第44話 一緒にご飯を1
兄と喧嘩をした。
7つ離れていて幼い時にやさしくしてくれたけど、兄が魔法剣士中等学校の寮生活をしてから会う機会なんてほとんどなかったし、俺が12に頃に戦死して関りがどれだけあったかといわれるとそこまでない。
森を出るとランタンをぶら下げて森の入り口に来ていた。
「遅かったので何かあったのかなと思い来ちゃいました。何かあったのですか? ってアレ?」
「いや、別に。なんでもないよ」
ああ。ソフィーに語るようなことでもない。
これは兄弟の問題だ。
「クルゥ、何で泣いているのですか?」
ソフィーの問い掛けに俺は疑問に思った。俺が泣いている?
そういわれると頬に滴る水滴があるのを感じた。
手で目を軽く拭き取るようになぞり、手が濡れたことを確認する。
「これは……知らん。なんで泣いてるかわからない」
いわれて初めて気がついた。俺はいつから泣いていたのだろうか。
そもそもなんで泣いているのだ。わけがわからない。
「そうですか。聞いてほしくなければ追求いたしません。でも聞いてほしいのであれば私はいつでも相談に乗りますから。それより一緒にご飯食べませんか? 1人で食べるのはちょっと寂しくて待ってたんです」
「そうだな。食べるか」
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朝方にはボヘミツェを出て、昼前にはヴァルブルクに帰ってきた。
帰ってきてから報告書の作成とかいろいろやることがあったのだが、ソフィーが俺の分まで代わりに書いとくからといわれ、今日はゆっくり休んでといわれた。
気を使わせてしまったな。あとで礼をいわないと。
ゆっくり休んでねといわれたが、なにかをしたい気にもなれず俺はティーナさんの店に来ていた。
無論、買い物ではなくニナに会うためだ。いつもの2階のテーブルで一緒に飯を食べる。
「クルゥにぃ、今日どうしたの? なにかあった?」
「いや別に。なんで?」
「いや、なんとなく」
ニナは知らなくていいことだ。ニナはおいしい飯を食べてなにもない日常を送ってくれればそれでいいのだ。
「これ美味しいね。これ川魚?」
「いや湖で取れたから湖の魚? まあ川魚みたいなものだな。ヴァルブルクの近くにはたくさんの湖があるからな。水がきれいでこれはそこで取れるマスだ」
大きくなったな、ニナ。もう12だもんな。
女の子は成長が早いというが、もう小さな大人の女性と変わらないぐらいの大きさだ。
「ありがとな、ニナ」
「えっ?」
「ニナの姿見ていると元気が湧いてきたよ」
「今日ほんとにどうしたのクルゥにぃ。やっぱおかしいよ」
「おかしくないよ。妹を見て元気が湧かないお兄ちゃんなんていないよ」
「おかしいよまったく。そういうのってなんて言うのか知ってる? シスコンって言うんだよ」
「なんだシスコンって。てかどこでそんな言葉知ったんだよ」
たぶん、近いうちに大きな戦争が起こる。
でもその戦争を乗り越えれば、ニナを買い取るお金は溜まりきるだろう。
つまりニナは自由の身になる。そして俺も。
「ニナ、川魚じゃなくて海の魚が取れる町に行ってみないか? 以前から俺あこがれてたんだ。商人が北の方から持ってくる塩がどんなふうに取れているのか。海ってどれだけ広いのか」
ニナは魚を口に運ぼうとしていたフォークが途中で止まり、口が空きっぱなしになっている。
「それって……」
「まあ正確な時期はわからないけど、近いうちだ」
「そう。ここともお別れになるのか」
「お別れといっても来たければまたここに帰ってくればいい。それかここが居心地いいならここにするか?」
「うーうん、クルゥにぃが行きたいところ、私も行きたい。でもヴェルトバウムじゃないんだ」
「それは……まあ必ずしも故郷に帰る必要はないかなと思って。ニナもヴェルトバウムがどう思われてるか知ってるだろ?」
「うん」
「まあ、ゆっくりでいいさ。ヴェルトバウムも少し立ち寄るぐらいだったらできそうだし」
「うん、そうだね」
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