第38話 戦争の終わり、そして始まり2
ヴァルブルク軍の基地は寮や訓練場などいろんな区域があるが、病棟は少し離れたところにある。
感染病などを流行らせないためだ。
寮から病棟へ続く地下通路は人でごった返していた。遠征から帰ってきた部隊を待機組が出迎えに来ているのだろう。俺らもその一員だ。
病棟に入ると多くの怪我人がベッドで横たわっていた。向かい側の地上へ繋がる連絡通路からは次々と怪我人が運ばれてきている。怪我人はここにいる者で全員ではなくまだまだ増えるみたいだ。
「あ、見つけた」
そういってソフィーが俺の手を取って引っ張る。
わかったから引っ張らなくていいのに。恥ずかしいなぁ。
ソフィーの行く先には俺より少しがたいのいい男が包帯でぐるぐる巻きになって横たわっていた。
この国では珍しい身体の大きさを見て一目で誰かわかる。アンドレアスだ。
近くに座っているのはエマかな? ……ああエマだ。
近づくにつれて隣で横になっているのも誰かわかった。ランバートさんにマルガだ。
結構ボロボロだが大丈夫だろうか。特にアンドレアスは皮膚が見えないほど包帯でぐるぐる巻きだ。
「皆、大丈夫なの?」
「おや、ソフィー譲。それにクラウス君も」
「おう、ソフィー譲自ら出迎えとは。俺達は大丈夫ですぜ。かっこよく無傷で凱旋とは行きませんでしたが問題なしです」
「そう、よかった」
ベッドに横になりながらもソフィーの心配の声にランバートさんとアンドレアスは生気のこもった声色で応えた。
「3人とも大丈夫ですよ。私が完璧に治療しましたので。エヘへ、1番重症なのはアンドレアスですが流石の耐久力と回復力といったところですね。素晴らしいです、治療のやりがいがあります、エヘへ。ところでアンドレアス、人体実験に興味はありませんか? その頑丈さなら上手くいくかもしれない実験があるんですよ」
「絶対にお断りだ」
エマの言葉を聞いてソフィーが肩を撫でおろしたのを後ろで見ててわかった。エマが相変わらずのテンションで俺もホッとした。
「しかしヴェルトバウムが攻めてくるとは予想外だったな」
マルガの口からまさかの単語が聞こえてきて俺の意識はみんなの心配よりそっちの方へ向きを変えた。
「ヴェルトバウムだと?」
「マルガレーテ、ヴェルトバウムが攻めてきたってどういうことですか?」
「どういうことって言われてもこれからボヘミツェとやり合おうって時に攻めてきてよ」
「俺に説明させてくれ、マルガ。副隊長の俺が話す」
アンドレアスがマルガの言葉を遮って自分に説明させろと申した。まあこういうのは副隊長のアンドレアスが説明すべきか。現場には隊長であるソフィーはいなくてその場は実質アンドレアスが隊長だっただろうし。
それに重要な報告がありそうだった。
「ではアンドレアス、お願いできるかしら」
「了解です、ソフィー譲。ことの最初は我が軍がボヘミツェとの決戦に備えて国境付近で駐屯している時でした。ボヘミツェのあちこちで煙が上がっているのを確認したため、俺達第7部隊を含む合同部隊が偵察としてボヘミツェに向かいました。現場に到着するとボヘミツェ軍とヴェルトバウム軍が戦っておりました。ヴェルトバウム軍の扱う武器は全員魔剣を使用しており、ボヘミツェ軍は赤子同然に捻りつぶされ、1時間も経たずにボヘミツェは陥落しました」
「全員が魔剣を持っていたとはどういうことですか? 数はどれ程いたのですか?」
「そのまんまの意味です。信じられないかもしれませんが数は約300人ほど。その全員の手に魔剣が握られてました」
ソフィーが思わず聞き返してしまうのも当然だ。
魔剣というのはそんな何本もあるものではない。魔剣は神話の遺物であり貴重なものだ。軍人1人1人に支給するような武器ではない。魔剣は優れた軍人、それこそ英雄と呼ばれるような人が扱う武器だ。
なぜそんなに魔剣があるのだ。人が作れるようなものでもないし……。
いや待て。
俺が国を出る前に魔剣を人の手で再現した魔剣、人造魔剣が発明されていた。
当時は一部の貴族しか手にしてない、発明されたばかりの代物だったが。
あれから3年。大量生産に成功してヴェルトバウム軍の戦士全員に支給できるようになっていたとすれば。
ヴェルトバウムの戦力は3年前の比ではない。
もともとヴァルブルクとの戦争でボヘミツェは疲弊していたとはいえ1時間も掛からずあっけなくボヘミツェは陥落した。
これは始まりに過ぎないのかもしれない。
「分かりました。信じがたいことですが一旦そのことは置いておきましょう。それでボヘミツェは陥落して我が軍が手を出す前にヴェルトバウムに敗れたと。で、皆が受けた傷は、まさか」
「ヴェルトバウム軍の勢いは収まらずヴァルブルクに向けて進軍し始めました。ボヘミツェ軍との戦闘でヴェルトバウム軍の数はほんの僅かしか生き残ってませんでしたが、1人1人が侮れない戦闘力を有しており、死者は少なかったですが殲滅するのにかなり手こずりました」
「なるほど、おおよその状況は確認できました。ご苦労様です」
話終えると同時に青く光る魔力を纏った蝶がソフィーの前に飛んできて、ソフィーは蝶を自分の指に止まらせた。ソフィーの魔法で操られた蝶で情報を伝達したりすることができる。
「クルゥ、行きましょう。お父様がお呼びです」
「了解です」
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