第8話 別れの文

 疲れた顔で釘袋のマジックポーチから、オークの革製のマジックポーチに中の物を入れ替えるコークス。

 空になった釘袋のマジックポーチを受け取り手を乗せると、俺の手元を睨む。


 「あの~、そんなに見つめられていると恥ずかしいんですが」


 「何を今更」

 「恥ずかしいってガラかよ」

 「良いから、早くやれっ!」


 手を乗せなくても出来るけど、これもパフォーマンスだからしているだけだよ。

 此れだけでも大問題なのに、本当の能力を見せたら絶対に一悶着起きそうだからなぁ。


 釘袋に手を乗せて(削除・削除・削除)隣に置いたオーク製の革袋に手を乗せて・・・〈ちょっと待て!〉ボルトから声が掛かる。


 ボルトを見ると、オーク製の革袋を手に取り矯めつ眇めつ眺め、袋に手を入れて確認している。

 次ぎにマジックポーチだった釘袋を手に取り同じ様に確かめている。


 「どうなの、ボルト?」


 「んあ・・・どちらもただの袋だな。悪かった続けてくれ」


 返されたオーク製の革袋に手を乗せて(マジックポーチ・2-60×17)(貼付・貼付)〔マジックポーチ・2-60×16〕


 「ちょっと待って、フェルナン! 前にあんたのマジックポーチはランク1で、時間遅延は30倍と言って無かった?」


 「馬鹿だなぁハティー、協力して貰えるかどうか判らない時に全て本当の事を話す訳がないだろう。それはランク2で2-60のマジックポーチに間違いないよ」


 「て事は・・・お前はランク2のマジックポーチを、二つ持っていたのか?」


 「何れ詳しい事を話す時が来るけど、それ迄は聞かないで。だけど犯罪ではないので安心して」


 タープの上に出しておいた物を、新たなマジックポーチに入れ終わると狩りを始める。

 ハティーが魔法の訓練を始めてからは俺が斥候を務め、小動物はストーンアローで仕留めストーンランスの練習も兼ねている。

 攻撃のメインはストーンランスで、火魔法と氷結魔法は何れ他の魔法と交換するつもりなので、余り練習はしていない。

 俺がストーンアローやランスを使う時は、ハティーが斜め後ろから俺の動作を見て、自分のストーンアローやランスの参考にしている。


 十日もすると、ハティーはストーンランスを一定の太さと長さに作れる様になったので射ち方を教える。

 と言っても、魔力操作を教えていないのでどの程度射てるのかは努力次第かな。


 ハティーに良く判る様に、標的に腕を伸ばして〈アロー〉と呟くと同時に〈ハッ〉と掛け声と共に打ち出す。

 〈カツーン〉と軽い音と共に、標的の木にストーンアローが突き立つ。


 「射ち出す時は、腕を通して魔力を押し出す感じでね。その辺は判っているだろうけど、射ち出すまでは標的から目を離さない様に」


 コークスやキルザが、興味津々で見ている。


 * * * * * * *


 五月の授けの儀の翌日に、成人と認められる巣立ちの儀が教会で執り行われる。

 俺の巣立ちの日まで残り一月になったので、計画を実行する。

 前日までに買い集めた食糧や生活用品入りのマジックポーチを受け取り、コークス達と別れて一人で町の出入り口に向かう。


 肩から提げたバッグに薬草袋だけ入れているので、又一人で薬草採取かと思って衛兵は疑いもしない。

 門を出る寸前に衛兵に小さなひねり文を手渡し、男爵様に渡してくれと頼んで草原に向かって駆け出す。


 魔力を纏い、全力で駆け出す俺は身も心も軽やかだ。

 あのひねり文が男爵の手に届く頃には、俺はフンザの町から遠く離れているだろう。

 何時もの草原に向かい、町から見えなくなると辺境の町ズダリンと王都ニールセンを結ぶズダリン街道沿いを、ヴォーグル領フォーレンの街を目指して歩く。

 フォーレンの街は領主ノルカ・ホニングス侯爵の住まう街で、ウイラー・ホニングスの生まれ育った街でもある。


 パパと練った計画は、盗賊の首謀者たる俺の姿が消えた事で修正を余儀なくされるだろうが、もっと修正を必要にさせてやる。

 街道沿いの草原を誰にも出会わない様に一日歩き、夕暮れにキャンプ地を定める。

 ハティーのドームを見本に縦2m横1.5m高さ1.4mにして、外観はただの石に見える様に細工を施す。

 空気穴と外部監視用の穴を開けたら寝る準備をして、此からの事をじっくり考える。


 現在俺が使える魔法は土魔法,氷結魔法,火魔法の三種類と、索敵スキル・隠形スキル・小弓スキル・短槍スキル・解体スキル・調理スキルの六つのスキルだ。

 だがスキルは貼付しても直ぐに使える訳ではなく、相応の練習と相性が必要だそうだ。

 授けの儀でスキルを授かっても、幾ら練習をしても人並み程度にしかならない者も結構いるそうだ。

 この辺りは魔法と同じだと皆が言っていたので、間違いないだろう。


 記憶している魔法とスキルにマジックポーチは

