叛逆の兆し

第24話 ヴァルブルク軍と戦う理由1

 声がする。



「ほんと死ぬかと思いましたよ」


「ご無事で本当によかったです。あなたでなければあの蹴りを受けて生き残るのは不可能だったでしょう。もしあの蹴りがマルガレーテさんに当たってたらと思うと」


「もしも話は止しましょう、あの規模の戦闘で全員無事だったのですから」


「傷は大丈夫なのですか?」


「完璧とは言えませんが、なんとか。ほんとエミーがすぐ駆けつけてくれたおかげです」



 この声はさっき戦場にいた貴族の女と大盾持ってタックルしてきたやつか。


 目は開かない。

 相手に意識が戻っていることを勘づかれず状況を把握する。まああんなに暴れて軍が俺を拘束しないわけないし、おそらくここは尋問部屋か独房だろうか。


 椅子に座ってるのがわかる。手すり付きの椅子で手すりに腕を縄で固定されている。腕だけじゃなく足も胴体も縄で椅子に括りつけられている状況だとわかった。


 近くにいる霊と視覚共有をして現状を把握しようと魔法を起動する。


 しかしうまくいかない。

 この縄のせいだろうか、魔力が活性化していない気がする。

 魔力は活性化させなければこの世に作用するのはほぼ無理。魔力を活性化させないで魔法を使おうとしても不発してしまい魔力の無駄撃ちとなる。


 なるほど、そういう拘束か。

 魔法使い相手には最適の拘束具だ。魔法を使おうにも魔力がだだ洩れになってしまう。


 筋力で無理やり千切れるかなと、聞こえてくる声の奴らにバレないように腕や足に力を入れるもさすがにこれほど拘束されたら不可能だ。


 まあこの感じ無理やりどうにかできそうだが、それはこいつらと話した後でもいいか。


 ゆっくりと目を開ける。


 目を開けると正面に鉄格子越しで貴族の女と大盾持ってタックルしてきた男を確認した。

 目を開けた俺に先に気がついたのは男の方だ。



「ほんと、よく生きてるね。潰れた感覚あったのに」



 誇張表現なしだ。本当に虫を足で潰した感覚があった。

 肉体的にも魔力的にもヴェルトバウムの戦士と比べたら人と虫の差がある。



「すごい生命力だ」


「お目覚めのようだな。でもこれは俺を回復した部下のおかげだ。俺は頑丈さが売りなだけだからな」


「アンドレアス、彼との話は私が」


「はっ! 失礼いたしました」



 周りを一通り見た感じ霊が1体もいない。こういうのは誰かしら野次馬がいるもんだが、不自然だ。

 これ、俺の使う魔法バレてるか?



「初めまして、私はソフィー・シュルツ。隣はアンドレアス・クラウゼ。勝手ではありますが手荷物を拝見させていただきました。クラウス・シューマッハ。ヴァレンティナ・シューマッハの孫で死霊魔法師、我が軍に入隊するために上京してきたとこの手紙には書かれていますが、合ってますか?」



 クラウス・シューマッハ? 俺はクラウス・ルートヴィッヒだが。

 いや、ヴァレンティナ・シューマッハってティーナさんのことか。じゃあティーナさんはその手紙に俺の名をティーナさんの家名と合わせて本当の孫のように俺の紹介を書いたってことか?


 なんかややこしくなってきたな。


 まあクラウス・シューマッハって名があるおかげで身元不明の街を破壊した危険人物って扱いは逃れられるかもしれないが……。


 ここはクラウス・シューマッハですって言った方がいいだろうか。

 素直にヴェルトバウム国民って言ったらきっと殺されるかいいように扱われるだけだろう。



「はい、俺がクラウス・シューマッハですが」


「怪しいな」


「アンドレアス、席を外しますか? 口出ししなさいとは一言も言ってませんよ」


「失礼いたしました」


「すみません、話の続きをしますね。あなたはクラウス・シューマッハご本人だと、なるほど。あなたが気を失っている間にヴァレンティナさんへ確認を取りましたが、あなたを孫だと主張しこの手紙は偽書ではないことも確認済みです。ですがどうして今我が軍に来られたのですか?」



 どうしてって……これ、ティーナさんにも確認取ってるってことはティーナさんが言っているのと違うこと言ったら絶対まずいよな。


 どうして今来たって、ティーナさんに来いって言われたからとか? もしくは自分から志願してここに来たとか?


 まずいな。このまま尋問責めされると矛盾点が生まれかねない。


 でも早く答えないと怪しまれる。



「それは……ティーナおばあちゃんのお店が心配で。最近ヴェルトバウムの動きがますます活発になってきていつティーナおばあちゃんが危険な目に遭うか心配で……もう12だしいつまでも子供じゃないからティーナおばあちゃんを守れるようになればと」

「えっ、今12って……」



 当たるか外れるかイチかバチかのでっち上げを言ってる最中にソフィーと名乗る女が口を挟んできた。



「はい、12ですが」


「「…………」」



 なんか、変な空気が流れてしまった。矛盾でも生まれただろうか。

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