第51話 先に行く者とその背中を追う者1

 戦況は不利だ。せめて敵隊長に深手を負わせればなんとかなるのだが。



 ――クラウス! 俺達をおいて先に行け! ここは俺たちが食い止める!



 アンドレアスからのまさかの念話に一瞬思考が止まった。


 こいつはなにをいっているのだ。頭でも打ったのだろうか。早くエマに治療してもらわねば。



 ――バカをいえ! 俺だけ先に行けだと? みなを死なせるつもりか!?



 この暗殺任務の内容を知らされた時、俺たちは暗殺に感づかれてこのように足止めを食らった際どうするか2つの案を考えていた。


 1つはみなで一斉に強行突破。誰1人欠けることはなく、阻む者を倒し突破する。神のいる部屋に辿り着くまでなにが起こるかわからず、どんな敵がいるかもわからないため、人数が多ければ不測の事態でも対応できる可能性が高いからだ。


 2つ目は俺だけ先に行ってほか4人が敵の足止めをするというもの。これは強行突破が難しいほどの物量で敵が抵抗してきた際の策だ。1番ヴェルトバウム人相手に戦える俺を先に行かせてほかは足止めと守りに徹する。

 これは俺以外の4人が戦闘力だけで見ると劣っており、一緒に戦っても俺の足手まといになるとの考えから生まれたものだ。


 現状だと後者の方が作戦としてはいい。だがみなのリスクが高くなる。時間掛けていいのなら前者の方が確実だ。

 いや、時間掛けて各地に分配した魔剣と霊を回収したとしても、その時間で更に増援を呼ばれるかもしれない。

 戦場での数分は戦局を大きく変える。アンドレアスは今まで副隊長として実戦を経験してきている。少人数の部隊の扱い方をよく理解している。



 ――私たちは大丈夫だから!

 ――先に行って!

 ――私たちを信じてください。



 みな、リスクをわかってうえでの覚悟だった。



 ――わかった。でも魔剣は全部おいていく。これがないと俺も安心して先に行けない。



 方針は決まった。あとは懸念点である敵隊長だ。あいつに深手を負わせない限りみなは耐えることはできても倒すことはできないだろ。

 魔剣にも使用時間がある。魔剣あっての均衡だ。倒さないといずれやられる。



 ――少しの間耐えてくれ。



 宙に浮かぶ魔剣を俺の手前にすべて持ってきて、俺の前方を守るように魔剣を円状に並べて高速回転させる。

 この回転する魔剣に触れればどんな強化魔法を掛けた肉体でも千切りにされる。


 これを盾に突破し先に進む。


 この階層の出口へ向けて飛翔した。


 攻撃できるものならして来い。攻撃しても弾かれるか斬られるかのどちらかだろうが。


 すると前方から敵隊長がガントレットを振りかざして突進してきた。

 まあ、みすみす通すはずもないよな。


 衝突する螺旋状の魔剣とガントレット。

 魔力総量ならこちらが上だが、あの体躯から放つ拳の勢いは魔剣を上回り、魔剣は弾かれ四方八方に飛ぶ。


 千切りにするだろうと思っていた拳が勢いを殺さぬまま眼前に飛んできてギリギリのところでかわす。


 大振りの拳を振るった後で背中ががら空きだが、俺の手に武器は握られていない。


 俺は手に高濃度の魔力を込めた。

 俺がこいつに上回っているのは魔力量だ。その差を刻ませる。


 背中目掛けて手刀を繰り出す。

 だが敵隊長は咄嗟に身体をずらし手刀の当たる位置を背中から右肩に変えた。


 ガントレットのついた腕が根本から斬り落とされる。



 チッ、ここまでか。



 俺は敵隊長の背中を足場にして階層の出口へ跳躍する。

 魔剣もすぐさまみなの援護をしないとこちらも深手を負う羽目になる。



 ――ここはお願いします。ご武運を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る