第6話 夜のお散歩

 12月になり雪がちらつき始めた頃に、エレノアがオルドを引き連れて自慢気にやって来た。


 「あんたの授かった神様の悪戯と違い、私は神様の祝福を受けて氷結魔法を授かったわ。しかも魔力は91よ」

 「俺達黒龍族は魔法使いが多いからな! お前の様な猫とは大違いさ」


 鼻高々に宣ってくれたので、少し揶揄ってみることにした。


 「それはお目出度う御座います。氷結魔法ですか、羨ましいのですがこの季節に氷は要らないと思いますよ」


 「あんたは何時も生意気ね、此だから雑種の子は礼儀知らずで・・・」


 嫌味を言い始めたエレノアを見ていて、間抜けな俺は心の中で自分を罵った。

 氷結魔法・・・魔法ならマジックポーチと同じく読み取れるんじゃないのかと思った。

 ぐだぐたと嫌味を垂れるエレノアを見て(読み取り・記憶)〔氷結魔法×1〕


 思わずにんまりしたら、むっとした顔になり益々嫌味の声が大きくなる。

 (読み取り・記憶)〔氷結魔法×2〕(読み取り・記憶)〔氷結魔法×3〕・・・

 調子に乗ってどんどん読み取っていると、エレノアの顔色が微妙に変わり声の調子も落ちてきた。


 「どうかなさいましたか、お嬢様?」


 俺の問いかけに、エレノアの横で俺を睨んでいたオルドが慌てて姉を見る。


 「どうしたの姉様、何か顔色が悪いよ」

 「何か身体から力が抜けていく様な感じなの」


 「使用人部屋はお嬢様には合わないのでしょう。お部屋に戻られては如何ですか」


 「判っているわよ! お前の様な下賎な猫に、魔法の一端を見せてやろうと思ったけど止めとくわ。行くわよ! オルド」


 オルドが俺を睨んでくるが、12才の餓鬼に睨まれても痛くも痒くもない。

 それよりも他人の魔法を読み取り記録出来た事は大きいが、無闇に読み取り続けると体調不良を起こすとはね。


 馬鹿な兄弟のお陰で魔法の目処が付いたし、氷結魔法も五つ手に入った。

 夜の徘徊の楽しみが増えたってものだ。


 取り敢えず記憶した氷結魔法を自分に貼付出来るのか試してみた。

 (氷結魔法・氷結魔法)と考えると〔氷結魔法×5〕と頭に浮かぶので(貼付)と自分に向けて呟く。

 読み取った氷結魔法が〔氷結魔法×4〕になっているので成功した様だが、頭の中に〔1/5〕と浮かぶ。


 〔1/5〕とは何ぞや?

