第19話 ヴァルブルクと出会い5

 なぜ俺が死霊術師ってわかったんだ? 俺はティーナさんに死霊術を一切見せていない。



「図星のようじゃな」


「なんで……」


「なんでって、普通の魔法師は一般人から魔力を感じることはできないんじゃよ。ただ、死霊術師は魂から溢れる魔力を感じることができる」


「魂から溢れる魔力……」


「そう、魂は魔力を保有する。私らのような普通の魔法師でも生贄魔法の原理を知れば魂に魔力があることは仮説立てられる。実際に魂から魔力を感じなくともそこに魔力があるって納得する。そしてこの魔法学の仮説を立証したのが死霊術師じゃ。魔法に通ずる者なら有名な話だが……知らんか」


「つまり魂にあるかどうかわからないものを見つけたのが死霊術師だと」


「まあそういうことじゃな。でだ、死霊術師は国の戦力バランスを1人で変えてしまうほどの戦力となる。ようはお前さんは強すぎる」



 確かに俺は強いと自負している。だが、それで俺にどんな仕事を紹介しようっていうのだ。



「だから軍人になった方が良いじゃろう」


「待ってくれ、俺が軍人って、ポイングの軍に入れってことか?」


「そうじゃが、今まさに軍へ招待状を書こうとしているところだ」



 そういってティーナさんは魔法を使って部屋奥から紙とペンを浮遊させて自分の手元まで持って来た。



「大丈夫じゃ。お前さんはヴェルトバウムの出身じゃ。ヴェルトバウムの民ってバレたら即死刑じゃろ。じゃからお前さんを私の孫として紹介する。それなら問題ないじゃろ」


「いや、問題大アリだろ。母国と敵対している国の軍に入るだと? 冗談じゃない」


「手っ取り早く金を稼げる方法を教えてあげたというのに。それではこのニナは奴隷として数年働かせられることになるんじゃぞ」



 下手したら俺は母国の人たち、友達とかも殺すかもしれないんだぞ。うまくやれば前線に出されることはないかもしれないが、俺の力を知って前線に出さない軍がいるはずがない。

 ただ、ニナの首輪を早く取ってあげれると思えば……。


 せっかくニナと再会できたというのになんで俺は母国の人の命かニナの首輪かで天秤に掛けられているんだ……!



「まあ良い、一応このふみは取っておけ。もしかしたら使うかもしれないのだから。まあその文を軍に渡すか渡さないかは自分で決めるんじゃな」



 そういってティーナさんは手紙を俺の手元に差し出した。


 そして椅子から立ち上がり階段を降り始める。



「何を居座っておる。まだ営業時間なんだ、用がないなら出て行って貰わんかね」



 出て行けだと? 他に客がいないのに?


 せっかく会えたというのにもう引き離されるのか。出て行けと言われても「はい、そうですか」と二つ返事で返せるほどの精神を俺は持ち合わせていない。



「ニナと面談したい際はニナが休憩中にやってくれないかい。ほらそこに居たって金は増えないよ」



 そんなこと言われたって、人が必ずしも理性的に動くと思っているのかよ。ここにいたって打つ手がなくても、俺は……。



「クルゥにぃ、ティーナおばちゃんは優しい人だよ、だから安心して」



 涙が枯れて目が赤くなったニナが俺の手を握った。


 なんで、こんな目に遭わなきゃいけないんだ。



「私、大丈夫だから」



 こんなにも目を赤くした妹に、なんで俺は……俺は……!



 兄として不甲斐なかった。


 兄としてどうすればいいのか。


 しばらく静寂の間が続き、心を落ち着かせて椅子から立ち上がる。


 外に出なきゃ。


 今俺が、兄としてできる手を尽くさなければならない。


 階段を下りると手に巾着袋を持ったティーナさんが店の入り口で待っていた。



「これやるよ、中に金貨10枚入っている。1か月は不自由なく過ごせるじゃろ」


「え? あ、はい」



 予想外なものを受け取り、つい生返事を返してしまった。



「私も罪悪感がないってわけじゃない。ただ、この世は理不尽だ。子供2人で生きていくには絶望的にね。まあ色々経験するがいいさ」



 この人に罪はない。

 どれだけ悔しい思いをしても、この人に当たってはならない。


 そう自分に言い聞かせるしか、俺の足はここから動かないと思った。



「ごめんニナ、兄ちゃん行ってくるよ」


「私もがんばるから!」



 ニナの顔は見れない。見たら絶対離れなくなる。

 俺はニナを連れ戻しにここを出るのだ。

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