第16話 貼付の実験

 2.5m×2m高さ1.3m程の、蒲鉾形ドームを見て驚いている彼等を急かして草刈りをさせる。


 俺はそのドームの隣に、ぴったりとくっつけて何時ものテント型の野営用ドームを作る。

 陽が暮れてから腹を空かせた奴等の為に、ヘッジホッグを解体して焼き肉を振る舞ってやる。

 スープも惣菜も有るのだが、野営用品を持たない彼等は食器など持っていない。


 土魔法でかまどを作り、上部を皿形にして解体したヘッジホッグの肉を乗せて焼き、塩と胡椒に似た粉を振っただけの簡単なもの。

 マジックポーチから色々と出てくるので目を丸くしていたが、肉の焼ける匂いの誘惑には勝てず、パンを片手にものも言わずに食べている。


 「すいません。助けて貰って名前すら名乗っていませんでした。俺はハリスンです。一応五人の纏め役みたいな事をしています」


 それぞれホウル・グロスタ・ルッカス・ウルザクと名乗ったが、誰も目に険がないのが好感が持てる。


 「俺はユーゴだ、この間王都で冒険者登録をしたばかりの新人だから、タメ口で良いよ」


 「知っています・・・と言うか、王都の冒険者ギルドで噂になっていますよ」

 「猫人族で鈍い銀色の毛並みに縞模様、目の色は赤い銅色の新人って」

 「でも・・・噂では氷結魔法の使い手だって、土魔法も使えるのですね」

 「ソロで冒険者をしているのって、憧れますよ」

 「マジックポーチ持ちだなんて、羨ましいです」


 「あ~、俺の事を言いふらさない様にな。他人の能力を彼此喋っていると命に関わるよ」


 俺が何を言っているのか判ったのか、顔が引き攣り素直にコクコクと頷いている。

 猫人族って俺は猫人族の血は1/4なんだけどな、黒龍族が1/2とエルフ族が1/4と言っても信用しないだろう。

 訂正する気もないが、見掛けはまるっきりの猫人族だから仕方がないか。


 話をしてみるとハリスンが冒険者になって三月で、他のホウルとグロスタが二月ルッカスが先月登録しウルザクは登録して10日程だと言った。

 良く新人ばかり集まったなと思ったら、王都のクーオル通りとその周辺に住む次男三男四男の集まりだった。


 内緒で彼等を鑑定の実験に使ってみた。


 ハリスンを(鑑定!)〔ハリスン・16才・人族1/2・狐人族1/2・4人兄弟・・・〕違う!

 判っている事じゃなく授かった魔法とスキルが知りたいんだよ!

