霊障するヴェルトバウム
第47話 地を染める流血と舞う剣1
兄を成仏してから約1か月半が経っただろうか。俺はヴェルトバウムに帰ってきていた。
今もこうして星がきめ細かによく見える町、ポイング。俺の実家があった場所。
里帰りといえば里帰りなのだが、こういう形で里帰りになるとはな……。
俺は近くで舞う魔力で生成された蝶を対象として念話の魔法を使った。
――こちらエント
――こちらソフィー。聞こえていますよ、オーバー。
――感度良好。ポイント01に侵入成功、ポイングの防壁の門は制圧完了。第1フェイズ完了しました。敵はまだ気づいていません、オーバー。
――了解、作戦を続行してください。健闘を祈ります、オーバー。
――了解。
俺はこの国の神デバライバを暗殺するためここに来ている。失敗は許されない。逃げるなんて選択肢はない。たとえ上層部からいいように扱われようとも俺たちは戦争の素を絶つと決めたんだ。
時刻は深夜3時過ぎ。ヴァルブルクから1番近い町ポイングが侵入地点に設定された。このポイングは第2フェイズから第3フェイズへ移行するまで身を隠す大事な地点だ。
深夜とあって衛兵以外起きている者はいない。
というか3年前の火事で村の住民はほぼ死亡または行方不明。生き残った人も再び盗賊に襲われるのを危惧してほかの町へ移住。今ポイングに住んでいるのは残った豊かな農地を利用しようとする事業者が数名いるだけ。そのように潜伏中の諜報部隊から情報を得ている。
「ここがクラウスの故郷か」
「豊かな土地ですが、何もないですね」
アンドレアスもランバートさんも、その後ろを歩くエマとマルガも俺のわがままに付き合ってくれた。
「あ、あっちにあるのって」
「墓地ね。あとエマあまり大きな声を出さないで」
俺のわがままは母と親父に会うことだ。
墓地の方へ歩んでいくと大きな墓石があった。墓石には3年前に亡くなった人たちの名前が全員彫られている。
その墓石の周りにはたくさんの霊が宙を浮いていたが、その中に懐かしい魔力の波長を感じる。
そして、ようやく再開できた。
「母さん、親父、ただいま。遅くなった」
――クルゥ、なのか?
――良かった、あんたが無事でいてくれて。ニナは? 姿が見えないけど、それに後ろの方々は。
「ニナは無事だよ。今はヴァルブルクで元気にしている。後ろの人たちは俺の仲間だ。俺は今ヴァルブルクの軍人をしている」
――それって敵国に寝返ったってことか?
――そんな、あんたに一体何があったっていうのよ。
「それはまあ、色々あった……。ごめん、今日は時間がないから。2人はここを離れて。また後でゆっくり話そう」
――後でって久しぶりに会ったんだぞ! 話すことがたくさんあるだろ!
――そうわよ。あんた、そんな格好してここで何するの?
「親に使いたくはなかったんだけどな……」
――ここを離れて、お願い。
俺は霊である母と親父に命令を下した。魔法により2人は素直に言うことを聞き、防壁の方へとこの国から離れるように歩み始める。
「すみません、お待たせしました。予定時間を少し超えてますね、作戦を再開しましょう」
「おい、いいのかよ。もう会えないかもしれないんだぞ」
アンドレアスも、そしてほかの3人も俺に気を使っているみたいだ。
俺たちはこの暗殺任務で生きて帰れるかもわからないと知っている。知っててここに来ている。
ただ、その気の使い方は本当に無用なものだ。
「なにをいってるのですか。死んでも霊になって会えるじゃないですか。だから本当に心配無用ですよ」
俺の言葉を聞いて皆が確かにと納得してしまった。
まあでも死ぬつもりはない。死んではニナのために手を差し伸べることができない。
「では、第2フェイズを開始しましょう」
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