうか」
お漏らし君をつれてガゼルダの前に立ちじっくりと顔を見る。
「ガゼルダか、カディフは逃げた様だがホニングスに報告するかな?」
「待ち伏せされていたとはな。警備兵に引き渡せよ」
「話を聞いて無いな。ホニングスが知ったら嬲り殺し確実だぞ。捕まった挙げ句拷問を受けているのに、お前一人無傷なら何と思うかな」
「どのみち死ぬんだ、好きに晒せ!」
「喋りたくないのなら仕方がないね。カディフは後で締め上げてやるから安心して死ね!」
「お前に奴の居場所が解るのか」
死ぬ覚悟は出来ている様なので、にっこり笑ってアイスアローを腹に打ち込む。
カディフの存在が判れば、侯爵が背後で操っているのは間違いない。
お漏らし君には、心臓に一発アイスアローを射ち込み楽に死なせてやる。
俺の所業を見て助かる術は無いと悟ったのか、厳重に縛られ猿轡をされているのに暴れ出す者泣き出す者と、一瞬騒然としたが直ぐに静寂が訪れた。
最後の一人となったガゼルダも直ぐに仲間の後を追わせてやる。
街の警備隊の者が現れる様子も無いので、賊は侵入を試みたが護衛達によって阻止され逃げ散った事にする。
手引きをした者から事情を聞いていたコッコラ会長は、俺の進言に従うが使用人は殺すには忍びないので追放すると言うので、その男に一つだけ忠告をしてやる。
「手引きした者が一人も帰らないとなると、お前が裏切ったと相手は思うだろう。死にたくなければ朝一番の馬車で街から逃げ出せ」
助かったと安堵していた男は、俺の言葉を理解して真っ青になっていたが後は知った事じゃない。
達者で暮らせよ・・・生き延びられたならな。
* * * * * * *
「有り難う御座いました。私達も店も助かりました、このご恩は決して忘れません。出来れば、お名前をお教え願えませんか」
「悪いがこのホニングス領では教えられない。もう2、3日厄介になったらこの街を出て行くので、それまで屋根裏部屋を借りるよ」
コッコラ会長の許可を得て少し眠る事にした。
朝の仕事が一段落したら起こしてくれと頼んでいたので、ノックの音と共に目覚める。
ノックをした者が何も言わずに引き返していく気配を確認して、魔力を纏った隠形スキルで姿を隠しコッコラ商会を出る。
一時間以上掛かってホニングス侯爵邸の通用門まで来たが、用件を伝えて何へ入らせてもらう訳にもいかず、出入り業者が来るのを待つ。
出入り業者の後に続いて邸内に入ると、使用人の後をついて歩き広い廊下に絨毯を敷かれた場所に出る。
コッコラ会長に書いてもらった邸内図を頼りに、玄関ホールから二階に上がり目的地を目指す。
通路の先に護衛騎士が立っている所が、ホニングス侯爵の執務室だが多数の人の気配と緊張感が伝わってくる。
執務室の前に立つ騎士二人が邪魔だ、どうやって中に入ろうかと思案したが良い案を思い浮かばないので、強硬策に出る事にした。
扉の前に立つ騎士二人に向けて指向性のフラッシュを浴びせると、素速く豪華な扉の前に行きノックをする。
〈カチャリ〉とドアノブが下げられる音を聞きながら、フラッシュを浴びて目を押さえる騎士の後ろに回り、剣帯の後ろを掴んで開いた扉の中へ蹴り込む。
直ぐにもう一人も腕を掴んで引き寄せて放り込むと、一瞬の静寂の後〈何事だ!〉と怒声が聞こえる。
開いた扉の陰から、室内の少し高い所に煌々と光るライトを浮かべ、一呼吸間をおいてからしっかりと魔力を込めたフラッシュの三連発。
〈何だ?〉
〈ウワーッ〉
〈何だ此は?〉
〈何も見えないぞ!〉
フラッシュの前に扉の陰に隠れたので、俺はよく見えるんですよと心の中で答えながら室内に踏み込む。
目も見えないのに剣を抜いている馬鹿もいるが、少数の者が俺を見てて剣を抜き〈誰だ!〉〈曲者!〉なーんて言っているので、彼等にも目の前で指向性のフラッシュを浴びせる。
扉を閉め両方のノブを土魔法で固めて、誰も室内に入れない様にしてから一人ずつアイスバレットを腹に射ち込んでいく。
一通りアイスバレットをお見舞いすると土魔法を使って手足を固定し、声を出せない様に猿轡代わりのストーンバレットを口に詰め込んでいく。
俺の拳大なのでお口に合わない様だが、辛抱してもらうしかない。
立派な身形の男三人と顔見知りを見つけたので、横一列にソファーに並べて座らせる。
暫く待つと目をしばたかせて透かし見る様に周囲を見回し、目が見える事を確認したり動かない手足を見て拘束されている事に驚いている。
身形の良い男三人と、顔見知りの男も目が見える様になったので尋問開始だ。
黒龍族で最年長の男から尋問を始める。
「ノルカ・ホニングス侯爵だな、夜分に無粋な男達を寄越してくれて有り難う。こう言えば、何の用で来たのかは判るよな」
「むぐうぅぅうっ」
おっと、拳大のバレットを咥えさせているのだった。四人の首に土魔法の首輪を付けてやる。
二度三度首輪を締めたり緩めたりを繰り返し、自由に扱える事を証明してみせる。
「今から口の中の物を外してやるが、勝手に喋ったり大声を出すと首輪が締まってあの世行きになるぞ。判ったら頷け!」
二人が頷き二人は俺を睨み付けてくるので、睨んでくる二人の首輪を息が出来るギリギリの状態まで締めてやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます