第9話 呼び出し

 ゼブランがコークスに再び会えたのは、一度目の呼び出しから七日後の夕暮れだった。

 毎日夕暮れ時に冒険者ギルドで待ち続けるゼブランは、冒険者達から嘲笑の目で見られて小さくなっていた。


 「コークス! 何故呼び出しに応じ無い!」


 「あんたか。何故呼び出しに応じ無いって、俺はお前の手下じゃ無いって言ったよな」


 「此は、ホニングス男爵様からの依頼だ!」


 「なら依頼内容をギルドに伝えろよ。ただ来いと呼び出されても行く訳ないだろうが。のこのこ行ったら、『帰って良い』と偉そうに言いやがって金も払おうとしなかったよな。文句を言ったら銀貨一枚投げて寄越しやがって、お前は何時からお貴族様になったんだ?」


 「お前達は、男爵様に逆らうのか」


 「お前は冒険者が流民だと知らないのか。つまり男爵様の領民でも無いし使用人でも無い。仕事を依頼したいのなら、用件と報酬をきっちり決めて依頼しろ! フェルナンを押しつけられて、好い加減迷惑しているのが判らんのか! 依頼なら掲示板に出せ!」


 わなわな震えながら帰って行くゼブランを見送りながら、食堂に行き仲間達と相談する。


 「あの子の言ったとおりになってきたわね」

 「どうする。この調子だと2、3日うちに何らかの手を打ってくるぞ」

 「そろそろ潮時かな」

 「だな」

 「手筈通りで良いな」


 皆が頷いたので全員でカウンターに行き、フンザのあぶれ者達パーティーの解散を告げてパーティー資金を等分に分ける。


 * * * * * * *


 翌日ホニングス男爵自ら冒険者ギルドに出向き、フンザのあぶれ者達を呼べと騒いだ。


 「御領主殿、冒険者はあんたの手駒じゃない。13才の餓鬼を押しつけられた奴等の迷惑も考えろ。あんたのやっている事は王国の法に引っ掛かるし、貴族として問題じゃないのか。この町で御領主殿の評判は結構悪いですよ」


 冒険者ギルドのカウンター前で、多数の冒険者が見守るなかギルマスに正面切って拒否されたホニングス男爵は、肩を怒らせ真っ赤な顔で帰って行った。


 帰る早々ゼブランを呼び付けると、フンザのあぶれ者達を領主に対する不敬だと言って連れて来いと喚いた。


 * * * * * * *


 早朝出入り口の開門と同時に、狩りに行く様な顔で町を出たコークス達はフェルナン同様、追っ手をまく為に草原へ向かった。

 ズダリン街道沿いを、ヴォーグル領フォーレンの街を目指して歩くが、街道沿いの草叢を歩き誰とも出会わない様に気遣う。


 陽が傾き空の色が変わり始める頃に目印の柱を見付けた。

 大小の柱を結ぶ線上の先、街道から外れて歩くと少し大な岩が目に付いた。

 ナイフの背で岩を3・1・2と間隔を開けて叩くと、岩の一角が開き中からフェルナンが出てきた。


 「やっぱり呼び出しを受けたの」


 「ああ、お前の言った通りの状況になってきたので、パーティーを解散して町から逃げ出してきた」


 「あんたのドームも頑丈そうね」


 「あっ、中に入ってよ。取り敢えず寝る場所だけは作っておいたから」


 狭い出入り口から階段を降りると一坪ほどの広さの空間で、放射状に穴を開けてベッドにしている。

 それぞれのベッドの奥には、岩に見せかけた空気穴を付けていると説明すると、呆れた顔をされてしまった。

 トイレも作っているんだけど言い出し難くなってしまった。


 「でだ、男爵の糞野郎は何を企んでいるのだ?」

 「それを聞きたいな」

 「ああ、町を離れるのは冒険者になった時に覚悟しているが、訳も判らずに逃げ出すのは業が悪いぞ」


 「その前にノルカ・ホニングス侯爵と、フォーレンの街の知っている事を聞かせて貰えるかな」


 「比較的安全な街だとの噂よ・・・」

 「だけど時々商人の店が襲われたと、噂がフンザまで届くな」

 「それと、犯人が殆ど捕まらないので侯爵様も手を焼いているってな」

 「フンザと同様に、評判の悪い奴が侯爵邸に出入りしているって事も聞くな」

 「はっきり言って、裏家業の奴を手懐けているんじゃないかと噂も有るぞ」

 「それとヴォーグル領ズダリン街道は比較的安全だが、領境辺りから隣の領地に掛けて盗賊が結構出るって話だな」

 「ああ、領境はどちらの領主も取り締まりが難しいらしいからな」


 「でも・・・領主は表向き非道な事はしていないけれど、領民の評判は芳しくない。かな」


 「ああ、フンザと似た様なもので、流石は親子だね」


 「表向き王家に突かれても何ら問題はない・・・か。あの時の話には続きが有るんだ、領都フォーレンの街に〔コッコラ商会〕てのが有るらしい」


 「少し話が見えてきたな」

 「コッコラ商会は、前にはフンザにも在ったな。穀物全般と塩砂糖を取り扱っていたぞ」

 「今じゃトリガン商会が町に来て、穀物も塩や砂糖の値段も上がったわね」

 「今度はフォーレンの街から、コッコラ商会を追い出す気か」

 「それなら、フェルナンがフンザから逃げ出す必要はないだろう」


 「もう少し不穏な話なんだよ。フォーレンのホニングス侯爵邸まで、俺をフンザのあぶれ者達に送らせる。到着したら待合室で夕方まで待たされた後で、執事から俺をコッコラ商会へ見習いに出すので、其方に送っていってくれとコークス達に命じるそうだ。コッコラ商会に到着するのは店じまいの後らしい、当然戸締まりをしているが侯爵様の使いだ」


