第4話 ヴェルトバウム魔法剣士中等学校実技入試4
試験官が俺とアレックスの間に掲げた手を上げた。
それと同時に俺は人型の黒い影4人分を圧縮し魔力に変換、すぐさま魔力を活性化させて雷の矢に模した矢を具現化、4本の矢をアレックスに向けて解き放つ。
アレックスが利き足に重心を移動させたと思った刹那、アレックスはもう10m程前に出ていた。
放った矢が地面に突き刺さり、意味のない音と衝撃波と化してしまった。
アレックスが身体を半身に傾け薙ぎ払いの構えを取る。
俺は即座に魔剣が飛んでくるであろう胸の右手前辺りに杖を持ってきて、防御の態勢を取った。
ガコンッ!
右耳と右手に衝撃が走った。空気と杖から伝わる衝撃。
それは明らかに合金の剣と木製の杖がぶつかったものではなかった。それはまるで大剣同士がぶつかったかのような重い衝撃。
やはり威力はとてつもないものだった。きっと防御を取る俺事薙ぎ飛ばす算段だったのだろう。
俺はその薙ぎ払いを片腕で受け止めていた。
アレックスは俺の杖を見たまま一瞬止まった、ような気がする。
それほど予想外の出来事だったのか、どういう心境なのかは知らないが。
隙ができたような気もしたがそんなものはなかった。
アレックスのもう片方の手には剣が握られていた。それは今まで使ってきた剣。
魔剣ではないが充分に切れ味のある代物だ。
アレックスは俺に接近する際中に自分の身体を目くらましにして、俺から死角になる背中で剣を出現させていた。
アレックスがもう片方の剣で続けざまに斬撃を繰り出す。
一刀の構えと思わせて二刀の構え。不意を突くこの攻撃は初見だとかわし辛い。
ただ俺はこいつとは何度も戦ってきた。そのくらいしてくるだろうと大体予測できる。
俺は魔力を込めていた足ですぐさま横に回避し、そこから更に距離を取った。
危ない、もう少し力んでいれば杖が折れているところだった。
ほんの少し杖が曲がっている。長いこと使ってきたが、魔剣を受け止めたあの衝撃は初めての感触だった。
念には念を、だ。
あまり使わないのだが、これも魔法使いの戦い方だ。
俺は周りを漂う人型の黒い影を数人に術の照準を合わせた。
だが、敗因はできるだけ消しておきたい。
といってもやってることはシンプルな魔法。ただの視覚共有だ。
人や使い魔に向けて使い、対象が見ているものを術者も見れるというもの。
無論、試合では観客などに対して視覚共有を使ってはならない。使っていいのは戦っている者と使い魔だけ。
俺は近くにいた人には見えないその黒い影を1人、圧縮して魔力に変換、杖に補充した。
更に魔法を行使する。
ポルターガイスト。
俺の周りの地面が突如割れ、破片になった地面だったものが宙に浮く。
「土属性魔法ね。厄介だな……しかもこの冷えた空気感。君と戦うとたまに感じるプレッシャーとでもいうのかな、苦手なんだよな」
アレックスは普通の剣を捨て、光と共に60㎝程の小盾を出現させた。
まあ傍から見れば土属性だよな。だが俺の魔法はそんなものではない。
魔力というものは様々あるが、魔力を高める方法として対価がある。
特に魂を代償にするタイプは膨大な魔力を得ることができる。
アレックスが距離を詰め始める。
俺は突き放そうと宙に浮いた土の塊や岩を飛ばすも小盾で次々に弾かれる。
小盾で受け流し、かわし、時に勢いよく盾で体当たりして砕き。
無数の弾幕と土煙の中、俺の抵抗も虚しくアレックスはすぐそこまで接近してきた。
杖を右手から左手へ投げて持ち替える。
「俺も苦手かな」
近くにいた5人の彷徨う魂を1点に集中させ圧縮、濃縮した魔力を具現化させた。
カンッ!
「なっ……!」
予想外のことにアレックスの口から言葉にならない声が零れる。
響くは刃同士の音。
濃縮された刃は紫の稲妻が走る剣となりアレックスの魔剣を受け止めていた。
「でも嫌いじゃない」
俺は剣に内包された魔力を放出した。
衝撃波と稲妻が宙を揺るがし、ともにアレックスが吹き飛ぶ。
放出するのではなく刃に魔力を集中してもよかったが、せっかく買ったアレックスの魔剣をