第6話 死霊術師クラウス・ルートヴィッヒ2
コロシアムの決闘が終わり、出店にコップを戻した俺たちはすぐ解散となった。
もっと都会に長居したかったが早く出ないと実家に帰るのが遅くなる。
田舎に帰るのも大変なのだ。
魔法で加速している馬車でもツェントルムから実家のポイングまで8時間は掛かる。距離にしてざっと400㎞ほど。国の中心から国の端へ大移動だ。
中心街では見れない夜空と国を覆う城壁。一面の畑にポツポツと見える人の営みの光。
慣れ親しんだ光景だ。
でもこれからは寮生活だし、しばらく帰って来れなくなるな。
入学まで積極的に農場の手伝いをしておくか。まあ春前って一番やることないんだけど……。
そういえばアレックスがなんか言ってたな。
入学式の後に成績上位者がどうのこうのって。確かあれかな、世界樹の警備を体験できるってやつ。
世界樹の中とかも見れるんだっけ。
「お客さん、ここらでいいかい?」
「すみません、助かりました」
「いいってことよ、ついでだし」
夜中にこんな辺境へ足を運ぶ者なんて地元の人か流通業の人しかいない。
途中から馬車に乗る客は俺だけとなり貸し切り状態だった。
よっぽどの大金を払わなければ人を運ぶだけの馬車は確保できない。
日付はすでに変わっているか。
たぶんニナはもう寝ているかな。
馬車を降りて実家までの道を歩いていると前方からランタンの光が近づいているのがわかった。
「クルゥにぃ! おかえりー!」
ニナは寝ていなかった。
ニナは俺より顔1個分小さいまだ9歳の妹。
腰まで伸びたストレートの金髪で、俺と並ぶとすぐ兄妹ってわかる。
まったく、夜遅いというのに。まさかお土産が楽しみで眠れなかったとかじゃないだろうな。
「おう、ただいま」
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実家に帰ってきてから数週間。時間は早く、明後日には入学式を迎える。
今夜は俺が実家にいられる最後の夜。次帰って来れるのは冬休みごろになるだろうか。
最後の晩餐ってこともあって食卓には俺の大好きなソーセージと刻みリンゴの入ったマッシュポテトが出た。
リンゴは母が作ったもので、物心がつく前から食べている大好物。
ニナも母が作ったリンゴは大好きなので、ボウルに入ったリンゴ入りマッシュポテトはほぼ2人で完食してしまった。
他にも大量のご馳走が用意されてたが、まだ食べるかい?と言ってくる母に白旗を上げて、俺は満腹感と心地よい家族の空気感を味わってぼーっとしていた。
しばらくして親父が食卓から立ち上がり、廊下の方へ歩き出す。
「親父?」
親父の片足は義足だ。戦士の傷でもある。
暗い廊下を歩く親父が心配だったが、目的のものを手に取るとすぐ戻ってきた。
「親父、これ……」
それは1m弱の棒で布に包まれ、ご丁寧に飾り紐まで使って結ばれている。
この家にこのくらいの長さでプレゼント用のもの。それが何なのか俺は1つしか見当がなかった。
「クルゥ、お前はこれから立派な魔法使いになるんだ。立派な魔法使いには立派な杖が必要だろう」
目蓋が熱くなったのを感じた。
あっ、これやべぇ。
どうにか……。
精一杯堪える。ここで泣いては俺がまるで離れるのが寂しいって……。
親父が紐を解いて布を取り、中のものを見せた。
「ほら、いい銀色だろ? 昔の知人が作ってくれたんだ」
鋼? いや合金だろうか。一目見るだけ上物ってことがわかる。
「装飾もほら、ここは世界樹の葉で、ここは捩じった木の枝みたいにして、ここにクルゥの名前も刻んである」
親バカが。結構高かっただろうに。
うちの家系は代々農業でそれなりに稼げてはいるが金持ちじゃない。
新しいものをできるだけ買わずに、あるものを使い果たして壊れたら直す。
成長期ってこともあるがニナの服は余った布切れを縫い合わせたワンピース。
ただでさえ俺の学費で高いのに……。
「ずっと木の杖じゃ様になんねぇだろ?」
「ったく、別にいいのに。そんな金あんならニナにもうちょいいい服着させてやれよったくよー、まったく…………ありがとな、親父」
こんな嬉しかったことは過去一かもしれない。
親父から杖を受け取り、手に取って、触って、こんなにいいものをと改めて実感する。
しばらく眺めて数分。せっかくだし実戦で使うまで梱包していた布と紐でまた梱包しておこうと思ったが、その鮮やかな飾り紐で俺はあることを思いついた。
「ニナ、ちょっと後ろ向いて」
「え? 何? こう?」
俺は飾り紐を使って妹の髪を結んでポニーテールにした。
「うーん、こんな感じだろうか。髪の毛長いからかな、なんか違うような」
「もうお母さんにやってもらう。お母さーん、結んでー」
ニナは炊事場にいた母の元へ行ってしまった。
この布もニナにあげるか。
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