第17話 ヴァルブルクと出会い3
「クルゥにぃ……?」
「ニナ! ニナなんだな!」
ニナは涙を流しながら店内を駆けてきて、俺も涙を溢して両手を広げ、俺の胸に飛び込むニナをぎゅっと抱きしめた。
「ニナ! よかった……! よかった……!」
「クルゥにぃ!」
掛ける声には力が入らず安堵の言葉がひたすら溢れた。
まさかこんなところにいるなんて!
でもどうしてこんなところに。
それに首輪?みたいなのがつけてある。なんだこれ。
「何だい? うるさいねぇ」
店の奥から女性の声が聞こえた。
ポーションが並べられた棚の向こうから老婆の姿が見えた。魔力が込められたペンダントや指輪を付けて杖をついて歩くローブ姿の老婆だ。
その老婆が俺を見るなり目を丸くする。
「お前さん、何者だい」
それはこっちの台詞だ。なぜニナはこの老婆と一緒に……。
敵意は感じ取れない。
魔力も大したことないが、身に着けた魔法具で保有する魔力量を計らせないようにしているのだろうか。
霊が言っていた。
ヴェルトバウム国民は世界樹の葉を摂取しているから保有する魔力が多いと。この国に入ってから魔力量が多い人を見かけないし、もしかしたら霊が言っていることもあながち間違いではないのかもしれない。
警戒を少し解き、ゆっくりとこちらに来る老婆と会話を試みる。
「俺はニナの兄だ、名はクラウス。クラウス・ルートヴィッヒ」
「うむ……」
「お前こそ何者だ。なぜニナといる」
老婆はどこか言葉を紡ぐことを躊躇っているようにみえた。
それにニナに着いているこの首輪、契約系の魔法が掛かってるみたいだ。
「うむ。状況を端的に言うなら、この娘は私の奴隷だ」
「奴隷……ニナが……」
嫌な予感が的中した。
盗賊にさらわれた若い女の用途は限られる。契約の首輪を着けて働いている時点で分かっていた。
「まあ2階に上がるといい、老い耄れと長話をするなら腰掛けがなければな。お前さん、聞きたいこと沢山あるんやろ?」
老婆の目線の方向、入口すぐ右手の階段を上るように促される。
ニナと再開した嬉しさとニナが奴隷になっていたことの衝撃で俺の感情はこれまでにないレベルで揺さぶられていた。
言われた通り2階へ続く階段をニナと手を繋ぎながら上る。もう、この手から離れないようにと。
老婆も脆そうな足腰で階段を上っている。
この老婆を殺すのは容易い。殺せばニナの首輪に付与された契約の魔法も解かれるだろう。
だが、この老婆は悪だと決めつけて突然命を奪うのはあんまりだ。ニナのためならなんだってする覚悟だが、俺はそこまで非道にはなれない。
この老婆を亡くして悲しむ人がこの世にいるはずなんだ。
階段を上がると木製の椅子が4つとそれに見合うサイズの机があるだけの部屋で、奥にも部屋があるようだが布で仕切られて見えない。
ここは簡易的に作られた客間で、奥は生活スペースなのだろう。
「そこで腰かけて待っておれ、茶を用意する」
俺とニナは隣り合うように椅子に座る。
首輪以外は特に変わった点は見られない。奴隷と聞いて雑な扱いをされているかもしれないと思ったが、見た感じ大丈夫そうではあるが。
「ニナ、大丈夫なのか? 変なことされていないか?」
「うーうん、大丈夫。それよりもお父さんとお母さんは?」
「それは……」
両親の死を直接見たわけではない。
でもニナに変な希望を与えてもダメだと思った。これは死の直前と向き合っていた兄として言わなければならない。
「ごめん、ニナ……俺は」
「私も話、聞こうかね。お前さんがどうしてここまで来たのか、その旅路を」
ティーセットをお盆の上に載せてテーブルまで運び、老婆は腰を下ろす。
まあ、この老婆にも話した方がいいか。
だが、ニナは絶対泣く。人前で泣き顔を晒すのは気持ちの良いことではない。半ばそれを強要させるのは心苦しいが、大事な話を出し惜しんで不安にさせるわけにもいかない。
「わかりました、話しましょう。ニナも、ちゃんと聞いててくれ。大事な話だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます