第10話 ポイングの悲劇1
「敵襲! ポイングに盗賊と思われる輩が侵入したとのことです! 外周防衛部隊は直ちに向かってください!」
それは突然のアナウンスだった。
ポイング? ……嘘だよな?
「クルゥ! おやっさん達が危ない! 早く行かないと!」
敵襲って……えっ? 親父や母さん、ニナは大丈夫なのか?
「おいクルゥ! しっかりしろ! すみません、こいつの実家ポイングで!」
助けに行かないと。
あそこは田舎だ。衛兵なんてほんの少ししかいない。
もしかしたら……いや、無事なはずだ。
乱れる鼓動の身をせめて呼吸だけは整える。
上ってた階段で踵を返し、振り向いた。
下り始めようとした階段の先には幅1mはあるだろう大男がこっちに向かって走ってきた。
「隊長!」
「どこに行こうっていうんだね」
隊長と呼ばれたその大男は階段が5段ほど下にいるのに俺と目線が同じ高さになる筋骨隆々のハゲ頭のおっさん。
邪魔だ。
いや、馬鹿正直に階段を下りていては時間が掛かる。一刻も早く向かわねば。
魔法を使えば高さ100mから落ちようとどうってことはない。
「あの、すみません隊長さん。俺急いで」
「ならんな」
俺の言葉が途中で遮られた。低くも響くドスの効いた声。
「体験とはいえ今は俺が隊長だ。俺の指示には従ってもらう。そもそもだ、今からポイングに向かおうったって何時間掛かる」
こいつ! 時間が掛かる掛からないの問題じゃないんだよ!
俺は静止の指示を無視して飛び降りようと階段の取手に両手をあてる。
すると隊長の手が俺の肩の方へ伸びてきているのが分かった。
あまり乱暴な真似はしたくなかったが、緊急事態だ。
バチッ!
俺の肩に触れようとした隊長の手が何かに触れて弾かれる。
「おい、最後まで話を聞け」
隊長は手のひらサイズの何かの木の板を差し出してきた。
その板には魔力で刻まれた紋様のようなものが描かれている。
俺に触れようとした隊長の手のひらは深い切込みが入り流血していた。
「これは転移門の通行許可証だ。少尉以上がが持つことができるやつだ。これを持って転移門に行け。何か言われたらグスタフの命によりポイングへ向かうと言うがいい」
俺はこいつのことを勘違いしていた。俺を止めるものではなく俺の背中を押すものだった。
転移門は兵がヴェルトバウム国の各地へ速やかに移動できる魔法の門だ俺のような学生は使うことが許されない。
でもこれがあれば間に合うかもしれない。
「すみません、ありがとうございます」
俺は通行許可証を受け取って階段を飛び降りた。
「気をつけてね! クルゥ!」
背後でアレックスの声が聞こえた気がした。
だが俺に周囲の音なんか気に掛ける余裕はない。今は家族のことで頭がいっぱいだ。
転移門は世界樹を出てツェントルム大通りを突き進んだ端にある。
戦争から帰ってきた戦士たちはこの転移門から街に帰ってきて凱旋パレードを行う。人込みをかき分けて突き進むにはそれなりの距離がある。
世界樹から抜け出し、校舎前の広場に出た俺は足に魔力を貯めた。
もう、地面がどうなろうと知ったことではない。
俺は足の裏が爆発するかのように地面を蹴って跳躍した。
俺は空を裂き、射出された矢の如く民衆が行き交う頭上を飛んだ。
人をかき分けて道を行くより飛んだ方が全然早い。
気がつけば転移門は目と鼻の先にあった。
再び足に魔力を込めて着地する。
足を地面に突き刺すように着地するも勢いはなかなか止められず、地面を引っ搔いたような跡ができた。
民衆は驚いたのか悲鳴が聞こえたり、多くから視線を感じたが、今は関係ない。
俺は無言で走った。
警備兵が俺に静止を促す言葉を発しているが、眼中にない。
「邪魔だ」
警備兵が俺の前に立つが、近くにあった街灯をポルターガイストで引っこ抜き、警備兵向けて飛ばし、防御を取るも簡単に吹き飛ぶ。
止まることなどなく、俺は転移門を潜った。
待ってろよ、みんな!
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