第23話 ヴァルブルクと出会い9
あとに残るのは建物であったはずの瓦礫と巨漢の死体が30人、市民の死体が十数人。そして新たに生まれた数十人の霊。
ヴェルトバウムの前衛部隊30人が全滅する戦闘を行ったのだ。戦場と化した場所に住む場所はなくなる。
これでも被害は抑えられた方だろう。
先ほどから霊が鬱陶しい。まあ殺されていい気持ちになる奴はいないか。
できるだけ楽に殺してやったんだ。感謝してほしいレベルなんだけどな。
今すぐ魔力に変えて自分の魔力に追加したいがお腹いっぱいで気持ち悪くなるのはごめんだ。
まあヴェルトバウムの戦士たちも戦死という理想的な死でよかっただろう。
ただ、ヴェルトバウム国民の霊は見ていると悲しく思う。
死ぬというのは身体から魂と精神が離れるということで、ヴェルトバウム国民の死は世界樹の葉で洗脳された身体からの解放を意味する。
死後思うのだ。なんで俺は戦っていたのだろうと。
俺は霊と話せる。
それは人がどのように死ぬかを知っているということだ。子供のころからそんな話も聞いてきた。
先人の色んな話を聞いて、霊たちの価値観に似通ったのか、子供っぽくないねとか言われた。
価値観か。
友達も1人しかできなかったし、俺は生きている人と接するのが苦手だと自負している。
それでもこの状況は何かいい感じにコミュニケーションをとって俺は安全な存在だと認知してもらわなくてはいけない。
「あなた何者なの……ヴェルトバウムの人間かもって、さっきの奴は言ってて」
女からめちゃくちゃ警戒されてる。剣を構えて剣先を俺に向けるのを止めない。
剣先、ブルブル震えてるけど……俺が怖いのだろうか。
一応救ったつもりなんだけど、街を破壊しちゃったしな。まあこの状態でどうやって安全な奴だって説明すりゃいいんだってなるか。
女をよくみると整った容姿をしていた。
この街に来て初めて見る特徴的な赤の瞳が入ったつり目。
俺よりも濃い金髪が胸下ほどまで伸びていて艶やかなハリがある。金のない奴ができる髪質をしていない。貴族の生まれか何かだろう。
歳は俺より3つ上ぐらいか。15、16の胸かといわれると育ち過ぎではないかと思ってしまうが恐らく歳はそのくらい。
警戒されているので不用意に近づくのはよくないかと思ったが、流石に話をする距離にしては遠いと感じ女に詰め寄る。
上空より魔力反応。
俺はとっさに片腕を魔力で覆った。
刹那、大盾を持った男が落下のスピードと魔力により高速でタックルしてきた。
ぶつかる大盾と俺の腕。
防御が甘かった俺は威力を逃がすように後方へ弾かれ距離を取る。
「ご無事ですかソフィーお嬢様!」
「ええこれしき。よく来てくれましたアンドレアス」
歳は30後半で身長は180いかないぐらいで小さい。この小柄な感じはこの国の軍人だろう。
上空からの奇襲に反応が遅れてしまった。ヴェルトバウムの戦士が最後の1人になった時点で警戒を解いて攻撃に集中していたが、そのせいで不意打ちを食らった。
どこかケガしたとかじゃないが他にも伏兵がいるかもしれん。こそこそやられても面倒だ。
俺は上空に浮かぶ霊を見つけたので視界共有の魔法を起動する。
グスッ。
突然、静かな音と共に背中から伝わる痛みが生命の危機を訴えた。
魔力は感じない……いや、微かにある。振り向くとナイフを持った女が。
自身が放つ魔力の波を抑えて気づかれないように接近して。
本能で距離を取る。
思考がままならない。ナイフになんか塗ってるな。
なにか盛られたのは確かだ。落ち着け。この程度魔力で。
魔力で異常を治そうと試みるがそんな時間を与えないかのようにナイフ女は斬りかかろうと距離を詰める。
遅い。こいつ、魔力自体が少ないのか。
保有する魔力の量が多いヴェルトバウムではあまりない戦術だ。自分の魔力をできる限り隠すことはできるが持つものが多いゆえに無理があるが、こうも魔力が少ないとこんなこともできるのか。
膝を胸元に持ってきて魔力を蹴り出す足に集中させる。
そのまま足を前に突き出す。ナイフ女がナイフを振るう前に。
だが直前で大盾を持った男がナイフ女を庇う形で割って入ってきた。
男は完全に大盾で蹴りを受け止めるも蹴りの威力を殺しきれず後方へ吹っ飛ぶ。
民家を貫く音が何回もなった。男が吹っ飛んで民家は一直線に風穴が空いている。
これで男はもう戦力外となっただろう。そんなことより早く身体の異常を取り除かなくては。
ナイフ女も男が吹き飛ばされてそっちに意識がいっている。上空から視覚共有で見てほ伏兵はいない。今のうちだ。
ふと俺の身体の表面にてかっている粉みたいなのがついていた。
これだけ建物が破壊されているから粉塵はそれなりに舞う。だがこの妙に光を反射するてかりはなんだ。
あれ、思考が、いっこうにままなら……治してるのに、意識が……。
ナイフ女とは別の……。
バタン。
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