第39話 戦争の終わり、そして始まり3
エルマー閣下に呼び出された俺とソフィーは執務机の前で立たされていた。
エルマー閣下はイスに座りながら紅茶を片手に報告書を読んでいる。おそらくボヘミツェの件だろう。
「魔剣で武装したヴェルトバウム軍がボヘミツェを滅ぼしたという情報はもう知っておるか? ソフィーよ」
「はい。遠征していた隊員から情報は得ております」
「フン……なら話が早い。現在ブラッツ卿の兵らがボヘミツェの戦後処理を行っている。まあ戦後処理といっても奴の目的はヴェルトバウム軍の使っていた魔剣の回収だ」
ブラッツ卿は確か、ボヘミツェとの国境付近に領土を持つ方だったか。エルマー閣下とは権力争いで仲が悪いと聞く。
俺がこの3年間、特に何の戦果を出さなかったのもブラッツ卿の存在が大きい。
ボヘミツェと戦争をするにあたって優秀な戦力を国境に回さなければならない。例えば俺みたいな死霊魔法師がブラッツ卿の兵へ引き抜かれる。
一時的に俺がブラッツ卿の部下になるということだ。
ボヘミツェとの戦時中、俺が下手に活躍してしまえばこの街を離れることになる。ニナのいる街を離れるなんてゴメンだ。
エルマー閣下は俺が引き抜かれるのをいろいろ手を使って阻止した。
ブラッツ卿の下で俺が英雄的活躍をしてしまえば、その功績は上官のブラッツ卿のものになり、エルマー閣下としては権力争いで不利になる。
エルマー閣下としては英雄の原石を自分の下で輝かせたいらしい。
エルマー閣下の領土はヴェルトバウムから1番近い。恐らく俺を輝かせるタイミングはヴェルトバウムとの戦争の時だ。
「君達2人にはブラッツ卿と合同で戦後の現地調査に行って貰う。奴らだけ貴重な研究物である魔剣を手に入れるのは気に食わなくてね。というよりこちらの兵もヴェルトバウムの進軍を止めるのに一役買ったのに、兵だけ寄越して事が済めばすぐ解散なんて割に合わないからね。我が軍で動ける部隊はほとんどいないし、防衛を疎かにする訳にもいかないから、君達だけで行って貰うよ」
「「了解です」」
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エルマー閣下の命により早馬でボヘミツェまでソフィーと共に足を運んだ。
ブラッツ卿の率いる兵の野営地に馬車を止めて、そこで兵に指示を出している男の下へ歩み寄る。
魔法で馬の脚を強化して走ったのでヴァルブルクを出て約2時間程度だ。日は沈んでしまったが、まだほのかに空が赤い。
これが俺にとっての初めての遠征で、ヴァルブルクとはまた違った街並みなのかなと想像していたが、実際に足を運ぶとそこは街だったなにかがあった。
あたり一面焼けて黒ずんだ瓦礫が残っているだけの焦土。炎から逃れられずに命を失った人たちがウジャウジャと焦土を飛び回っていた。
酷いありさまだ。
ほとんどが建物としての形を保てず朽ちているのを見るにおそらく木製の建物が多かったのだろう。
そういえばアンドレアスは肌が見えないほど包帯でぐるぐる巻きになっていたが、あいつ火だるまにでもなったのか。
「おや、誰かと思えばソフィー譲ではありませんか。お隣は……」
「お久しぶりです、ブラッツ卿。こちらは部下のクラウス・シューマッハです」
指示を出していたのはブラッツ卿だった。見た目は豪華な服や装飾で着飾った小太りのオッサンで、見ただけで身分がわかる。ブラッツ卿の隣にはもう1人、清潔感のある汚れ1つない軍服を身に着けたブラッツ卿とはまた違った系統の身分が高い男がいるが、そっちは秘書だろうか。髪のツヤだったり細かいところだが気品を感じられる。
俺より少し長身で軍人にしては細い。歳は30は過ぎてて、40は行ってないだろうか。
ソフィーが俺の名を言ってからブラッツ卿とその隣にいる男の目付きが変わったように見えた。特に隣の男からは、興味? 好奇心? のような視線を強く感じる。
ソフィーがこっちを見てなにかを訴えかけている。
ああ、俺自身から挨拶しろってことか。
「初めまして、クラウス・シューマッハです。よろしくお願いします」
「なるほど、噂は聞いているよ。死霊魔法師なんだってね。いやー君がもう少し早く戦争に参加してくれればこの戦争も手早く終わったと思うのだけど。まあもう終わったことだしいいか」
「高く評価していただいているのは誠にありがたいのですが、私はまだ今年で16の若輩者ですので、そのような賛美は不相応でございます」
「ははん。まるで自分の言葉で言っていないように感じるが、まあ良い。お互い力ある者同士で呑まれ行く身だ。権力も武力もな。これからよろしくな、クラウス君」
ブラッツ卿がなにを言ってるのか理解できそうで理解できなかった。
「は、はあ……よろしくお願いします」
「で、ソフィー譲。今宵は期待の超新星を紹介しにここへ来た訳ではなかろう? 本題に入ろうじゃないか」
「はい。今回、私とクラウスは父上の命により戦後調査とその処理を任されました。つきましてはブラッツ卿と情報共有を行い、速やかな統治のためやってきた次第でございます」
「なるほど、まあそんなところだろうと思っていたが。なるほどねぇ~。別に私の仕事を奪いに来たんじゃないよね?」
「いえ、そのようなことは」
「あー分かった。つまり私の指揮の下で手伝ってくれるんだ。じゃあ報酬もあげないとね。例えば、人の手で作られたであろう魔剣とかどうだい? 研究資料として充分な価値があると思うけど」
ほんと、ブラッツ卿は俺たちがなにが目的できたか手に取るように分かっているような話しぶりだった。
「是非、いただきたいです」
「オーケー、人出が増えるのはありがたいよ。街中にヴェルトバウム軍が使っていた魔剣が転がり落ちててさ、魔剣1本1本呪いたっぷりで扱うのが大変でね。とりあえずその魔剣を回収して欲しいな。詳しくはこいつに聞いてくれ、私は他に用があるから。では頼んだよ、マルクス君」
「はっ、かしこまりました」
魔剣回収か。普通の人だったら魔剣の持つ呪いで肉体もしくは魂がダメになってしまって大変だけど、俺ほどの適任はいないな。霊の魂を犠牲にすればいいだけだし。
「自己紹介がまだでしたね。私の名はマルクス・ボック。国王直属の軍師でございます」
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