第12話 これ以上失わないために1

 俺は真上に向けて跳躍した。

 ほんの一瞬の滞空。その一瞬でできる限りの現状を把握した。


 どこもかしこも火の手が上がっていて、黒煙で視界が悪い。道端には血を流して倒れている人も見える。


 国を囲う防壁は一部壊されていて、そこにも血を流して倒れている人が複数見えた。倒れているのは衛兵の者と恐らく盗賊。


 応援で駆け付けた戦士たちが集まっており、一人の男が前に出て何やら指示を出している。おそらくこの部隊の隊長だろう。


 壊された防壁のところからは車輪の跡が森の方へ伸びており、どこから来てどこへ逃げたのかすぐに分かった。


 ニナを連れ去った奴がいる方向はあの森だ。


 下を見ると地面が近づいている。滞空はもう終わり。情報は充分に得られた。


 俺は魔力を足に込めた。


 着地と同時に大股で足を踏み出す。1分1秒とて無駄にできない。

 人前では見せてこなかった人間離れのスピードで町を駆ける。


 一呼吸で壊れた防壁の元へ。

 応援に駆け付けた戦士たちの何人かは俺に気づくが、視界に入っている間はほんの一瞬。並みの戦士が目で追えないスピード。


 俺は防壁からさほど遠くない森に突入する。


 ランタンなどの灯りは持ってきていない。持ってきてはいないが必要性はない。

 木々が生い茂った獣道を行くのではなく、馬車が通った道をなぞるだけ。


 車輪の跡をひたすら追う。障害物がないためスピードは出しやすかった。



 あれは、灯り!



 ついに見つけた。木々で隠れてよく見えないが、あそこにニナがいる!


 すぐさま跳躍し、上を取って馬車を視界に捉える。


 このまま馬を直接撃って足を止めたいが、馬車が横転でもしたら荷台の中に乗っているニナまで怪我がするかもしれない。



 ポルターガイスト!



 そこら中から木を引っこ抜き、浮遊させ、進行方向を塞ぐように木を投擲する。

 もちろん、安全に止まれる距離を確保するように木のバリケードを作る。


 馬車が止まるのを確認した。

 すぐさま森の中を駆け抜け、奇襲できるポイントまで移動する。


 止まった馬車からは「なんだなんだ?」と困惑の声が複数聞こえた。

 それもそうだろう。来るときはなかった木が道を塞ぐような不自然な形で倒れているのだから。



 こいつらのせいで!!



 近くにいた霊を魔力に変換し活性化、槍の形にして運転手目掛けて投擲する。


 前方を向いていた運転手は飛んでくる槍に気づくことができず、槍が頭部に突き刺さる。

 槍が突き刺さったまま運転手は森の中へ吹き飛ばされ、槍は制御を失い活性化状態の魔力の塊は爆散する。



「敵襲!!!!!」



 先の投擲で位置もバレているはず。

 迂回しながら馬車の後方から接近して近接戦に持ち込む。


 盗賊が10人ほど出てきた。そのうちの一人が上空に向けて魔法を放ち、打ち上げられた光の玉が強い光を放った。

 目くらまし? いや、森を照らして俺の位置を探ろうってことか。



「いたぞ!」



 見つかった、だが問題ない。盗賊たちが一斉にこっちに向かって突撃してくる。


 逃げられるより全然いい。こっちはお前たちを殺したくて溜まらないんだ!!



 遅い!



 1人目。突撃する槍兵の突きを半身でかわし、魔力で剣を生成して斬首。


 2人目。ブレードで斬りかかってきた奴の手首を切り落とし、斬られる前にブレードが手首と一緒に宙を舞う。


 3人目。2人目の後方から大斧持つ盗賊が視界に入ったので2人目の腹に蹴りを入れて吹き飛ばし3人目にぶつけて動きを抑制、重なった盗賊2人ごと剣で突き刺す。

 魔力を纏っていなかったのか、鎧が簡単に貫通したことに違和感を覚えたが関係ない。2人に突き刺さった剣を爆散させ血肉が飛び散る。



「バ、バ、バケモノが……!」



 4人目、5人目、6人目。俺が剣を失ったのを見て油断したのか、はたまた仲間の肉片が飛び散る光景に恐怖したのかわからないが、盗賊が持っていた槍、ブレード、大斧を浮遊させて一斉に投射、胸を貫通して即死する。



「ひぃっ……!!」



 この戦法、なかなかいい。

 小回りは利かないが、手数が多いため効率よく敵を刈り取れる。


 刹那、暗闇から矢が飛んできてこめかみを直撃した。


 傷はない。

 念のためにと高濃度の魔力を纏っていたため、当たった瞬間矢は固い壁に弾かれたような挙動をしていた。


 そこか。


 7人目。矢が飛んでて来た軌道をイメージし、こっちも矢を生成してやり返す。

 発射直後に悲鳴が聞こえたので矢の制御を解き、矢が形を保てずに爆発。


 7人目の片手間に残りの盗賊も槍とブレードと大斧をポルターガイストで操って同じように殺した。

 どうやら逃げようとしていたみたいで背中を簡単に貫けた。


 あとは……!



 ゴォォォオオオオン!!



 突如何かに押しつぶされたような感覚が身体を襲う。

 固い地面がひび割れ、両足が無理やり地面に突き刺さった。



 これは重力操作の魔法!?



 ふと親父が言っていたことを思い出す。

 急に天井が落ちてきたと……


 俺は悟った。



 コイツか!! 親父と母さんを殺したのは!!!!!


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