第49話 地を染める流血と舞う剣3

 俺たちは転移門を使って中心街ツェントルムに来ていた。

 もちろん門を守る衛兵はいたが警報を鳴らす暇も与えず殺した。


 普段は賑わうツェントルム大通りも深夜とあって人影1つない。


 何事もなく突き進み、世界樹の中に入る入り口手前で物陰に隠れる。

 入り口のところに衛兵が2人立っている。


 すでに自身の身体に肉体強化の魔法をかけてすぐさま臨戦態勢を取れるよう警戒している。

 それもそうだ。騒ぎは防壁周辺で離れているとはいえ襲撃を受けているのだ。警戒しないはずがない。


 俺は次元にしまっていた魔剣を1本取り出す。それを浮遊させてマルガさんの目の前で持っていき停止させる。



「ではマルガさん、お願いします」


「これ、やっぱ魔力の気配消すの難しいんだけど……まあ仕方ないか」



 マルガさんは渋々魔剣を受け取った。


 魔剣は魔剣そのものが魔力を持つ強力な武器だ。だが暗殺向きの武器ではない。

 魔力を持つということは魔力の波を放っているということ。魔力感知で気づかれ兼ねない。


 マルガさんの戦闘スタイルは魔力の波を抑えて魔力感知に気づかれず背後を取って敵を暗殺する隠密スタイル。

 マルガさんの戦闘スタイルでは魔剣は相性が悪い。


 だがヴェルトバウムの戦士の肉体は首ですら剣で斬り落とせないこともある。肉体強化でより強靭になった彼らを一瞬で暗殺するのは困難だ。


 時間を掛けて戦って殺す分には普通の剣でも構わないが、そんな隙を与えると警報を鳴らして仲間を呼ばれる。

 ゆえに今回の武器は魔剣でなければならない。


 魔剣を使った暗殺は難易度が高いが、俺はマルガさんならやれると信じている。俺の背中にナイフを刺した、あの技術があればきっと。


 入口の衛兵はマルガさんに任せて、俺は目を瞑って世界樹内を霊との視覚共有を使って敵がいないか確認する。

 世界樹の中の構造は9階まで学校になっていて10階からは直径60m高さ90mほどの円柱の吹き抜けが何層も重なっている。


 9階まで人の姿は確認できなかったが、10階からヴェルトバウムの戦士が警備をしている。

 9階までは侵入は容易そうだが、問題は10階からだな。



「片付いたよ。ただこの魔剣、長く握ることはできないな。もって30分。それ以上だと精神に異常をきたすかもしれない」



 目を開けるとマルガが血に濡れた魔剣を握って戻ってきた。


 魔剣は長時間持っていると死に至る。その時間には個人差があり、魔力量が多いほど長時間握れる傾向にあるが、マルガはヴェルトバウム人のような膨大な魔力量を持っていない。



「わかりました、急ぎましょう」



 物陰から出て、暗殺された衛兵を通り越し世界樹内部に侵入する。敵の位置は把握済みなため下手な音を立てない限りは敵に気づかれる心配はない。


 ただ静かなことに越したことはない。ここからは念話を使って指示を出す。


 階段を9階まで上がり、ここから10階が目前のところでみなに静止を促す。



 ――止まってください。この先敵がいます。マルガ、ここもお願いします。


 ――了解、隊長。



 隊長呼び、未だに慣れないな。よくこんな子供の指示を聞いてくれる。



 マルガは迷いなく10階の方へ駆けて行った。魔剣の使用時間もある。慎重にかつ迅速に敵を無力化していかなくてはいけない。


 しかし、この部隊が設立をソフィーから知らされたときは驚いた。俺が隊長だなんて。


 確かに土地勘や索敵など、総合的に見たら適任ではあるのだが、まだ俺は15だ。

 でもみなは俺について来てくれる。みな、この戦いに掛ける思いが俺たちの魔力の炉心を回すのだろうか。



 カキーーーン!!



 甲高い金属同士がぶつかる音が10階から聞こえてきた。


 視覚共有で10階の様子を見ると魔剣を抜いたヴェルトバウムの戦士1人とマルガが対立していた。

 この男、どこかで……いや、そんなことはどうでもいい。



 ――総員! 突撃! マルガの援護に入れ!



 警報が世界樹内部で鳴り響く。


 暗殺に失敗したか。少し面倒だが増援が来る前に上層へ突破すればいい。


 さあ、電撃戦の始まりだ。

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