第33話 第7魔法部隊隊長ソフィー・シュルツ1
「いや、これはその……」
これはどういうことかというソフィーの質問に俺はすぐさま答えられず気まずい静寂が3人の間に重くのしかかっていた。
ニナが俺のことをクルゥにぃって呼んでるのを聞かれた。
どう説明する。
実の妹だというか?
実の妹にクルゥにぃと呼ばれることはおかしなことではないため、実の妹なんだといえばその点に限れば納得してくれるだろう。だがその場合、実の妹が奴隷となってティーナさんのお店で働いていることをソフィーに伝えることになる。それはそれで様々な問題が生まれるのは明白。
じゃあ実の妹ではないといったらどうなる?
ティーナさんの孫とはいえ店の奴隷にクルゥにぃと呼ばせているとなるとそれは俺が社会的に終わる。奴隷の子が勝手に呼んできたとほらを吹けばソフィーは納得するだろうか。
どうしよう、どうしよう。
「ゔっ……ゔっ……」
答えが出せずにいると後ろからニナの声がした。
なんか苦しそうな声だったような。
振り返るとニナが胸を押さえながら手すりと壁に身体を預けて階段を下りている。
危ない!
ニナが階段を踏み外し前へ倒れ始めた。倒れるニナをとっさに受け止める。
「ニナ? ニナ!?」
「えっ、何? 大丈夫なの!?」
ニナの息は荒かった。しかもすごい熱だ。さっきまでこんな様子じゃなかったのに……。
突然のできごとに何がなんやらわからずどうしていいのかわからない。
「ねぇ、これってどういうこと? 体調悪いなら寝かせとかないと」
「なんだい騒がしい……って、おや? こりゃいかん。クラウスよ、早く2階の奥の寝室に運んでくれ」
工房から出てきたティーナさんがニナの状況を見るや否や、ニナを2階に運ぶようにといってきた。
「はい!」
ティーナさんはポーション作りなど薬については詳しいはずだ。なんで急に発熱したかはわからないが、きっと助けてくれるはずだ。
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あれからニナを寝室に寝かし、ティーナさんにはポーションや治療魔法を施してもらっている。
ニナが心配で治療に立ち会おうとしたが、ティーナさんは気が散るから外で待っておれといわれ、発熱した原因も聞けずじまいとなり、客間で待たされることになった。
客間にいるのは俺とソフィーだけ。お互いに黙り込み、ニナの無事を座って待つ。
突然のことにバタバタして未だニナの容態が安心できる状況じゃないけど、この静寂を断ち切ったのはソフィーだった。
「ねぇ、あのニナって子とどういう関係?」
「それは……」
先ほどまであった誤魔化そうという気が薄れていることを自覚する。
いや、誤魔化せないだろう。
ちゃんと言葉で関係性をいってなくても俺の慌て様とニナと連呼して心配する様を見ればどんな関係か予想つくはずだ。
仮に俺がニナは実の妹ではないといってもソフィーは疑いの目を晴らさずにいずれ真相を掴んでしまうだろう。
なにせエルマー閣下の息が掛かってるのだ。軍の捜査力から逃れる術はないだろう。
なら……。
「ソフィーさん。今から真実を語りますが、ニナに危険が及ぶと判断すればあなたを殺します」
「っ……!! ……それは、脅しですか?」
「いや、そうするしかないと思ってるだけです。もし殺す相手があなただけでは安全ではないと判断した場合、仮にこの国を敵に回してでも俺は抵抗する意思があります」
「本気なのですね……」
「真実を聞かずに今日のことは見なかったことにしてもらえれば、俺は手を出しません」
どれぐらい抵抗できるかわからない。でも、一通りこの街にある軍事力を見た感じ俺より強い奴はいないし、数も脅威とは感じない。油断しなければ、おそらくは。
「分かりました、聞きましょう」
その後俺はニナと俺が兄妹であることを知らせ、ここにきた経緯をすべて包み隠さずに語った。
俺とニナがヴェルトバウム人だと教えた時は目の色を変えたが、盗賊に襲われて両親を殺されて連れ去られた妹を探しに森を駆け回った話をしていくにつれて、彼女の目から見て取れる警戒心はいつの間にかなくなっていた。
「以上が、俺がこの国に来た経緯と軍人として働く理由です。そしてあなたとエルマー閣下が俺を疑っていることも知っています。昨日、霊を操ってエルマー閣下を監視していたので」
「そうですか……」
俺の話を聞いて彼女は何か質問をしてくるだろうと思っていたが、ただ彼女は聞くだけだった。
質問を投げる必要すらなくなったとでもいうのか。その場合、彼女が刃を向ける前に俺が彼女を斬る。
「このことをエルマー閣下に報告しますか?」
「……いいえ、報告しません」
「それは、エルマー閣下の命令に反することになりますが」
「たとえそうだとしても報告しません」
嘘をいってこの場から逃れようとしているのかもしれない。
本当に報告しないのかもしれない。
俺には判断できない。俺にできることは何かやらかそうとしたらその前に斬って口封じするだけだ。
「正義にも色々あると思っています。お父様が守る規律も正義だと思いますし、あなたがニナちゃんを守ろうとする意志も正義だと思います。あなたの場合、強引な手を使わないと守れないものもきっとあるでしょう」
正義か。
そんなもので動いてるつもりなんてない。感情的に動いてるだけだ。
邪魔する者は殺す。そこに正義があるとでもいうのか。
「でも正義と正義が対立した際、必ずしもぶつかり合う必要はないと思います。何事もなく数年が経ってニナちゃんと故郷に帰ることができれば、それでいいと思います」
「…………」
ああ。それがいい。
それが理想だ。
ふと、思った。
理想を共に掲げる仲間がいればどれほど心強いか。こんな知らない土地で、頼れる仲間もいないところで……。
ゆっくりとした足音が近づいてくるのを感じ顔を上げる。
音の方を向くと部屋を遮る布が開き、ティーナさんが顔を見せた。
「ティーナさん、ニナは大丈夫なんですか?」
「ああ、治まったとも。最近はなかったのだが、久しぶりに発作が起きてしまった」
「発作?」
「変な中毒症状があってな。ニナがここに来た頃は紅茶が欲しいと暴れて大変だったよ。お前さん、心当たりはないかい?」
「中毒、それに紅茶って……!」
「ティーナおばあちゃん、たぶんそれ、ヴェルトバウムで飲まれている紅茶のせいかも」
ニナは大丈夫なんだろうか。
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