 「段々読めてきたぞ。侯爵様の使いとなれば主人自ら迎えに出る事になるな」


 「その時に押し入るのは馬車の御者と使いの者で、店の前で仲間達と合流するそうだ。その時コークス達の手足を傷付けて抵抗出来ない様にするって言ってたな」


 「やれやれ、俺達は盗賊に仕立て上げられる予定なのか」

 「そんなに上手く事が運ぶかな?」


 「合流する仲間がどうやって集まるのかは知らないけれど、俺達は街の警備兵に見つかり一網打尽になるってさ」


 「侯爵様腹心の部下がお出ましして来るのは間違いないわねぇ。手足を傷付けられた私達は、袋叩きにされて物も言えない状態で牢に放り込まれるわ」


 「そこまで知っていて、何故あの時に言わなかった?」


 「言っても信じられないだろう。早々にコークス達がフンザから消えたら、俺が逃げ出す事が難しくなるし」


 「呆れた、私達を利用して逃げ出したの」


 「どのみち、フンザのあぶれ者達は利用される予定だったんだよ。捕まらない盗賊の身代わりとしてね。それに、全てを話しても真剣に逃げ出したかは疑問だね」


 「確かにな、のんびり街道を歩いて王都に向かっていただろうな」

 「そしてフォーレンの街で難癖を付けられて捕まる事になるのか」

 「冗談じゃねえぞ! コッコラ商会が襲われたら俺達が犯人に仕立て上げられるじゃねえか!」


 「たまには盗賊を捕まえる必要がある。だけど仲間を盗賊だと言って処刑する訳にはいかない、となると身代わりが必要になる。フォーレンじゃコークス達は馴染みがないので、処刑しようが犯罪奴隷にしようが好きに出来るしな」


 「だけど、良くそれに気付いたわね」


 「授けの日の夜に、嫌味を言いに来た男爵の伜が『よほど奴隷になりたいらしいな』と漏らしたのさ。それを姉のエレノアが慌てて止めたので怪しいと思い、それ以後奴等の事を探っていたので判ったのさ」


 「フェルナンはこの先どうするつもりだ」


 「コッコラ商会襲撃犯が俺達だと、ホニングス侯爵が言い出せば当然手配されて逃げ隠れする事になる。だからコッコラ商会へ行って襲撃計画を話して、迎え撃つ準備をさせるつもりだよ」


 「出来るのか? てより、お前はフォーレンの街を知らないだろうが。コッコラ商会の場所が判ったところで、お前の話を聞いては貰えないぞ」


 「何もせずに盗賊に仕立て上げられて逃げ回る事になるのなら、出来る事はやってみるさ。コッコラ商会の場所さえ判れば、忍び込めると思うんだ」


 「どうやって忍び込むつもりだ?」


 「隠形」


 「確かにあんたの隠形は優れているけれど、街中の大店に忍び込むのは無理があるんじゃない」


 フンザの冒険者ギルドには、隠形スキルを授かっている冒険者が二人居たのさ。

 きっちり記憶させて貰い、自分に貼付したし13個も記憶している。

 授かったスキルは読み取りと記憶が出来るし、魔力を乗せて使う事ができる。


 「見ていて」


 それだけ言って、魔力を乗せた隠形を使う。


 「おい!」

 「嘘っ!」

 「マジかよ」

 「隠形でそこまで出来るのか?」


 静かに立って移動して、反対側で隠形を外して姿を見せる。


 「どうかな。下手な動きをすれば見破られるだろうけど、静かに移動する程度なら気付かれないと思うよ」


 「また腕を上げたわねぇ。全然見えなかったわ」


 元々隠形スキルを獲得しているところへ、他人が授かった隠形を貼付して魔力を乗せる。

 練習の必要もなくフルに隠形が使えるのだから、当然並みの隠形の上を行く事になる。

 神様も日本語の魔法って粋な事をしてくれたのは、マジ感謝だわ。

 今回の事が上手く行ったら、お賽銭をはずみますよアッシーラ様。


 「それなら忍び込む事は出来るだろうが、相手がお前の話を信用してくれるかな?」


 「無理だよ。だけど警告だけは出来るよ。コッコラ商会の主の所まで行き、警告だけはする。安全な筈の場所に忍び込んで警告を受ければ用心だけはするだろうさ」


 「それでも襲撃を受ける事になるんだろうが、どうするつもりだ」


 「判らない、フォーレンに行きながら考えるよ」

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