第13話 これ以上失わないために2

 俺が真に怒りをぶつける相手をようやく見つけた。


 親父と母さんの仇だ、楽には殺さない。

 今まで瞬殺してきたが、相手の力量を計って殺さないようにじわじわなぶり殺す。


 そうしたところで親父と母さんは帰って来ないが、俺はもう自分を抑えられない。


 重力操作を使った魔法使いは馬車の荷台に身体を隠し、顔だけ出して俺を伺っている。


 その男は重力操作で無理やり地面に突き刺さった俺を見て、口を開けたまま目を見開いていたが、どういうことだ? あれがあいつの体内魔力を活性化させる方法とでもいうのか。


 というか、他の盗賊は大人にしては170前後と小さいし、魔力も全然感じられなかった。いや、魔力を隠していたというのもあり得る話だが……。

 あの男は魔法は使ってきたが、魔力はとても少ない。魔力を感じれるということは隠しているわけではなさそうだが、見た感じあまりにも弱すぎる。


 それに荷台に隠れても魔力で位置がバレバレというのに。


 そんな荷台、盾にすらならないだろう。こんな荷台、荷台ごと突き破って攻撃して……いや。


 ふと冷静になって魔力を感じ取る。


 荷台にニナがいると荷台ごとニナを攻撃してしまう。それはあってはならない。

 そもそも連れ去られたのはニナだけとは限らない。村の人たちもあの荷台に乗っているかもしれない。


 この男が荷台を肉の盾にしているのなら、と考えた不安は不要のものだった。



 荷台から魔力を感じない?



 兄である俺がニナの魔力を感じ取れないわけがない。それどこらか人の魔力を感じない。

 つまりあの荷台は無人?



 ニナはどこだ?



 霊を魔力に変えて活性化、矢の形にして荷台へ向けて発射する。


 荷車に直撃した瞬間に爆破。荷台の屋根と共に金に輝く金属が宙を舞った。


 荷台の中にはネックレスや金貨といった金目のもの。人なんて乗せてなかった。


 そういや襲撃したとき上空に魔法で光の玉を放っていたのって、目くらましとかじゃなくてあれは仲間に襲撃されたことを知らせる合図だったのか。


 こいつに時間なんて割いていられない。

 ニナを連れ去っている仲間はこいつの襲撃された合図を見て全速力で逃亡しているはずだ。

 こうしているうちに俺から距離を稼いでいる。


 時間は惜しいが、こいつを楽に殺したくはない。


 即死しない程度に手早く済ませる。


 俺は周囲に落ちた槍、ブレード、大斧、弓矢、木の破片など、突起物になるものは全て浮遊させて発射体制に入らせた。



 体液を垂らしながら冷めてく肉体と共に眠れ。








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 ニナを乗せた馬車が南下しているのはわかった。

 全速力で車輪の跡を追っていたが、車輪の跡が途中で切れていて、その後は道なりに進んだが、一向に馬車の姿は見えない。


 馬車なんて大きな道以外走れないはず。獣道なんか通ったらどんな事故に繋がるかわからない。

 だが馬車が見えてこない。途中で分かれ道とかもないのに。


 これは完全に撒かれたのか?


 ダメだ! そんなことは!

 俺は託されたんだ。親父と母さんを見捨てて、せめてニナだけでもと!


 諦めない。

 諦めるわけにはいかない!

 諦めきれるわけがないだろ!!


 見つけてやる! ニナ!

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