第11話 ポイングの悲劇2

 そこは真っ赤に燃えていた。


 普段は灯りが少ない田舎町が民家から畑まで火の海に染まっている。

 焼畑とは比べ物にならないけむ臭い黒煙。



 これは一体なんなんだ!



 分かっている。だが理解したくない。


 転移門を潜った俺を待っていたのは地獄絵図そのものだった。


 悲鳴が聞こえる。

 熱い! 熱い! 熱い!と叫ぶ声がする。あちこちから似たような声が聞こえる。中には言葉にならない悲鳴も。



 早く、みんなを探さないと!



 いつもなら町灯りなんてない夜道がはっきりと照らされている。


 火に触れていないのに息を吸う空気が炎のように熱い。肺が焦げるようだ。


 真っ直ぐ実家に向かう俺の目に入り込んできたのは全壊した実家。ただ、火の手は及んでいない。


 家族は非難しただろうか。それとも……



「母さん! 親父! ニナ! どこにいるんだ! いたら返事してくれ!」


 ポルターガイスト!



 俺は魔法で瓦礫を除き始めた。慎重に1個ずつ、丁寧に。力尽くで一気に撤去したいところだが、もし家族が埋もれてしまっていたら怪我をさせるかもしれない。



「みんな! いるのか! いないのか!」



 ひたすらに撤去していると、瓦礫の下から鮮やかな紐を見つけた。



 これって……!



 その紐は一昨日俺がニナにあげた髪を結ぶための紐だった。


 嫌な予感が脳裏に浮かぶ。



「クルゥ?」


 親父!?



 瓦礫の下から微かな声が聞こえた。



「親父!? いるんだな! 待ってろ! 今助けるから!」



 俺は声がする方向の瓦礫を重点的に取り除き始めた。

 この下に親父が埋まっている、早くなんとかせねば!


 瓦礫を除いてようやく親父の顔が見えた。



「親父!」


「早く……ニナを……!」


「ニナって、やっぱニナも埋まっているのか!? わかった、ニナはどこに」


「違う……!」



 必死に言葉を紡ぐ親父は今にでも意識を失いそうな声色だった。

 親父の声がちゃんと聞こえるように撤去作業を一旦止めて耳を傾ける。



「ニナは連れていかれた」


 連れていかれた!?


「あと……母さんはもう……」



 瓦礫の下で横たわる親父の床は血の水たまりができており、その血が流れてきたであろう方向へ目をなぞると俺と同じ色の髪が見えた。



「母さんとニナを人質に取られて、抵抗しない俺を滅多切りにして、もう俺が戦えないと思ってあいつらは俺の前で母さんを」

「いいから喋るな! 急いでどけるから!」


「抵抗したら急に天井が落ちてきて……クソ……」



 そんな喋るな! そんな喋ったら助かるかもしれないのに助からなくなる!


 大きな瓦礫は魔法で除き、細かな瓦礫は自分の手で除いていく。


 早く! 早く! 早く!


 突然、撤去作業する俺の腕を親父は掴んで静止してきた。



「親父?」


「クルゥ……ニナを頼む」



 親父は笑顔だった。


 あまり見せたことない笑顔だった。


 笑顔だったけど、目の下が赤くて、普段顔に表情見せないくせに。



 掴んでいた親父の腕が何の前触れもなく床に落ちた。



「親父?」



 俺にもわかる。

 それが最後の言葉だと。



「ああ、ああああ、あああ、ああ! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」



 何でこんな! 何で俺たちが! 何で! 何で! なんで! なんで!!

 こんな事あってはならない! 俺たちが何をしたっていうのだ!

 なんで親父が! なんで母さんが! なんでニナが!



 そうだ、ニナ。


 俺はまだ、やらなくちゃいけないことがある。


 誰だ。


 どこへ。


 どこにいる!

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