第50話 地を染める流血と舞う剣4
10階に突入してまず目に飛び込んできたのはマルガがハゲ頭の大男に殴りかかろうとしている光景だった。
ハゲ頭の大男の片腕には2mは超える身長にも負けない長さの巨大な大剣型の魔剣と、もう片方の腕には分厚い金属製のガントレットが装備されている。
あんな巨大な拳で殴られれば
「アンドレアス!」
「分かってる!」
アンドレアスに指示するより先にアンドレアスは身体を動かしていた。
直後、振り出された拳がアンドレアスが持つ大盾に防がれる。拳と大盾がぶつかる音は先ほどの剣撃の音とは比べ物にならない爆音を発した。
拳の衝撃を抑えられずアンドレアスは後方へ吹き飛ぶ。だが大盾はしっかり敵に向けたままで攻撃はちゃんと防いでいた。
後方でランバートさんが杖を前に掲げて詠唱し、強化魔法を俺たちに付与する。
マルガを援護するため、なにも強化魔法を付与せずにアンドレアスは飛び出して攻撃を受け防いだが、次からは強化魔法が掛かった状態で攻撃を受けられる。防御は問題ないだろう。
魔剣を次元から10本取り出し、ハゲ頭の大男に射出する。
確実に殺す気で射出した時速100キロ越えの魔剣はガントレットと幅の広い大剣ですべて弾かれてしまった。
あの大男、やはりどこかで。
「お前はまさか、クラウス・ルートヴィッヒか?」
「隊長! ご無事ですか!」
上の階層から増援が駆けつけてきた。数は20ぐらいか。ほかは……。
世界樹の入り口で待機させた霊と視覚共有をすると外からも増援が来ているのを確認できた。まずいな、挟まれる。
――みなさん、後ろからも増援が来ます。数は10人ほど、注意して下さい。
――了解!
――エマ、私とアンドレアスに回復をお願い。
――わ、わかった。
態勢を整えなければ。
で、あのハゲ頭は隊長っていわれていたが、まさか。いや、あの時のか。
「クラウス・ルートヴィッヒ。懐かしい名ですね。久しぶりにその名で呼ばれましたよ」
「生きていたのか。ポイングの火事で死んだのかと思っていたが」
隊長の言葉を聞くに俺はやはり3年前に死んだ扱いになっていたらしい。
思い出したぞ、隊長。あの時俺に転移門の通行許可証を渡してくれたハゲ頭のおっさん。まあ通行許可証を見せずに強引に門を通り抜けたから貰った意味はなかったのだけど。
飛ばした魔剣を手元に引き戻し、引き戻した10本の魔剣のうち1本をアンドレアスの足元に突き立てて置く。
――使え、アンドレアス。通常の剣ではあいつらに傷を与えることはできない。
――すまない、恩に着る。
「くっ、まさか敵軍の軍服を着て帰ってくるとはな。叛逆者を成敗しろ! かかれ!」
「「「「「おおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
突撃してくるヴェルトバウムの戦士を魔剣を射出して迎撃する。だが魔剣の数は10本。1人1本で相手にしても敵の数の方が多い。霊を魔力にして活性化させて剣を作り射出するが、それでようやく五分五分。
1人に1本の魔剣と生成した剣で相手をしているがここにいる奴らは精鋭中の精鋭。魔剣が1本ごとき飛んできたところで対応できる。更に後方からの増援を考えるとみなを守りながら戦うのは難しい。このままでは……。
ただ数分は持つはずだ。
防壁周辺の各地に魔剣と魔力を与えた霊を分散している状況だ。それをここに集中させればこいつらなんて一瞬で殲滅できる。問題は魔剣と霊を呼び戻すために掛かる時間だが、ここを無事に切り抜けるにはそれしかない。
――こちらエント
――こちらソフィー。聞こえてます、オーバー。
――敵にバレました。これより第5フェイズに移行します、オーバー。
――了解です!
第5フェイズ。それは防壁周辺に展開していた魔剣と霊を呼び戻し、戦力を集中させること。そして防壁の外で待機していた連合軍が一斉にヴェルトバウム内へ向けて進軍する。
防壁の衛兵はほとんど死に、単なる壁と化したヴェルトバウムの防壁は容易く突破が可能になっている。
さて、問題は魔剣と霊が戻ってくるまでどう耐えるかだな。
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