第27話 ヴァルブルク軍と戦う理由4

 ヴァルブルク軍の基地は街から近い丘の上に立っている。レンガ造りの巨大な家のようなもので、霊が言うに城という建築様式らしい。


 その城という建物の地下に魔法使い専用の部屋がいくつもあるのを霊と視界を共有してわかった。

 地上より上の部屋は一般人と呼ばれる魔力を知らない人たちの軍人が駐屯している。


 俺が今日から働く部屋に案内する道中アンドレアスがいろいろこの基地について説明してくれたが聞き慣れない単語がたたあり、一般人ってなんだっけ?と思い彼に質問しかけた。質問していたら変な疑問を持たれてこの国の人間ではないとバレてしまってたかもしれない。


 魔力を持つのはごく少数派で、ほとんどの人は魔力を持たないのが普通なのだ。

 どうやら魔法というもの自体を知られるのが不味いらしく、現在ほかの魔法使いの部隊は今回の騒ぎで魔法を見てしまった一般人の記憶を魔法で改ざんしているらしい。


 なんで魔法を隠しているのだろうと思ったが疑問を口にすることはできない。

 おそらくそういう知識もこの国の魔法使いにとっては常識なのだ。


 ソフィーはエルマー閣下と共にどこかへ行って、ティーナさんは他の隊員に連れられて地上へ続く階段を上って行った。まあもう日は遅いし店に帰ったのだろう。


 しかしエルマー閣下、あの人の真意がわからない。

 ティーナさんの人望と商売で鍛えられた巧みな話術でエルマー閣下が納得したと思えばいいのだが、そうすんなり俺を受け入れるだろうか。普通怪しむだろ。実は隠していたが孫がいて、とか。


 念のため霊をエルマー閣下につかせておくか。俺に隠しているだけで疑っているかもしれない。






---------------------------






「お父様、あのクラウスという男についてなのですが」


「ほう、私も今から彼について話そうとしていたが」


「す、すみません!」


「いや、謝る必要はない。何ならソフィーの持つ彼への見解を知りたいと思っていたところだ。話したまえ」


「はい。では、そうですね……まず彼は危険です。保有魔力量は規格外であり我々では手に負えません。それに、一度敵と見なせば躊躇なく人を殺す残虐性を間近で見ました。今回アンドレアスは運良く助かりましたが、次同じようなことがあれば」


「フフフ、そうかそうか」


「お父様? これは隊員の命に関わっているのですよ?」


「ああ、分かっている」


「では!」


「だからなんだというのだね」


「……!」


「私は陛下のめいを受けて民全体の命を預かっている。隊員1人1人の命をいちいち管理している場合ではないのだよ。ソフィー、君は私の跡を継ぐ身だ。いい加減学びなさい」


「…………」


「第7魔法師部隊は過去に問題を犯した腫れ物の集まりだ。そんなの1人や2人いなくなろうと関係ない。そんな問題児たちを管理できてこその我が娘と思っているのだが、期待し過ぎだったかな」


「そんなお父様……いや、必ず第7部隊は管理して見せますゆえ」


「フン……まあよい。ところであれを見てどう思う?」


「あれって、世界樹のことですか? 大きいとしか」


「ああ大きいとも。あんな大きいものを管理している王様があそこにいる。自身を神と名乗る不敬者だ。だがその国力は侮れない。このまま戦争が長引けば朽ちるのは私たちだ。故に朽ちないために圧倒的な力が必要だ」


「圧倒的な力……」


「死霊魔法師は過去の文献で戦力バランスを大きく変えたという。保有魔力だけでなくこの世に漂う死霊も魔力に変えて自分のものにできるのだ。戦う次元が違う」


「…………」


「そして死した者と会話をして死生観が狂い、残虐性がむき出しの人とは離れた者になる」


「人とは離れた者?」


「思わんか? 霊というものを間近に知っていて、死んでも霊になって残るって分かってるなら殺しても構わないと」


「……!」


「ソフィーよ、彼には充分に警戒したまえ。ティーナおばさんをあまり疑いたくはないが孫がいたなど聞いたことがない。なんならあの魔力量、ヴェルトバウム人じゃないかと睨んでいる」


「……! やはりお父様も彼がヴェルトバウム人だと疑っていたのですね」


「まだ証拠はない、下手に動くな。まあヴェルトバウム人だったとしても戦力として重要だ。うまく操れればいいのだが、弱点の1つや2つあれば……まあそれはソフィーの仕事だ。奴の監視は任せたぞ」


「了解です、お父様」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る