第30話 ヴァルブルク軍と戦う理由7
鼻孔をくすぐるスパイシーな香り。
温めた野菜の甘い香りがほのかに感じる。
そういえば、まともな食事取ったのいつだっけ。
俺は横になっているのか。
そうか、俺は魔力を測定していて、気絶して。
でもベッドで寝ているには硬すぎる。この感触は床ではなさそうだが。
目を開けて確認する。
白いベッドシーツがまず見えたが、そのベッドシーツが何に敷かれてあるかとよく見ると藁だった。
羊の毛とか鳥の毛とかの方が絶対寝心地いいのに、ここはふかふかのベッドすら買うお金がないのか?
夜は明けていない。何日も気絶していた可能性もあるが、小窓から見える月は欠けたり大きくなったりしてないように見える。
隣の部屋から話し声がした。第7魔法部隊の人たちの声だ。
いつまでもくたばっていられない。そこら辺にいた霊を吸収して魔力を補給する。
同時にもう1体の霊と視覚共有をして周りの状況を確認する。
そういやエルマー閣下につかせておいた霊を回収しないと……まああとでいっか。
それよりも飯だ。ろくな飯も食わずに魔力切れしたら動けないに決まってる。
しかし、最初に部屋へ通されたとき奥にも部屋があると思っていたが寝室だったとは。
扉を開けるとソフィーと最初に目が合い、他も次々に俺に気がついた。
「大丈夫ですか、クラウス?」
「おう、目が覚めたか」
「良かったです。一時はどうなるかと思いましたが」
「倒れた時は魔力が一切なかったのにこの回復力っ! 流石としか言いようがありません! これは魔力回復のアルゴリズムを解明しなければ……エヘへ」
「エミー、今は飯を食え。メモ帳を出すな。飯冷めるぞ」
最初の3人は心配してくれたが、エマさんは心配より俺への好奇心が勝ったようで、マルガレーテさんは特に心配してない感じだ。
ってか、みんなはエマさんのことをエミーって呼んでるんだな。
エマさんとマルガレーテさんとは対照的にソフィーはすぐさま立ち上がって俺の近くまで歩み寄っていた。
「すみません、私が早く止めていればこんなことには……」
おそらく隊長として責任を感じているのだろう。まだ俺と歳変わんないぐらいだろうに、大変だな。
「いや別に俺も嫌な予感がしたんで早めに手を離しとけばよかったなって。でもそれ以上に表示される数字がどれだけ大きくなるだろうって、限界まで見たくなっちゃって」
俺も増え続ける数字にテンションが上がったんだ。途中で止めとけばいいものを止めずに痛い目見るのはよくあることだ。
「それよりお腹が空きました」
「お腹……そうですね、是非頂いてください。お父様からお肉も頂いたので今夜は豪華ですよ。……今後、何かお詫びしますね」
最後、去り際に小声で言われたが別に気にしなくていいのに。
俺は皿がまだない席を見つけ、そこに腰を下ろす。さっきまで座っていたエマさんとソフィーの間の席だ。
さて、フォークとスプーン、あとナイフは……。
俺は周りを見て唖然とした。
みんな手で食っている。……この国では普通なのか? みんなの手元にはコップにしては口の大きい皿があり、皿には油の浮いた水が入っていた。
透明なスープ、とかじゃないよな。
すると肉を手で食べていたマルガレーテさんが汚れた手をその皿で洗うように付け込んだ。
この国ではフォークやスプーンで食べてはいけない掟でもあるのだろうか。
異文化っておそろしい。
「少し待ってくださいね、今温めてますので」
そういってこちらを確認してきたソフィーはエプロン姿におたまを持っていた。実家と同じ格好で作っている姿を見て少し安心する。
作るときはさすがに道具を使うんやな。
「クラウスくん、聞きたいことがあるんだが」
料理を温めるソフィーの後ろ姿を特に意味もなく見つめていたが、後ろから声が掛かった。振り返るとそこには鼻息の荒いエマさんがメモ帳を構えている。
「はい、なんでしょう」
「あの時眩しすぎて私からは数字がよく見えなかったのですが、ズバリ! 保有魔力量はいくつだったのでしょうかっ!」
「えっ、210ぐらいだった気がしますけど……でも途中で手を離したのでアレが正確に測れているかは」
「210!! なんと!」
その声にみんなの食事の手が止まった。
「210なんて前代未聞の数値! 圧倒的レベル5! いえこれはランバートさん、クラウスくんはレベル5ではなくレベル6のなのでは!」
「レベルは5までしかないのですが、レベルの魔力値上限が3をそのレベル分掛け算した数になるとレベル5の魔力上限値は243。210だとレベル5ですね」
「でも測定は途中で中断しましたし、もしかしたらその上限値超えてたかもしれませんよ!」
「確かに、上限値とまではいきませんでしたが、あのまま測定を続けていたらあるいは……。そもそもレベル5までしかレベルが存在しない理由は過去にレベル6に到達した魔法師がいないというわけで」
なんか、エマさんとランバートさんが俺の話で盛り上がり始めた。
その話題は尽きることを知らず、俺が飯を食い始めても止まらなかった。
飯は美味かった。空腹でなんでも美味く感じただけかもしれないが。
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