第16話 ヴァルブルクと出会い2

 入国してヴァルブルクの景観のパッと見の感想を言うと、ヴェルトバウムとは全然違う。


 いや雰囲気は似ているのだが、街並みが少し古い感じがする。


 ガラスを平らに伸ばす技術が発展していないのか、窓ガラスが瓶底みたいなものを寄せ集めて作ったようなもので、あんなの外を見る窓ではなく光を取り込むための透明な壁だ。


 街もなんか匂う。

 恐らく下水の処理技術がちゃんとしていないのだろう。


 何よりの違いはみんな魔力がほとんど感じない。

 門番にいた兵たちが一番魔力量が多く、ほかの民衆はほぼ0といっていい人たちばっかだ。


 それにみんな背が小さい。

 2m越えの人は誰1人見当たらない。


 この人たちは果たしてどういう風に魔力を使っているのか。もしかしたら魔法を使うことすらできないのではないのかと思ってしまう。


 知らぬ街、知らぬ世界だ。


 まずは情報が必要だけど、この街を歩き回るにはこの汚れた格好はあまり好ましくない。

 1週間ずっと森の中を歩いていたんだ。汗臭くて土埃で汚れていて物乞いと間違われてしまう。物乞いが情報を聞き出すのは困難だろう。


 あとこの国はどうなのかわからないが、情報を提供する代わりに金を求められるかもしれん。


 あとお腹すいた。


 服を買うのも食料を調達するにも情報を得るにも金が必要だ。


 だが働いて稼ごうにもこの汚れた格好の俺を雇う奴はそうそういないだろう。



 売れるもの……



 俺は右手を壁に触れるように宙に置く。

 握るように指を丸め、光と共に1本の杖を出現させた。

 親父からついこの前もらったばっかの杖だ。


 杖を出現している最中に母親に手を引っ張られて買い物をしていた子供が「すげー! マジック!?」と驚いたように言って通り過ぎて行ったが、どういうことだろうか。


 聞こえてくる言葉はヴェルトバウムで使ってた言語と変わらない。差はほぼ方言レベルといっていい。

 言葉には困らなさそうだ。


 さて、この杖を売れば相当な金が手に入るのは間違いない。



 ただ……。



 いや、売らない。


 俺は杖を光に変えて次元にしまい、今まで使ってた木製の杖を次元から取り出す。


 壊れる直前だが見た目は悪くない。

 騙すようなことはあまりしたくないが、見る目がないやつならそこそこの額で買い取ってくれるだろう。


 よし、鍛冶屋を探さないと。あと魔法雑貨屋とかも買い取ってくれるか。



 しらみつぶしに歩き回って店を探そうと思ったが、ふと1つのアイデアが浮かんだ。


 さっきから歩いていて街から魔力を全然感じない。不気味なほどにどこからも。


 ただ魔法雑貨屋なら濃い魔力の波長を出しているに違いない。

 つまりその濃い魔力の波長を感じ取れればどこに魔法雑貨屋があるかはすぐわかるはずだ。


 ヴェルトバウムだったら街中に魔力を持つものがそこら中にあるため特定の魔力を感じ取るのはほぼ無理だが、この街ならいけるかもしれない。


 さっそく感覚を研ぎ澄まし、周囲の状況を確認する。



 あった。この脇道を行った先に強い結界が張られている。


 一時はどうなるかと思ったが、ここで金を手に入れられたらあとはなんとかなるだろう。


 脇道を進み、店を包む結界を前にした。


 結界といっても防御結界の類ではなく、変なものだ。恐らく人払い系の結界だが、こんなよわよわの効力の人払いなんて意味なさそうだが……これがこの魔法雑貨屋のスタイルなのだろうか。まあ店構えも魅力的に見せる方法はいろいろあると思うが、しかし人払いか。


 わからん、理解が追い付かん。


 とりあえず中に入ってみるか。別どんな店であれ売れればそれでいい。


 カランコロンとベルが鳴る扉を開けると魔法雑貨屋独特の薬草の匂いが鼻をくすぐってくる。その匂いとともに感じたことある魔力の波長が俺の身体を震わせた。



 え?



 俺の頭は一瞬で真っ白になった。



「い、いらっしゃいま……」


「ニナ?」


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