第45話 一緒にご飯を2

 遠征から帰還し1週間が経った。


 重症を負っていたアンドレアスが退院し、この寮部屋に再び全員が揃えるようになった。


 それが理由かは定かではないが今夜の食卓には肉が出て豪勢なものになった。



 うーん。こんな祝いの席でいうことでもないと思うが、早めにいっておきたい。



 俺はあることをみんなに告白しようと思っていた。

 できるだけ早く、みんなが集まるこのタイミングで。



「では皆さん、いただきましょうか」


「あ、ソフィー、ちょっと待ってくれ」



 グラスを持ってみんなで乾杯しようとしていたところを直前で静止させる。


 もう、この人たちに黙っておきたくないのだ。



「俺、みんなに告白しなければいけないことがある。それは……俺がヴェルトバウム人だってことだ」



 いい切った。ようやくだ。

 みんなの驚きの声とざわめきが聞こえるが、そんなの予想の範疇だ。



「3年間、ずっと隠しててごめんなさい」


「クラウス、何で言っちゃうの!?」

「そうだよクラウス君! 私ずっと誰にも言わずにしてたのに! あっ」

「嘘だろおい。ってか2人は知ってたのか!? どういうことだよ!?」

「これは予想外でした。ただ、今考えればクラウス君のその魔力量にも納得がいきます」

「私は最初から怪しいと思っていたぞ。まあ確証がなかったから問い詰めることはしなかったけど」



 みんな混乱している。ああ、これは俺の口で全部話さなきゃ。


 話すんだ。そう、話す。今なら話せる。俺はこの人たちを信頼している。



「すべて話しますから」



 俺はヴァルブルクに来るまでのこと、ヴァルブルクに来てからのこと、すべてを話した。

 もちろんティーナさんやニナのことも、ソフィーとエマが俺のことを知っていることも。なにもかもだ。


 この先、俺は秘密を抱えたままだと勝てない敵がいると思ったから。

 中途半端ではいられないんだ。



「クラウス、お前がどんな道を歩んできたか分かった。で、そんなことを暴露して俺達にどうして欲しいんだ」



 問い掛けるアンドレアスの目は真剣な眼差しだった。秘密を知らなかったランバートさんとマルガも同じ眼差しをしていた。



「知って欲しかっただけです。ただそれだけなんです」


「知って欲しかったって……俺らが秘密をばらそうとは考えないのかよ。そんなこと、言わなければよかったじゃねぇか」


「みんなは、秘密をばらすような方ではないと思ったからいっただけです」


「「「…………」」」



 3人は黙ってしまった。

 返す言葉がない、というわけではないだろう。おそらくその逆、いいたいことがあり過ぎて喉で詰まってしまっているのだ。


 ばらすのであればソフィーとエマが秘密を共有して隠していたことは黙ってて欲しい。罪を受けるのは俺だけでいい。



「分かった。俺は黙っておくよ」

「私も黙っておきます。クラウス君がどんな子かこれまで部隊を共にして分かっていますので。話してくれてありがとう」

「私は……ああ、もう。分かったよ、皆ばらす気なんてないんだろ。誰にも言わないよ」



 嬉しかった。

 みんなヴェルトバウム人に酷いことされてきた人たちだ。ヴェルトバウムを憎んで、何度も戦って、強い憎しみを抱いている人だっているはずだ。それなのに。



「じゃあ決まりだな。ったく、飯が冷めちまったぜ」

「そうですね。でもちょっと蒸し焼きにすれば大丈夫そうです」

「お、流石ソフィー譲。クラウス、お前のせいで飯が冷めちまったんだからソフィー譲に手間取らせてること謝れよ」

「え、そんな謝らなくても」

「本当にごめんなさい!」

「ちょっとクラウス!」



 その場には微笑が零れていた。みんなの対応に感謝しかなかった。

 俺は、こんな素敵な部隊に所属していたんだな。



「先に乾杯するか! 皆コップ持てー。じゃあ行くぞ、乾杯!」

「「「「かんぱーい!」」」」


「みなさん、ありがとうございます。乾杯」


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