第43話 兄2
「その言葉を聞けて嬉しいよ」
兄は俺にあの世界樹を斬って欲しかったのか。いつから、どうして……いや、大体予想がつく。
兄は死んでから外の世界を見て回った。俺もニナが攫われてから外の世界を知った。
内側から見えなかったものが外側から見えてきたのだ。
「兄貴、でもどうやってあの世界樹を斬り落とすんだよ。燃やせばいいのか? それとも除草剤撒けばいいのか?」
「いや、燃やしたり枯らしたりすればいいのなもうとっくに誰かがやってるよ。そんなことをするよりもっと簡単な方法がある。神を殺せばいいのさ」
「神を殺す?」
「ああ、あのデバライバという神をな。世界樹はデバライバによって管理されている。ただその管理者が居なくなってしまえばあれは勝手に崩壊するだろう」
「崩壊するのか? どうして」
「俺も根拠があって言ってるわけではない。ただあんな巨木、人間の手に負えないと思ってな。それにヴェルトバウムはデバライバがいるからこそ国が成り立っていると考えている。もしデバライバがヴェルトバウムからいなくなればどうなるか、深く考えなくともどのような方向へ傾くかは容易に想像できるだろ」
まあ大体の方向性はわかった。
あの国は良くも悪くも血の気の多い国だ。まず権力争いが起こる。混乱は避けられないだろう。下手すれば内戦も起こりうる。
信仰心の強さも問題だ。今まで存在してきた神が急にいなくなるんだ。これも混乱の原因になる。新しく王が決められても従う気持ちは薄いだろう。
そんな混乱した内政状態で周りは敵国しかいないんだ。
「ああ、神を殺せばあの国は終わるな」
別に斬るまでもない。俺が神を殺してしまえば勝手に国力が弱って、そこを周辺国に叩かれて、その場から離れればヴェルトバウム人は狂い死ぬのみ。
空想ではあるが、くっきりとイメージがつく。
「じゃあクルゥ、もう1度確認するがニナのことが大事なんだな?」
「ああ、もちろんだ」
「仮にヴェルトバウムにいた頃の友達を殺してでも、お前はニナを選ぶか?」
「それは……」
答えが出せないでいると兄がこちらに歩んできた。俺の手が届くほど近い距離に。
「これは兄として最後にしてやれることになるかもしれん。……クルゥ、俺の胸に手を当てろ」
真面目な顔でそう言う兄に、何のために手を当てるのかわからなかったがとりあえず手を当てた。
「こうか?」
「ああ。……お前、悩んでるな」
「まあ……」
「じゃあ選べ。ヴェルトバウム人を全員死なせる覚悟があるのなら今俺を祓え。死なせる覚悟がなかったらニナと共にどこか遠いところに逃げろ」
「は? どういう」
「中途半端な覚悟でやったら、お前は絶対後悔するぞ」
「ふざけるなよ! なんで兄貴がいなくならなきゃいけないんだよ!」
「俺はお前の兄だ! だからお前が命の重さをどう考えているのかよく分かっている。お前、人が死んでも仕方ないで済ませるだろ?」
「そんなこと……なにをいってんだよ……」
ほんと、なにいってるかわからない。
人が死ねば霊になるし、霊になればほとんどのことができなくなって、長い間この世を彷徨い続ける。生き残ったものは悲しむし、でもそれは一時の別れだけど。
いや、死ぬのはやりたいことがやれなくなったりするからよくないことだ。
死について軽い気持ちとかなったことないし、なにいってんだよ兄貴!
「選べよ。兄だから分かるんだよ。逃げるな、選べ。俺を魔力に変えてしまうことなんて簡単だろ? 子供のころからよく霊を魔力に変えてたではないか? さあ選べ、故郷の人を死なせることができるのかできないのか」
様々な感情が俺の中でぶつかり合っていた。
その感情が突然1つになった。
ああ。うるせぇなぁ。
俺の中でなにかが壊れた感じがした。だからってほかの感情が湧くことはなく。
そんなに消えたいなら消えろよ。
気がつけば俺の手には魔力の塊が握られていた。
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