第20話 ヴァルブルクと出会い6

 ニナを連れ戻しにここを出るのだと魔法雑貨屋を出たのはいいが、いざ店を出て何をすればいいか分からない。



 仕事どうすれば…



 何していいか分からず店から出てまだ数十歩しか歩いていない。


 仕事をするのは確定しているが、この国の軍に入るのはなしだ。せっかくティーナさんが引いてくれた線路だが、母国の人を殺してまで金稼ぎをする気はない。


 とりあえず、商店街に行ってみるか。そこで身なりを整えて宿を取ろう。


 今日は仕事は探さない。精神的にも肉体的にも疲れたし、濡れタオルで身体を拭きたい。

 森の中を何日も彷徨ってて汗の臭いが染み込んだ俺を採用する商人がどこにいるのだと。ようやく冷静に自分を客観視できた。


 よし、まずは……



「キャーッ!!!!!」



 遠くから女性の悲鳴が聞こえた。


 誰かスリにでもあったのだろうか。この国の治安はどれほどのものなのかよくわかってないが、そういうこともあるのだろう。


 次は木材が砕けるような音がした。その音に続けてガラスが割れるような音がする。


 喧嘩でもやってるのだろうか。



「助けてー!!」



 爆発音がした。それとともに濃い魔力の波が身体を揺さぶる。



 これって。



 ただ事じゃないと理解した。方向は門番がいたところ。

 つまり門で何か……。


 嫌な予感がした。

 俺は門番を気絶させてそのまま放置してある。現状、門を守る者は誰もいないし、危険なことが起きた場合に危険な状態になったと知らせる者が誰1人いない。


 悲鳴は次々に増えていく。


 異変に気がついた人々が門とは反対の方向へ逃げていく様が見て取れた。


 大通りを急にみんなが同じ方向を向いて我が身大事に慌てて逃げる。


 ただ、異変に気付くのが遅れて皆がどこへ行こうとしているのか分からずにその場であたふたしていた人は人込みに巻き込まれて転倒。

 倒れた者はわけがわからず踏まれ蹴られ置き去りにされる。


 皆がいなくなって、皆が何に逃げていたのか気づいた頃にはもう遅く、命の危険を感じて立ち上がってその場を立ち去ろうとしたが、今では格好の的。


 魔力でできた火の玉が背中に当たり、一瞬で火が全身を巡る。


 逃げ遅れた人は燃えて黒くなりまた倒れた。しばらく藻掻いた後ピクリとも動かなくなった。


 破壊の音がする。


 何人だ。


 伝わってくる魔力を感じ取り人数と位置を把握する。


 30人はいるだろうか。魔力量も1人1人高い。まるでヴェルトバウムの戦士のような……。


 ある可能性が頭をよぎる。


 その可能性を確認するには実際にこの目でその暴れている者を見ないといけない。


 俺は脇道から大通りに出た。


 大通りに出て確認できたのは筋骨隆々の皆2m以上はある大柄の男たち。

 装備は魔法のローブにローブ下に肩パッド、脛当て、手甲、胸当て、腰鎧を基本とし、剣や槍、杖など各々得意な武器を装備している。


 ヴェルトバウムの戦士たちだ。そしてそれに対峙する女が1人。


 女は細い腕で剣を振り、ヴェルトバウムの戦士の攻撃をなんとか凌いでいた。


 あれは、この国の軍人か? 軍人にしては若いが。


 若いといっても俺より3つほど上に見える。15か16ぐらいか。

 魔力量はこの国に来て見た中で1番魔力量が多いような気がする。魔力の扱いも上手く、使役系の魔法だろうか、彼女の周りにたくさんの蝶が舞っている。


 ヴェルトバウムの戦士たちはその蝶を避けて戦っているようだった。



 あの蝶、毒でも撒いてるのか。



 戦い方は上手いが、あの状態じゃあと数分持たずに死ぬだろう。


 かといって助けるという気はない。助ければ母国の兵の進軍の邪魔をすることになる。



 だがこいつら、どこまで暴れるつもりだ。


 そのまま暴れたら、ニナのいる店まで危害が及びそうなんだが。



 霊を集め、束ね、圧縮し、活性化、剣の形状に変える。それを計10本。


 剣先は地面に向けて浮遊させる。


 ゆっくりと剣撃の鳴る方向へ歩みだす。よく1人で戦うものだ。



 弱いのに。



 ヴェルトバウムの戦士がこっちに気がつき、こちらに向けて火の玉を射出する魔法を発動しようと杖をこちらに向けた。


 刹那、杖が握っていた腕ごと地面に落ちた。その直後に戦士の後ろで爆発。


 いつの間にか自分の腕が地面に落ちていることに気がつき、その目線が下を向いている時に第2射目を胴体目掛け放った。


 一瞬で下半身と上半身に千切れて宙を舞い、射出した剣は勢いを落とすことなく門近くの防壁に直撃し爆発。力加減をミスったせいか防壁も粉々になって、馬車2台が横になって通れるような穴ができてしまった。



「あなたは……」



 女が話しかけてきた。だが視線は送らない。


 人数が人数だ。視線は相手から逸らさずに構えておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る