 氷結魔法が×6個

 土魔法が×11個

 火魔法が×11個

 水魔法が×5個

 小弓スキル×10個

 短槍スキル×10個

 弓スキル×5個

 解体スキル×2個

 調理スキル×2個

 マジックポーチ・1-5×20個

 マジックポーチ・2-60×16個

 マジックポーチ・3-10×22個

 マジックバッグ・5-30×23個


 冒険者ギルドで魔法使い達から読み取り記憶しようとしたが、欲しい結界魔法や転移魔法の保持者は見当たらなかった。

 治癒魔法持ちなんてのは冒険者の中に居るはずもなく、何れ教会か治癒魔法ギルドにでも行こうと思う。


 フンザのあぶれ者達達や、仲間になる奴で魔法の素養が有れば貼付してやろうと沢山集めたが、役に立てば良いけど。

 マジックポーチとマジックバッグは容量よりも時間遅延効果の高い物が欲しいが、周囲にはそれ程効果の高いポーチやバッグを持つ物が居なかった。

 男爵の持つマジックポーチを読み取ってやろうかと思ったが、危険は冒すまいと自粛した。


 一晩明けて街道に出ると、街道を挟んだ反対側の草叢に5m程の柱を立てて、少し離して柱とドームを結ぶ線上に3m程の柱を立てる。


 * * * * * * *


 翌日朝も遅い時間に、家令のゼブランの元に門衛の小隊長から小さな捻り文が届けられた。

 小隊長曰く、フェルナンが薬草採取の為に町を出る時に衛兵に手渡したと聞き、胸騒ぎを覚えながら急いで中を確認する。


 〔二度とホニングス家に戻る事はない。ウイラー・ホニングス男爵との関わりを絶たせて貰う〕と記されていた。

 勝手な事をしやがってと思ったが、旦那様にお伝えしなければと思うが昼前までは寝ているので待つ事にした。


 * * * * * * *


 コークス達は狩りから戻り冒険者ギルドに顔を出すと、受付係からホニングス男爵家の家令が呼んでいると伝えられた。

 やはり呼び出しが来るかと皆で顔を見合わせるが、無視する事も出来ないのでコークスが一人出向く。


 通用門で家令のゼブランに呼ばれて来たと伝えると、出入りの商人達の待合室に通されたが、なかなかやって来ない。

 漸く現れたと思ったら、「来るのが遅い! 何をしていた!」と怒鳴り出す。


 「ゼブランさん、俺達は冒険者ですよ。あんたや男爵様の家来じゃない。稼ぎから帰って来たら、呼び出しがあったので急いできたのに怒鳴られるとはね。で、何の用だね」


 家令のくせに偉そうにしやがってと思うが、素知らぬ顔で返事をする。


 「フェルナンが帰って来ていない! どうなっているんだ!」


 「フェルナンなら昨日から姿を見ていないぜ。あんた達の用事をしているんじゃないのか?」


 「どういう事だ?」


 「どういう事も何も、昨日も今日も街の出入り口には来ていないぞ。フェルナンに何かあったのか?」


 「何でもない! 帰ってもいいぞ」


 ぞんざいに言って背を向ける。


 「ゼブランさんよ、男爵様に頼まれてフェルナンを預かっているが、お前に呼び出されて訳も言わずに帰っていいぞとは何だ。俺はお前の手下じゃねえぞ。冒険者を呼び出すならそれなりの物を払えよ!」


 凄むコークスに恐れをなして、急いでポケットを探ると銀貨を一枚投げてそそくさと部屋を出て行った。


 * * * * * * *


 「旦那様、昨日からフェルナンの姿を見ていないそうです」


 「昨日からだと、此は今朝届けられた物だな」


 「はい、出入り口の衛兵が受け取ったと小隊長が申しておりました」


 計画を気付かれる恐れは無いが、彼奴がいなければ予定が狂うしフンザのあぶれ者達達を領都フォーレンに行かせる理由が無くなる。

 舌打ちをしたい気持ちでどうすべきか考える。


 翌朝ゼブランは冒険者ギルドに出向き、フンザのあぶれ者達パーティーを指名依頼したいと告げる。

 だがフンザのあぶれ者達のパーティーは、コークス以外はブロンズランクで指名依頼は受けられないと断られてしまった。

 彼等に指名依頼を出せとご主人様から命じられているゼブランは焦ったが、良い考えが浮かばない。


 仕方なくコークスに伝言を頼み、帰って行った。


 翌日の夕方になりギルドに顔を出したコークス達は、受付からゼブランの伝言を聞いたが鼻で笑って無視した。


 二日経ち三日経っても姿を現さないコークス達に、主人から叱責されて冒険者ギルドに顔を出してどうなっているのかと問い詰める。


 「ゼブランさん、冒険者は依頼を受けるか拒否するか自由です。ましてや依頼内容も言わずに来いと言っても、ほいほい行く馬鹿はいませんよ」


 受付の者から素っ気なく言われて、ゼブランは赤面して帰って行った。

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