 マジックポーチを貼付しても、こんなのが頭に浮かんだ事が無い。

 考えられる事は一つ、氷結魔法を自分に貼付した時に思い浮かんだのなら、自分に貼付出来る魔法の数って事になる。

 推測が正しければ、今後も魔法を自分に貼付する度に数字が増えていくはずだ。


 早速氷結魔法を試したいが、いきなりアイスバレットなんてのは無理だろうから、凍らせる事だけを試してみる。

 魔力を込めたウォーターで直径5cmの水球を作りテーブルの上に乗せる。


 詠唱は要らないはずだがどうすべきかと考えて、手っ取り早く(凍れ!)と念じて魔力を腕から送り出す。


 俺って天才♪


 * * * * * * *


 ハティーから土魔法を読み取らせて貰おうと思うが、エレノアの様に気分が悪くなったら困るし、もう一つ問題がある。

 読み取った分、相手の魔法の能力が落ちたら気の毒だ。

 エレノアの様な馬鹿から魔法を吸い取っても良いが、ハティーには世話になっているのでそれは不味い。


 散々悩んだが結論が出ず、読み取って魔法の能力が低下したら貼付で返せば良いと決めた。

 返せない時は、氷結魔法を貼付してあげよう。


 狩りの休憩中にハティーに確認してみる。


 「ハティー、ちょっと試したい事があるので協力して貰えるかな」


 「改まって何よ?」


 「いや、体調のことを知りたいんだが、気分が優れないと思ったら教えてくれるかな」


 「おっ、フェルナンも色気づいて来たか」

 「ハティーは止めとけ! 旦那も目の前に居るしな」

 「今度綺麗な姉ちゃんの居る店に連れて行ってやろうか」

 「おう。お前のお陰で、最近は稼ぎが良いからなぁ」


 「あんた達、馬鹿な事を教えちゃ駄目だよ。で、何かするの」


 「いやっ、何もしないけど何か感じたら教えて欲しいんだよ。ハティーの身体の変化を聞きたいのさ」


 四人とも頭の上に?マークが浮かんでいるが、ハティーが「何か知らないが良いわよ」と言ってくれたので読み取りから始める。

 (読み取り・読み取り)〔土魔法・火魔法・小弓スキル〕へぇ~、ハティーって土魔法だけじゃないんだ。

 それにスキルも読み取れるって事は、小弓スキルも記憶できるって事かな。


 「ハティーって土魔法と火魔法持ちなんだ」


 「えっ・・・判るの。と言うか、火魔法の事は喋った事は無いはずよ」


 「ほう、ハティーは火魔法も授かっているのか」

 「俺達も初めて聞いたが、フェルナン・・・お前は鑑定使いか?」


 「違うよ。ハティーが二つの魔法と一つのスキルを授かっている事は判るけど、それ以外は判らないよ。最近判ったのだが、人が授けの儀で何を授かっているのかが判るんだよ」


 「お前は授けの儀で、神様の悪戯って言われたんだよな」


 「そうだよ。但し、魔力は73とも言われたよ。で、色々と考えているのだけど、他人の授かった魔法やスキルが判るんだが・・・」


 「判るんだがの先は?」


 「それが判らないんだよね。で、ハティーのを読み取ったら、どうなるのか聞いてみたいと思ってね」


 「スキルも判るのなら、俺の授かったスキルは何か判るか」


 コークスか(読み取り・読み取り)〔短槍スキル・長剣スキル〕


 「コークスは短槍と長剣のスキルを授かっているよね」


 「ふむ、アッシーラ様から授かった物が判るってのは本当の様だな」

 「それで、私で何を試したいのよ?」


 「授かった魔法は判るけど、それがどんな物かどの程度判るのか調べたいのだよ」


 嘘だけどね。どの程度読み取りと記憶をすれば相手に影響が出るのか、それを知りたいとは言えないし。


 「良いわよ、やってみて」


 ハティーの許可が出たので、思いついたものも序でに試す事にした。

 (読み取り・記憶)〔土魔法×1、火魔法×1、小弓スキル×1〕

 チラリとハティーを見ると、小首を傾げて微妙な顔をしている。

 大丈夫な様なので再度(読み取り・記憶)〔土魔法×2、火魔法×2、小弓スキル×2〕


 「何かが身体から抜けていく感じがするわね」


 「何かって・・・どんな感じなの?」


 「そう・・・ねぇ~。敢えて言うのなら、魔法を使った時に似ているのかな」


 森の浅い所とは言え、ハティーの調子が悪くなるのは不味いので読み取りを中止する。

 今日の収穫は、魔法とスキルを含めて6回の読み取りと記憶で相手に異変を悟られるって事。

 エレノアの時は氷結魔法を五回読み取りと記憶をして気分が悪くなり、今回は魔法を四回とスキルを二回読み取って、多少異変を感じた。

 エレノアより数が多くても感じる度合いが違うのか、魔法を使い慣れた者と授かったばかりの者との差か。


 「フェルナン、俺のは判るか?」


 キルザか・・・(読み取り・記憶)〔弓スキル×1〕・・・(読み取り・記憶)〔弓スキル×5〕と五回読み取りと記憶を連続したがけろりとしている。


 「どうした、判らないのか?」


 「キルザは弓のスキルを授かっているね」


 「それだけか?」


 「それだけとは?」


 「いや・・・弓のスキル以外にも何か判ったのかと思ってな」


 「弓のスキルしか判らなかったよ。他にもスキルを持っているの?」


 「俺は斥候のスキルも有るぞ」


 「それって、訓練して習得したスキルだよね。授かったものしか判らないよ」


 キルザと話しながらコークスからスキルを記憶するが〔短槍スキル×5、長剣スキル×5〕と読み取ってもけろりとしている。

 魔法を記憶すると変化があるのに、スキルは変化しないのか?

 未だ未だ判らない事だらけだが、俺の未来は何とかなりそうだ。


 * * * * * * *


 索敵と隠形スキルをフル活用して、定期的な夜の散歩に出掛ける。

 尤も、散歩と言ってもホニングス男爵の執務室の偵察だ。

 月初めの授けの儀の夜にやってくる崩れた感じの男で、名前は〔カディフ〕どうもホニングス侯爵家の汚れ仕事を請け負っている様だ。


 ラノベで知る男爵邸としては大きなお屋敷は、侯爵家の援助で建てられた様で侯爵家のコントロール下にあるのは間違いない。

 侯爵権限で貰った男爵位、しかも親子となればコントロール下にあるのは当然か。

 今夜の話は少々不穏なもので、巣立ちの儀が終わると俺を使いに出す取り決めときた。


 「手筈は整っていますので今暫くの辛抱ですよ」


 「判っている。まったく、あの女が簡単に妊るからこんな事になる。悪評が立たない様に此まで育ててやったのだ、最後くらいは役に立って貰わねばな。預けたフンザのあぶれ者達と名乗るパーティーも、巫山戯た名前に相応しい最期にしてやる」


 「最近、奴等は結構腕を上げている様ですが大丈夫でしょうね」


 「冒険者如きが少々腕を上げたところでどうとでもなる。それともお前達はそれ程弱いのか」


 「我々がしくじった事が在りましたか。警備の者が居たところで、所詮は冒険者上がりの連中ですよ。お任せ願います」


 猫と罵られるが、1/4の猫人族の血が俺の聴力を格段に上げてくれている。

 お前達の思い通りに動いてたまるか!

 俺を使ってフンザのあぶれ者達を利用する気なのは厄介だが、明るい未来の為に思いっきり歯向かってやるぞ。

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