第3話 神頼み

 狩りの後で一番嫌いな魔石の抜き取りタイム、臭くてグロい猿の様な奴の胸を切り裂き腕を突っ込む。

 暖かくヌメヌメとして中で心臓の下辺りを探り小指の先程の魔石を探り当てて引き千切る。

 取り出した魔石は、親指程の大きさの肉に包まれている。

 肉から魔石を取り出し、ウォーターで洗い流してクリーンで綺麗にする。


 六頭目の魔石を取り出している時に何かの気配を感じた。

 急いで腕を洗い手槍を拾い上げて周囲を見回す。

 手槍はコークスの借り物で子供の俺には大きすぎるが、ナイフ一本よりはましだろうと貸してくれている。

 獣によっては逃げなければいけないが、コークスの財産を放棄して逃げる訳にはいかない。


 俺の動きに休憩していた四人に緊張が走り、静かに立ち上がる。

 遠くからガサゴソと藪を掻き分けて何かが近づいて来るので、手槍で方角を示して人差し指を立てる。

 ウルフやドッグ系の奴ではない、彼奴らは殆ど音を立てずに近づいて来るので違うと判る。


 手槍で示した方角の草叢が揺れるのを見て、ホーンボアだろうと見当をつける。

 コークスに告げると「だな」と一言言って俺から手槍を受け取り仲間に手を振る。

 キルザが素速く右手に離れて行き、ハティーが左に移動していく。

 俺の前にコークスとボルトが立ち、左右に少し離れて長剣を引き抜き手槍を構える。

 俺は彼等から離れて藪の陰に避難し、成り行きを見守る。


 揺れる草叢から顔を出したのは紛れもなくホーンボアだが、体高が1.2~1.3メートルの大物だ。

 俺達に気付いたが、さして気にする風も無く地面を嗅ぎ何かを探すように近づいて来る。

 コークスとボルトがゆっくりと近づき間合いをはかる。

 次の瞬間、弓弦の音とともにキルザの大物用の矢がホーンボアに深々と突き刺さる。


 ビクンっとしてホーンボアの動きが止まると、コークスが素速く踏み込み首筋にに短槍を突き入れる。

 〈ブヒューウゥゥ〉悲鳴にも似た鼻息を漏らしたホーンボアが、コークスに向けて突きかかろうとした瞬間ボルトが反対側から前足に切り込んだ。

 前のめりに崩れ落ちるホーンボアの至近距離には、何時の間にかハティーがいて心臓目掛けて小弓を引き絞り放つと、反対側からもまた矢が飛んできて突き立つ。


 見事な連係プレイでホーンボアを仕留めたのをみて、周囲を見回し安全を確認する。


 「久々の大物だな」

 「フェルナンも、よく気がついたな」

 「ああ、此処数ヶ月で索敵の能力が格段に上がったな」

 「本当よね、もう教える事は無いわ」

 「よし、ゴブリンの魔石を取り出したら、此奴をギルドに持ち込むぞ」


 コークス達がホーンボアを持ち帰る準備を始めたので、俺は急いでゴブリンの魔石を取り出すと手伝いにまわる。

 全員一番安いランク1のお財布ポーチ持ちなのでそれぞれが車輪や車軸ロープなどを取り出し組み立てを始める。

 何度見ても不思議な光景、ランク1とはいえ20万ダーラもするが便利な革袋。

 俺とハティーは適当な立木を切り倒してY字形に括り、ホーンボアの左右から差し込み持ち上げる準備をする。


 〈我、大地に願いてその力を借り、其の物を大地より持ち上げん〉


 ハティーの詠唱と共に横たわるホーンボアが地面から棒の様な物が伸びて浮き上がらせる。

 横たわるホーンボアの左右から入れた木に支えられ、持ち上がったところへ台車を入れてロープで固定する。

 後は揺れても落ちないようにがっしりと括りなおして町へ帰るだけだ。


 体高1.2~1.3メートル体長3.5メートルオーバーってところかな。

 日本で見た猪に似ているが丸々と肥えていて、鋭い牙と角が有る。

 草原から街道に出るまでが大変だが、車輪が地面にめり込んだり段差で押せなくなると、ハティーが土魔法で持ち上げて押しやすくしてくれる。


 * * * * * * * *


 ホーンボアを冒険者ギルドに持ち込み10万ダーラ、400~500kgの肉が採れると思うのだが安いと思う。

 1kgのステーキ一枚が約1,000ダーラ前後、400kgの肉が取れたとして40万ダーラ500kgで50万ダーラだ。

 角の有る奴からは魔石も取れるし皮も売れる事を思えばちょとなぁ。

 ゴブリンの魔石が3,000ダーラ×7個で21,000ダーラ、薬草が全部で23,300ダーラ。

 合計144,300ダーラ。


 フンザのあぶれ者達が140,000ダーラ取り、残り4,300ダーラが俺の取り分。

 一応冒険者見習いって事で俺を此のパーティーに捩じ込んだ男爵が決めた迷惑料金だ。

 一日最低2,500ダーラの日当で、どれだけ利益が出ても最大5,000ダーラとコークスが突っぱねた。

 厄介者を押しつけられたフンザのあぶれ者達パーティーが、俺を邪険にもせずに色々教えてくれた事を感謝している。


