第41話 戦争の終わり、そして始まり5
俺たちはボヘミツェの町を歩いて回り、魔剣をポルターガイストで次々に回収していた。
町は酷い有り様で、瓦礫に挟まって逃げられず炭化して亡くなった人や、炎に巻き込まれなくても煙で燻されて亡くなった人、魔剣に斬られて上半身と下半身が分かれてしまった人など。
その時の惨劇を見ていなくとも容易に想像できる光景だった。
これが、俺の故郷の人たちがやったことなのか。
苦しかっただろうに。
俺は幼少期、こんな殺戮者を憧れにしていたのか。
彷徨う霊は皆怒りで満ちている。怒りをぶつけるのはこの町を襲って死んだヴェルトバウムの戦士たち。
ヴェルトバウムの戦士たちは肉体から解放されて、そこで初めて自分のやった罪深さを理解する。葉っぱで洗脳されてやったこととはいえその事実はなくならない。
そして霊たちが最終的に怒りをぶつける方向は世界樹に向けられる。
あんなものがあるから。あれがあるから戦争が起こるのだ。人々を争わせて楽しいのかよ。もっと違う人生を生きたかった。
あんなものがあるからか。確かにそのとおりだ。
あれがなければ周りの国は飢餓に苦しむこともなければ血を流す必要もなかった。
ニナが安心して暮らせる世の中になっていたかもしれない。
「あとヴェルトバウムの残党が残っているかもしれませんのでご注意ください」
俺のファンだというマルクスが常に何か喋っている。ほんと口が回る男だ。
もうある一定を境に耳を傾けてない。聞き流すか、聞き取っても言葉を返すのは辞めた。こうでもしないとコイツは話が止まらない奴だ。そんなタイプな気がする。
残党か。こんな焼野原で隠れるところも限られるし、瓦礫に埋もれて隠れていたとしても煙に燻されてもう息はないだろう。
まあ警戒したことに越したことはないが。
霊と視覚共有をして不意を打たれる心配はほぼ皆無。迎撃もポルターガイストで上空に浮遊させた大量の魔剣を一斉に掃射すればどんな敵でも一溜りもないだろう。
「おや、クラウス殿。こちらにも魔剣がありましたよ」
マルクスが魔剣を見つけてくれたようだ。この調子でいけば回収作業は今夜中に終わりそうだ。
足を運ぶ方向へ大まかに魔力感知を掛ける。するとマルクスの近くに魔剣の反応があった。それと近くに微弱な魔力を感じる。霊の魔力とはまた違うし……。
刹那、考えるより先に魔力の正体が瓦礫から姿を現す。
筋骨隆々の2メートル半近くはあるだろう大男、ヴェルトバウムの戦士だ。
その手には魔剣が握られていて、振りかざした魔剣はマルクスを射程に捕らえていた。
「ひぃいいいい!!」
大男が魔剣を振り下ろすより先に宙に浮かせた魔剣を3本射出する。1本目は魔剣を振り落とそうとする腕に、2本目はマルクスから距離を離すために屈強な胴体に、3本目は絶命させるため柔らかい首に。
だが大男は魔剣の射出に気がつき1本目の魔剣を自分の魔剣で弾く。弾いて見せたものの威力を殺しきれず腕が後ろに吹き飛びそうになる。
2本目も同じように弾こうとするが間に合わず胸に魔剣が突き刺さる。
胸の激痛に大男は怯み、3本目を対処する余裕はなかった。
頭で描いた通りにはならなかったが、綺麗に大男の首が吹き飛んだ。
「おお! お見事! これは素晴らしい! この戦術なら万単位の大軍ですら制圧できるでしょう!」
この男はなにをいってんだか。殺されかけてた癖に、相手がもう動かないと知ると俺の戦い方を過大評価気味に称賛してくる。
人がもう自由に身体を動かせなくなったというのに。しかも死んだ直後の霊の目の前でテンションを上げるなんて、敬意の欠片もないな。
「これはヴェルトバウム合同侵攻の基盤にするべき戦力でしょう」
ヴェルトバウム合同侵攻?
「マルクス殿、ヴェルトバウム合同侵攻とは何ですか? 初耳なのですが」
「おっと、口を滑らせてしまいました。まあ近いうちに知らされる予定でしたし、もうここで言って問題ないでしょう」
ソフィーも知らないことだったらしい。王国直属の軍師っていってたし貴族でも一部の人しか知らない機密なのだろう。
「我が国はボヘミツェとの戦争でしばらくヴェルトバウムへ戦力を回せない状況でありましたがそれも今日でボヘミツェとの戦争は終戦を迎えました。よってヴェルトバウムへ戦力を回せるようになったわけです。そしてこの時を待っていたのは我が国だけでなくヴェルトバウムの周辺国全てが待ち望んでいました。全てはヴェルトバウムを落とすため。過去の歴史ではヴェルトバウムを我先に占領しようと戦うもどの国も敗北してきましたが、ついに同盟を結び足並みを揃えてヴェルトバウムを落とす算段が付いたわけです!」
「つまりヴェルトバウム周辺諸国による連合軍というわけですか?」
「イエス、その通りです。今までにない大規模な戦争が始まります! これは最高の舞台にしなければ!」
そういって俺の方を見てくるマルクス。これは最悪な奴に目をつけられたな。
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