第46話 斬り倒すためだけの部隊

 エルマー閣下の執務室にはエルマー閣下とソフィーの姿があった。

 エルマー閣下は紅茶を飲みながら夜空を眺め、ソフィーは書類が置かれた机を前に座している。



「突然呼び出して悪いな。第7魔法師部隊の方は何も問題はないな?」


「はい、特に何も。お父様、今日はどういった要件でしょうか」


「書類の1枚目をめくりたまえ」


「これは……第7部隊の解散!? それと、新部隊の設立……」


「解散と言っても少し変わるだけだ。数字の多い部隊名では格好がつかないしな」


「メンバーは……これって」


「部隊名エントファーナー。旧第7魔法師部隊からソフィー・シュルツを抜いたメンバーで構成された特殊部隊だ」


「何故ですか!? お父様!」


「質問は後にして貰おう」


「くっ……」


「これは国王直属の軍師マルクス・ボック君と相談して設立した部隊だ。目的はヴェルトバウムの君主デバライバの暗殺。エントファーナーには悪しき神を倒した英雄になって貰う。ただ、デバライバは常に国の中心の世界樹を行動範囲としているため警備網を突破するのは容易ではなく暗殺は失敗に終わる可能性が高いとマルクス君は考えている。まあこの部隊は仮に暗殺に感付かれても撤退することは許されないんだけどね」


「撤退が許さない……」


「要は刺し違えても敵に打撃を与えろということだ。暗殺に感付かれても警備網を無理矢理突破しろ、神と真っ向から戦うことになっても戦え。なんならできるだけ敵に打撃を与えたうえで部隊全員死んでくれれば1番ありがたいまである」


「それって、特攻しろっていう……」


「仮に神を倒したなら彼らは英雄だ。だが英雄が生き残れば私の褒美は少なくなるだろう。それに大いなる力は災いの素だ。あんな死霊魔法師とかいう猛獣、手綱を握れる奴がどこにいる。神を倒す戦争という晴れ舞台で散るんだ。戦士としては本望だろう」


「お父様! そんなのはあんまりです! そんなに重要な任務を請け負う部隊なら何故私がメンバーに入っていないんですか!? 私は今まで彼らと共に任務を熟してきました! 何故!?」


「死にに行くような戦場にお前を送る訳がないだろ。お前は我がシュルツ家の後継だ。お前は伝達隊に入って安全なところで情報共有の手足をしていればいい。お前の魔法も戦闘向きではなく情報を虫で知らせた方が有意義だろう」


「そんな……そんな……」


「次のページをめくりたまえ。次はヴェルトバウム陥落作戦の概要だ。まず最初にヴェルトバウム軍の武器庫を襲撃し人造魔剣をできる限り奪取しクラウスがその人造魔剣を死霊魔法による浮遊で操る。その後人造魔剣使って外壁付近に駐屯する衛兵を攻撃し、その衛兵が装備している魔剣も回収する。騒ぎが外壁周辺で起こっていることを知った中央地区のヴェルトバウム軍は外壁に戦力を割く。その隙をついて世界樹内に侵入し、神の暗殺へ実行する。もし仮に神を殺せなかったとしても敵の主力武器ではある魔剣を奪っているため戦力は激減。更に混乱状態。そこを周辺諸国との連合軍で一気に攻め入る。そのような作戦になっている。お前にはヴェルトバウム全体の状況を魔法で観測し、適格に敵の弱点を突くように指示を出して貰う」


「これはもう……決まったことなのですか?」


「ああ。今更他国に頭を下げて作戦を変更するなんてことはできない。皆、1か月後に向けて戦力を整えている状況だ」


「分かりました……じゃあこの資料を部下たちに共有すればいいのですね」


「もう部下ではない。あんな優秀だからといって罪を逃れた掃き溜めの集まりはこの戦いでなくなるのだ」



 第7部隊は問題児の集まり。

 暗殺業をなりわいにしていた女と非人道的な人体実験を繰り返していた女、上官を殺した男に魔法研究で予算を偽っていた男、そして手に負えないバケモノ。


 いくら優秀だからといっても彼には彼なりのルールがあった。



「もう要件がないのであれば失礼します」


「ああ、これで以上だ」


「では」



 ソフィーが退出し扉を閉める。彼女は扉を閉める際に音が鳴らないよう閉めるのだが、今回は音を鳴らして去っていった。

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