第9話 入学式と世界樹警備3

 入学式を終えた後、校舎や寮を見て回り、夜食を食べた。

 そして成績上位者である俺は世界樹の警備兵の体験をしていた。

 俺以外にもアレックスや実技試験の時に対戦したジェイコブなど新入生が5名体験をしている。


 世界樹の中は9階までが学校で10階からは多数の警備兵が見回りをしている。

 10階からは直径60m高さ90mほどの円柱の空間に、樹木の壁には階段が螺旋状についており、中央には見たことのない大きな木が立っていた。 

 俺たちを案内した警備兵の人いわくこの世界ではもう種の生存が厳しいものが育てられているのだという。

 その木の周りを舞う青い蝶も見たことがないものだった。


 世界樹の中はとても暖かい。

 直径60mという大広間であるが世界樹の幹の太さを考えるに壁はとても分厚い。直径5㎞といわれる世界樹の幹の中にたった60mの空間だ。外気温なんて感じるはずがない。


 話によるとこんな円柱の空間が何層も重なっているのだという。


 そして人が行き来できるのは70階までだという。70階は高さ1800mほどらしく、世界樹の葉を摘み取るにはそこまで行かないといけない。


 階段を上っていた俺たちは茶葉を背負って降りてきた作業者とすれ違う。


 国民が毎日摂取している紅茶、そのお茶っ葉はこの階段を上り下りしないといけないなんて地獄にもほどがある。上るだけで5時間は掛かるんだと。



「やっぱ神様ってすごいんだね。僕もこんな立派な国の戦士になるんだって考えると頑張ろうってなるよ」



 アレックスの目はキラキラしていた。コロシアムで観戦している時以上にキラキラさせているように見える。


 確かにすごかった。桁違いの迫力で比べるのも恐れ多い存在って感じ。まさに神。



「でも我を超えよ、って流石に無茶すぎるよね。誰があのお方を倒せるっていうの?ってなるよね。ね、クルゥ」


「まあ、難しいだろうな」


「えっ? 難しい??」



 アレックスがなぜかキョトンとした顔をした。俺は客観的事実を述べただけにすぎないのに。


 ふと考えてみた、俺はあいつに勝てるのか。


 神、デバライバは膨大な魔力を保有している。

 だが奴の周りには憎しみの強い悪霊がこれでもかと巻き付いていた。

 憎しみは強ければ強いほど強力な魔力になる。あれらの悪霊を全て魔力に変換すればもしかしたら戦えるかもしれない。


 まあ推測の域を出ないし、あくまで戦えるレベルになるってだけ。実際にやってみたら何秒ぐらい戦っていられるだろうか。



「何考え事してんの。はぁ、まあこれからの学園生活頑張っていこうよ」


「おっ、そうだな」



 なんだかさっきまでキラキラしていた目とは違って見えたが……気のせいか。



 俺はたぶん、めっちゃくちゃ強い。


 戦いの次元が違うというか、戦力の足し算が違うというか。


 個人の戦力は主に戦闘技術+がたいの良さ+自身の魔力量だと思っている。

 だが俺の場合は戦闘技術+がたいの良さ+自身の魔力量+周囲にいる霊の魔力量となって戦力は普通の人の枠に収まらないものになっている。


 強いのはいいんだ。強いだけなら。


 だが世間というのは優秀な人を伸ばしたがる。

 もっと言えば優秀な人を酷使したがる。


 過去にも死霊術師と呼ばれる者がいたという。


 その死霊術師は多大な戦果をあげたと聞いた。


 神は死霊術師を高く評価して何度も戦場に送り込んだ。


 死霊術師は戦いに明け暮れ、やりたいこともできずに死んだ。


 そういう話を霊から聞いた。その死霊術師は成仏できたのだろうか。


 昔の話だ。長い間留まっている霊すら知らない過去の出来事。



 俺はそんな人生歩みたくない。



 できることなら家族と一緒に暮らして、たまには戦場で戦果あげて、家族にとって誇れる存在でありたい。


 だから俺は死霊術が使えることを隠す。

 妹は雷属性の魔法が得意だから俺も雷属性の魔法使いだと見えるように工夫する。


 家族が暮らすこの国を攻撃しようとする者に情けなどないが、俺が全力を出さずとも家族が危険になることなんてないだろう。


 こうして考えると俺は神の方針からかなり逸脱している。


 神はあの茶葉で民を洗脳しているが、俺は特に影響を受けてないのだろう。

 なぜ影響を受けないのか、心当たりはいくつか思いつくが、まあ俺は俺の能力で何か一定のラインを超えたとしかいいようがない。


 神の方針か……


 戦争は多くのものを生み出すと思う。マイナスなものも、プラスなものも。そこに慈悲はなく、邪魔な感情は洗脳し、周辺諸国にも戦争を強制する。


 神をそこまで突き動かすものは何か。


 危機感による生存本能か、もしくは己以外を殺した奴への復讐心か。



「敵襲! 敵襲!」



 突如、天井に埋め込まれた水晶から声が聞こえた。

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