第21話 ヴァルブルクと出会い7
「貴様、何者!」
防壁に大穴を開けた攻撃を見てヴェルトバウムの戦士たちは警戒の目を一気にこちらへ移す。
何者と言われても、同じヴェルトバウム国民ですよと言っても信じないだろうな。
同じヴェルトバウム国民だから攻撃は止めて話し合いましょう、とか言っても話にならないだろう。というかなんでこんなところにいる!とか、この状況だと俺らの邪魔をしやがって! この裏切り者!なんて言われかねない。
一応、剣先は地面に向けていたんだけどな。そっちが先に攻撃してきたんだし。
この状況、どうしたものか。
話し合いでどうにかしたいが、もう1人やっちゃったし無理かな。
今頃、俺の保有する魔力と俺の後ろで浮遊する魔力の塊を見て恐怖しているだろうか。
いやない。
それはヴェルトバウムの戦士としてあり得ない。
世界樹の葉で恐怖というものは失われている。奴らはこの国を滅ぼすことだけを考えることを強制させられた獣。神の手足。
現状を素早く分析して、各々が最適な行動を取る。
何人かが建物だったもの陰に隠れ、自分が発する魔力の波をできるだけ抑えて隠密性を高くし、視界からと魔力の探知から消える。
恐らく瓦礫を陰にして旋回し、俺を包囲して倒そうという算段だろう。
その場に残ったのは俺に話しかけてきた男とその後ろに2人。皆盾を持っている。
魔力耐性も物理耐性にも優れた合金の盾。裏面には魔法刻印が刻まれていて魔力を流すと魔法耐性が上がったりと、刻む魔法刻印によって色んな戦法が取れる。
魔法刻印に魔力を流せばいいだけなので発動も早い。
ただその性質上、盾に刻まれた魔法刻印が何かわかれば戦いやすい。
盾に刻める魔法刻印の数にも限りがあるし、普段盾に刻まれた魔法以外を基本使わないので動きが単調になる。
まあこいつらの狙いはこの盾持ち3人に注意を引き付けて、旋回した戦士が攻撃しやすい戦況にすること。
広い視野で周りを見ようじゃないか。
俺は空高く浮遊している野次馬の霊と視覚共有をし、高所からの視界を確保した。
予想通り俺の左右に3人づつ戦士が息を潜めている。
そろそろ仕掛けてくるか。
と、その前に。
ヴァァァァァン!!!!!
ニナがいるティーナさんのお店の方向、そこに進軍している戦士がいたのでそいつらを先に攻撃する。
あっちは気の毒に。どこから爆撃されてるかもわからず甚振られるのだから。
視覚共有で空から確認し、霊から武器を作って砲撃。空から、街中を搔い潜って真横から。四方八方からの攻撃をあちらは警戒せねばならなくなる。
目の前の盾持ちの1人が急に突進してきた。
まあテンプレートな動きだ。盾に刻印されたものが何なのか知られると不利になるし、それだった初手から一撃必殺の速攻で倒した方がいい。
刻印されてるのは物質強化と魔法耐性の向上と加速系、筋力強化といったところか。
遅れて後ろにいた盾持ち2人も同じように突進してくる。
時間差で攻撃。それで仕留めきれなかったら両サイドにいる奴らで仕留めにかかるといった感じか。
後ろで浮かせていた剣を前に持ってきて握る。あたかも迎え撃つように見せかけて。
同時に盾持ちの後ろにいた霊たちを魔力に変換して活性化し複数の矢に変形させる。矢の数は20といったところか。
戦いっていうのは野次馬ができるものだ。人々は逃げ惑うけど、霊はバカみたいに寄ってくる。
盾持ちの死角後方から生成した矢を射出した。
盾持ち3人が矢の放つ魔力の波で攻撃に気づくも後ろ2人はガードが間に合わず蜂の巣に。俺に1番近かった盾持ちはガードは間に合ったが、完全に俺へ背中を向けた。
俺は握る剣を頭上に上げて斬りかかる態勢に入る。
こいつの背中を斬りつける絶好の隙だ。
無論、息を潜めていた戦士たちはカバーに入るだろう。
後方で浮かせていた7本のうち6本の剣を左右の民家へ剣先を向ける。
向けて即座に射出。
槍を構えた戦士が飛び出そうとしていたのを確認できたがもう遅い。
防壁に大穴を開けた剣が3本ずつ民家に直撃して爆発。高濃度の魔力の燃焼と爆風は防御をしていても防ぐのはほぼ不可能。
俺も爆風を食らうが身に纏う魔力の濃度が違う。かすり傷1つもしない。
剣を振り下ろす。
後ろを向く盾持ちの背中を捉えたものだったが、戦士の勘か、回し蹴りをして俺の剣を握る手に足が直撃。やれたと思った攻撃が弾かれてしまう。
盾持ちは回し蹴りの勢いのまま身体を反転させて剣を抜き、斬りかかろうとする。
だがすぐさま盾を前にし防御態勢を取った。
最後に俺の後方で残していた剣を射出したがこれも防がれてしまう。
盾に直撃した瞬間に爆発。その爆風により俺と盾持ちは吹き飛ばされた。
吹き飛ばされても転んだりはしない。体勢は崩さず、地面を滑るように吹き飛ばされる。
両者の距離が空く。
遠距離主体の俺には好都合だ。
爆発により粉塵が晴れ盾持ちの姿が見えた。
盾は耐え切れず粉々になったのか、戦士の身体には盾の破片が無数に突き刺さっていた。
「防ぐなんて、オッサンすげーな」
自然と称賛の声が口から出た。
あいつを倒すにはいくつか方法はあるが、1番は数で押せば楽に終わらすことができる。ただ……。
俺は撤退もせずこの強者に向けて剣を構え続けているだけの女に目をやった。
戦いについてこれないならどいてくれないかな。間違って巻き込んじゃいそうで邪魔なんだけど。
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