第29話 ヴァルブルク軍と戦う理由6
俺が配属された第7魔法部隊は合計6人の小規模な部隊で少数精鋭らしい。
全員の自己紹介が終わり、ランバートさんが保有魔力量測定器と言っていた水晶玉を皆は見つめていた。
言葉通りの機能がついた水晶玉なら今からするのは魔力量の測定か? 魔力を測定するなどやったことないが、この国独自の技術なのだろうか。
「皆、クラウスの魔力量を見たいのはわかるけどまず私から計測するわ、最近測っていなかったですし。ところでクラウス、この魔力量測定器に触れたことはある?」
「いえ、初めてですね」
「そう、まあ貴重なものだからないか。レベル分けは分かってますよね? まあどう考えてもレベル5でしょうけど」
「レベル?」
「……え? あなたレベルを知らないの?」
聞いたことのない単語につい頭上に疑問符を浮かべてしまった。このレベルという概念がヴァルブルク人なら誰もが知ってる常識だった場合他国の人間と疑われかねない。
どうにか誤魔化さないと。
目線を感じチラッと右を見ると、ソフィーが警戒の目をしている。
いや、俺が考えすぎてそう見えるだけかもしれないが。
「ソフィー譲、地方によっては魔法を教わることができず独学で学ぶ地域もあります。人口割合的に考えて魔法師そのものがいない地域もざらです」
ランバートさんが困ってる俺に助け船を出してくれた。たぶん田舎者だから知らないのだろうと勝手に解釈してくれたみたいだ。
まあ田舎者に変わりはないのだが、これで少なくともヴェルトバウム人って疑われないように話の方向転換をすることができる。
「そ、そうなんですよ。田舎者でわかんなくて」
「なら、レベルについて教えましょうかね」
そういってランバートさんはソフィーの方へ目線をやった。
しばらくの沈黙。ランバートさんはすぐにレベルの説明に入らずにソフィーの顔をずっと見ている。
「何ですか? 好きにすればいいじゃないですか」
「いえ、ソフィー譲の顔がいつもより難しい顔をされていたので」
「何ですか、それ。私はいつも通りですよ」
「あはは、これは失敬」
よくわからない間だが、何かアイコンタクトでも取っていたのだろうか。
まあいいや。
「……! なっ、まさか、ソフィーお嬢様、そういう……確かに顔はいいが」
アンドレアスは何か壮大な勘違いをしているのがわかった。会ってまだ数時間だが俺にはわかる、この人は顔に出やすい。
「アンドレアスさんお静かに。今から私、説明しますので」
ランバートさんは真面目な方なのだろう。それに表情をよく見ている気がする。俺にとってこの人は要注意人物かもしれない。
ふと左を見てエマさんを見たが俯いてニヤニヤしていた。……この人の方がもっと要注意人物かも。
マルガレーテさんはさっきからずっと腕組みして目を閉じている。この人はよくわからん。いや出会って1日目だしそりゃそうか。
「では今からレベルについてお話します。レベルとは軍が作った実力を示す階級のことです。測定方法は色々ありますがこの保有魔力量測定器が1番正しく測れます。レベルは5段階に分かれており、1~3がレベル1、4~9がレベル2、10~27がレベル3、28~81がレベル4、82以上がレベル5です。覚え方は3をレベルの数字分掛け算した値がそのレベルの魔力値上限です」
せっかく説明してくれたが数字が頭の中にたくさん飛んできて理解が追い付かない。これは一気に耳で聞き取るより、何か文字に起こして何度も読み返さないと理解するのは難しいだろう。
まあそういうのがあるとだけ知っておこう。
「口で言われても分からないだろうし実際見てもらいましょうか」
そういってソフィーは水晶玉に手をかざした。
かざした手から魔力が光になって水晶玉に吸い込まれていくのがわかる。
水晶玉には術式なのかわからないが様々な波紋が映り、上部には数字が表示されて徐々にその数字が大きくなっていく。
これ、体内の魔力全部吸い取られるのかな。結構危険だと思うけど。
光る魔力を吸っていき水晶玉の輝きがピークに達したところでソフィーの体勢がほんの一瞬ぐらついた。
上がり続けた数字は輝きがピークに達したときに止まり、光となった魔力が水晶玉からかざす手の方へ帰っていく。
なるほど、限界まで吸わせて測定し終わったら体内に戻す仕組みか。
で、水晶玉に表示されてる数字は……72か。これ高いのだろうか。
「この72って高いのですか?」
「まあ、それなりに」
ソフィーは少し顔を赤くしていた。
「それはもうレベル4でもトップクラスの魔力量だからな。そこに俺仕込みの剣術が加われば敵なしですぞ」
「ふーん」
「まあソフィー譲の得意魔法は虫操作魔法なのでアンドレアスさんの戦いとは合わないのですが。ほら、クラウス君を眠らせたのも彼女の扱う蝶の鱗粉でなんですよ」
俺がどうして昼間に眠ってしまってヴァルブルク軍に捕らえられたか記憶が曖昧だったが、彼女の魔法か。見えづらいし自然に溶け込めるし風がなければ遥か上空から催眠効果のある鱗粉をばら撒けて敵を眠らせれる……かなり厄介だな。
しかし、得意魔法って聞いたことのない単語を聞いたがもう疑問にしない。おそらく今後疑問符が頭上に浮かぶことはたくさんあるだろう。いちいち質問してるとキリがない。
おそらく得意魔法っていうのは言葉そのまんまの意味で得意な魔法だろう。俺の場合死霊魔法か。他の魔法も使えないこともないが死霊魔法だけは圧倒的に魔力の効率がよい。
「ソフィーの話をしてどうする。皆クラウスの魔力量見たかったんじゃねぇのか?」
マルガレーテさんが呆れたように話を元に戻させた。他のみんなも思い出したかのように俺を見る。
「そうですね、私のことなんてどうでもいいので早くクラウスの魔力量見てみましょうか。ではクラウス、手をかざしてください。一瞬、魔力切れしたような気持ち悪さを感じるかもしれませんが問題ないので
魔力切れなんてしたことないからどんな感覚かわからないけど、まあ要は普通に手をかざせばいいんだな。
言われた通りに手をかざす。
するとソフィーの時と同じように手から魔力が光となって水晶玉に吸収されていく。
されていく……されていく……。
どんどん魔力が奪われていく感覚があるが水晶玉に表示されてる数字が100を超えている。
どんどん吸われる魔力にどんどん輝きを増す水晶玉。
眩しすぎて目が開けづらい。
150……160……170……180……
「おいおいこれヤバいんじゃ」
「これは未知の領域、多いとは思ってましたがこれほどとは」
「オホォー! きましたよ! きましたよ! ウヒヒヒィィイ」
「…………」
「こ、これどうなるんですか!? 爆発したりしませんよね!?」
落ち着いたイメージがあったソフィーの驚き様はおもしろいが、たしかに爆発しそうな感じがしてきた。この水晶玉、こんだけの魔力量を操れるのだろうか。俺でも難しいぞ。
190……200……210……
ピキッ
水晶玉に亀裂が走り、慌ててかざした腕を離す。
ヤバい……身体中の魔力がなくなって意識が……これが魔力切れ……?
亀裂から光となった魔力の粒が勢いよく吹き出し空気中に溶け込んでいく。
みんな大慌てで何か喋っているが聞こえない。早く魔力を補充しないと。
そうだ、そこら辺の霊を魔力に変換して……変換して……。
バタン。
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