第35話 第7魔法部隊隊長ソフィー・シュルツ3

 ソフィーが店を出たが、そのまま放っておく気はなかった。


 このままエルマー閣下に報告しに行くかもしれないと考え、俺は近くにいた霊に監視するようにと命令し、またなにかあれば報告しろと命令した。


 不自然な動きをすれば仕方ないが死んでもらう。


 そういや俺は今なにしてたっけ?

 命令を出してニナを見守りながら……



 ふと頭に触れるなにかを感じた。



 これは、頭を撫でられている?


 あれ? 俺なんで目閉じてるんだっけ?


 ああ。俺、寝てしまったのか。


 身体を起こさないと。看病しないといけない俺がニナと一緒に寝ちゃうなんて。



 手が頭から離れるのを感じた。



 一体誰だ? ティーナさんだろうか。重たい目蓋を開き確認する。



「目覚めたみたいわね、クラウス」


「ソフィー?」



 そこにはソフィーがいた。まさかと思うが、頭を撫でていた奴はこいつか?

 霊には不自然な動きをしたら報告しろといってたはずだが、これは不自然な動きに入らないのかよ。

 いや、詳細に命令しなかった俺の落ち度なのか?



「もう20時過ぎよ。帰りが遅いからここに来て見れば妹と寝ているなんて」


「すみません、隊長。これは……」



 寝ていました、そういうしかないだろう。

 寝落ちする要因はいくつも浮かび上がる。身体的な負担もあるが、気を張り過ぎてしまっていたのか。



「あら、さっきはソフィーって言ってくれたのに隊長呼びに戻りましたね。歳はそこまで離れていないのですから呼び捨てで構いませんのに」


「いや、そういうわけには。……ところでおいくつなんですか?」


「15ですよ。今年で16です」



 予想通りの年齢だった。


 いや、今は年齢なんかどうでもいい。まず状況整理だ。えっと、霊からの報告はないから怪しい動きはしてないということでいいんだよな? で、ソフィーは俺の頭を……ダメだ、寝起きで頭が回らん。



「皆もうご飯食べましたよ。心配してご飯食べずに私来ちゃいましたから、ちょっと付き合ってください」


「え? 付き合うって、何を」


「ご飯ですよ。個々の近くに美味しいご飯処があるんですよ」



 なんでソフィーは俺のことを心配してるのだろうか。俺は彼女から見れば不法入国して街をめちゃくちゃにした敵国の魔法師だ。しかも俺の正体をバラせば殺すと脅しているのに……。






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 どうしてこうなった。


 俺はソフィーに連れられて街の脇道に入り、知る人ぞ知る隠家のような飯屋に入って個室に通された。


 状況を端的にいうならば個室で2人っきりである。



「好きなの頼んでいいわよ、今日は奢るから」


「あ、はい……」



 近くにあったメニュー表を手に取り、どんなものがあるか軽く目を通す。奢ってくれるなら肉でも頼むか。貴族なんだし金ぐらいいくらでも出してくれるだろう。



「まあ、今回誘ったのは色々話したいことがあったからなんだけど。みんながいる場所では話し辛いことだし」



 なるほど、個室に入ったのはそういうことか。



「まあまずは料理頼みましょ。食べたいものはあります?」


「うーん、肉がないな。ソーセージとかベーコンとかでいいんだけど」


「あなた、肉なんて貴族の食べ物でしょうに……いや、この国の常識を言っても仕方ないですね」


「ヴァルブルクの庶民って肉は食べないのか? 俺の国では肉なんて毎日のように食べてたけど」


「それはあなたの国のような国力と土地があれば可能でしょうけど、この国は違います。ヴェルトバウムは周辺国に戦火を撒き散らして食料不足になっているのです。穀物を大量に食べさせて作る豚より、穀物を食べた方がお腹は満たされます。この国はまだマシな方ですが、飢饉に陥ったボヘミツェ国は我が国に戦争を仕掛けて食料を奪おうとする始末ですし」


「ボヘミツェ国? 食べ物のために戦争?」



 ボヘミツェ国はなんか聞いたことのある国だ。ヴェルトバウムの東側にあったような気がする。

 しかしヴェルトバウムの周辺諸国で戦争をしていたなんて知らなかった。



「あれ? 言ってませんでしたっけ? 魔法軍もその戦争でほとんどの部隊が遠征に行ってるのですよ。で、私はトマトパスタとハーブティー頂くけど、クラウスは?」



 初耳なんだが。たしかに駐屯している魔法師が少ないとは思っていたがそういうことだったとは。


 で、飯なんだけど。国が違えば知らない飯もたくさんあるものだな。



「同じものでいいかな。無難にうまそうだし」


「そう」

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