 (鑑定!・魔法とスキル)〔生活魔法・魔力12〕ん・・・生活魔法しか無いのに、少ないながらも魔力の数値が出るのか。


 ホウルはどうかな(鑑定!・魔法とスキル)〔栽培スキル・工作スキル・魔力27〕

 グロスタ(鑑定!・魔法とスキル)〔無し〕

 ルッカス(鑑定!・魔法とスキル)〔生活魔法・魔力19・長剣スキル〕

 ウルザク(鑑定!・魔法とスキル)〔生活魔法・魔力11〕


 見事な能力だな、ルッカスが長剣スキルを持っているが、それ以外は冒険者向きじゃない。

 相応の能力が有れば次男三男と謂えども、何某かの職に付けるだろうから冒険者らしいっちゃらしいのかな。

 俺も日本語が読めるので意味が判り、色々と考えて使える様になったからな。


 王都に来る馬車の中で退屈紛れに妄想した事を試すには、丁度良い実験体かも知れない。


 「あんた達は冒険者をやるしかないのなら、暫く俺に付き合わないか。一日銅貨五枚と三食は保証するよ。付き合ってくれるのなら、冒険者としての能力向上も出来ると思うよ」


 俄には信じられないだろうと思うので、銀貨の革袋を取り出して中を見せてやる。

 コッコラ会長に貰った銀貨はライトの明かりに光り、ハリスン達の注意を引くには十分だった。


 「一日銅貨五枚に三食食べさせてくれるのか?」


 「ああ、但し俺の命じる事には従って貰うけどな。野獣討伐なんて事は余り言わないから安心しな、代わりに様々な訓練だな」


 「つまり・・・ユーゴの家来になるって事なのか?」


 「違うな。俺の話に乗った者でパーティーを組んでもらい、俺は三月から半年くらいの間あんた達を雇おうって事だな」


 「それでユーゴに何の得が有るんだ?」

 「美味い話には裏が有るのが普通だぞ」

 「ああ、冒険者の彼此を教えて貰うのに稼ぎの半分を取られて、挙げ句にゴブリンの餌になるところだったからな」


 「王都の剣と仲間達の事か、俺は金を払うって言っているんだけどなぁ。尤も、俺の課す訓練を真面目にやらなかったり、気に入らないと即座に放り出すぞ」


 「雇ってくれ。三食飯が食えて一日銅貨五枚貰えるのなら、多少の辛さには耐えてみせるよ」


 ハリスンの一言で残りの4人も口々にお願いしますと頭を下げた。

 五人の実験体が手に入ったので、暫くの間はキャンプ生活が決定した。


 翌日五人を連れて王都に戻ると、冒険者御用達の店に行きしっかりしたブーツと短槍に食器類を買い込む。

 夏なので寝具類は必要無いし、土のドームを作れるのでテント類も要らない。

 帰る前には市場で食料の買い出しと、彼等には屋台で腹一杯食べさせてから草原に戻った。


 王都を出ると薬草などが採れない、人の来ない場所をハリスンに聞き其処へ向かう。

 途中で太さ5、6センチ長さ2m程度の、真っ直ぐな木を沢山集めさせるとマジックポーチに放り込んでいく。


 草原と言ってもそこ此処に灌木が茂り丈の高い草叢も有る。

 灌木の中で目立たない場所に、外部を岩に似せた前夜のドームより大きな宿泊施設を作る。

 当分の間は此処に寝泊まりして、週に一度食料買い出しに王都へ戻る生活をして貰う事になる。

 俺の寝床は壁一つ挟んで作り声の通る穴を開けているので緊急時にも対応出来る様にしてた。


 その夜食後の談笑中、全員に〔索敵スキル〕と〔短槍スキル〕をそれぞれに貼付する。

 何の反応も無いので、二つのスキルを貼付された事に気付いていない様だ。

 お陰で、索敵スキルの記憶が13から8に、短槍スキルが10から5になってしまった。

 長剣スキルも貼付したいが、一度に貼付しても練習の邪魔になりそうなので一つずつにした。


 賃金は二日に一度、それぞれに銀貨を渡す事で話がついたので、六日訓練をして一日王都に向かう事にした。

 支払い方法が決まったら、ハリスン達に提案だ。


 「皆もお財布ポーチが欲しいだろう。最低ランクのマジックポーチ1-5、1m角の容量で時間遅延が5倍の物は、金貨二枚で手に入るんだ。つまり銀貨20枚ね。訓練を二月も辛抱すれば買えるぞ」


 「本当ですか?」

 「欲しいです! 荷物を持たなくて良いなんて夢の様です」

 「今なら飯と宿の心配なしで金が貰えるから買いたいです!」

 「あのー、時間遅延って何ですか?」


 「1ってのが容量で1m角の大きさだな。1-5の5とは、スープが一日で食えなくなるのなら5倍、5日食えるって事さ。数字が大きいほど、食糧等の生物が腐らずに長持ちすると思えば間違いないな。因みにランク1の1-5と呼ばれるマジックポーチは、最低能力なので金貨二枚な」


 「ユーゴのマジックポーチは?」


 「聞くなよ。人の物を詮索したり吹聴すると長生きは出来ないぞ。冒険者をするのなら。他人の能力や持ち物に興味を持つな、知っても他人に漏らすなだよ。話せば弱点を知られるし、金目の物は狙われるからな。精々仲間内だけにしておけ。俺が色々と入れているのを見たら、在る程度は推測出来るだろうが、胸の内にしまっておけ。それが身の為だぞ」


 食後に集めてきた棒を使って簡易ベッドを作る方法を教える。

 覚えておけば、後々森でのキャンプに役立つからと言うと真剣に見ている。

 木組みのベッドは一つ、残りの者は集めた草の褥でお休みとなる。


 朝食後は立木に目印を付けて、短槍と同じ長さの棒で突きの練習を始める。

 最初に胸の高さの所を100回突き、次いで腹の高さへ100回と順次場所を変えて500回の突きを入れる。


 俺も短槍の練習を怠けていたので、大汗を流しながら付き合う。

 夏場に蒸し暑い森の中での訓練は汗が滝の如く流れて非常に疲れるが、冒険者ならこれしきの事と自分に叱咤して訓練に励む。


 終われば全員に氷の塊をプレゼントして暫しの清涼を楽しむ。

 午後からは皆を連れて草原のお散歩だが、交代で先頭を歩かせて周囲の気配を探らせる。

 皆戸惑っているが、野獣の奇襲を受けたくなければ、斥候でなくても周囲に注意を払う練習をしておけと言っておく。


 「俺は一人で森や草原を歩くが、常に周囲を探り野獣から身を隠したり奇襲攻撃で倒しているぞ」


 そう言って静かに歩かせ、時に止まらせると俺が前に出てホーンラビットやヘッジホッグをアイスランスで撃ち抜く。

 気配を探れる様になれば獲物も簡単に見つけられるし、忍び寄る事も出来ると実戦で教えていく。

 此れらは全て、コークス達フンザのあぶれ者達から教わった事だけど。


 * * * * * * *


 三週間も短槍の訓練を続けると、正面と上下に左右を連続して突ける様になり、ゴブリンで試してみる事にした。

 森との境界辺りでゴブリンを探して歩き、見つけたのは七頭の群れで皆以前の事を思い出し腰が引けている。

 危なくなれば助けてやるからと、尻を蹴ってゴブリンに向かわせる。


 ハリスンを中央に左右に並ばせて、向かって来るゴブリンと対峙させて短槍の有効範囲に入るまでは突くなと言っておく。

 後ろから見ていると、震えていたり足踏みして構えが崩れていたりと様々だが、比較的落ち着いているのはハリスンだけだ。


 「ルッカス足の位置! 全員、構えろ!・・・突けっ!」

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