 コークスをリーダーとする此のパーティーは堅実なパーティーで、今回一人頭35,000ダーラの稼ぎだが、40,000ダーラをパーティー資金としてギルドに預けている。

 各自が持つランク1のお財布ポーチも、こうやって手に入れて各自が持つようになったそうだ。

 その日暮らしの冒険者が個人で買うには、20万ダーラは高すぎるからだ。


 未だ陽も高いので食堂で乾杯するパーティーのおこぼれで摘まみの串焼き肉を奢ってもらっていた。


 「フェルナンは、そろそろ授けの儀が近いのじゃないの?」


 「来月です。ハティーさんの様な土魔法が欲しいな」


 「えぇ~、土魔法って地味だし結構疲れるわよ」


 「でも土魔法なら攻撃と防御に野営用のドームまで作れて便利じゃないですか」


 「それは自在に扱える者の台詞よ。土魔法って建設関係に扱き使われる事が多いのよ。治癒魔法や空間収納を授かったら、高級で引く手数多で楽な生活が出来るわよ」


 「それって貴族や豪商に雇われて、一生扱き使われるって事でしょう」


 「魔力が多くて魔法が上手ければの話よ。そんな事は皆知っているので、治癒魔法や空間収納を授かったら練習もしない者が結構いるそうよ」

 「大きな声じゃ言えねえが、授けの儀では男爵様の手の者が来ているってよ。有望な魔法を授かったら呼び出されると、専らの噂だ」

 「それ、私の時も声が掛かったけど・・・」

 「掛かったけど、何だ?」

 「馬鹿にされたわ! 魔力65とは情けないってね。もう少し魔力が多ければ、男爵様の麾下に加えて使わすのにって、笑いながら言われたわ」


 「それなんだよねぇ。俺なんて魔法を授かっても授からなくても、お先真っ暗だよ」


 「それよ、お前は巣立ちの儀の後は気を付けろよ。お前の事は町の皆が知っているので、今は生きていられるけどな」

 「一人前になれば、奴隷に落とそうが町の外に放り出して・・・」


 「そうなったら・・・罪はフンザのあぶれ者達に被せてってところかな」


 「お前! 恐ろしい事を言うな」

 「あの御仁なら遣りかねないぞ。表向きは良い領主を気取っているが、町の皆は本性を知っているからな」

 「そうそう、フェルナンを俺達に預けた魂胆も見え見えだったしな」


 「巣立ちの前になったら、パーティーから俺を放り出した方が良いよ」


 「それはその時に考えるさ」


 コークスの声に皆が頷いている。


 * * * * * * * *


 授けの儀の日を迎えてしまったが、生活魔法が少し上達しただけで魔力操作の練習も捗々しくない。

 どんなに考えても良い案が思い浮かばないので、困った時の神頼みをしてみるつもり。

 精神だけ異世界に転移をして魔法を授かる世界なら、神様は確実にいると思われる。

 なら神頼みも無駄ではないだろう。

 半ば自棄気味に考えて教会に向かった。


 何せ朝食時に家令のゼブランから銀貨を投げ与えられ、教会では余計な事を言わずに授けの儀に望むようにと言われている。

 ホニングス男爵の手の者が監視しているのは判っているので、何も言わずに授けの儀に望むさ。


 教会に入り、名前を告げて授けの儀の費用銀貨一枚を差し出す。


 「フェルナン・・・何処のお子かな?」


 「ホニングス男爵様の家で、お手伝いをしています」


 「ああ・・・其処に並びなさい」


 周囲から〈あの子か〉とか〈流石に、授けの儀は受けさせるのね〉〈魔法を授かっても授からなくても・・・〉と色々と聞こえて来る。

 教会に足を踏み入れてからねっとりとした視線を感じるので、珍しげに教会内を見回す振りをして周囲を観察する。


 フンザのあぶれ者達について草原に出ているので、鍛えられた気配察知スキルで監視者の位置は判っている。

 男爵邸で時々姿を見掛ける崩れた感じの男が、壁に背中を預けて見ている。

 隠形スキルを軽く使い気配を薄くして、監視の男に気付いたと悟られないように心がける。


 ラノベでお馴染みの授けの儀だが、1人ずつ神父様に導かれて祭壇に跪くと創造神アッシーラ様の像に祈りを捧げている。

 魔法を授かった者は、一瞬淡い光に包まれるので魔法を授かった事が判る。

 本人も判るのだろう嬉しそうに立ち上がり、神父様の示す魔力測定板に手を乗せている。


 「ミュルネ、風魔法と水魔法を授かっておるがスキルは無しだな。魔力は・・・47か。精進すればある程度は使えるだろう」


 「ラインド・・・残念だが魔法もスキルも無しじゃ」


 六人の内魔法やスキルを授かったのは二人、最後は俺の番だ。

 神父様に名を呼ばれて祭壇に上がり、創造神アッシーラ様の像に祈りを捧げる。


 『アッシーラ様、誰にも知られずに魔法が使えるようにして下さい。このままだと碌な目に合いません』

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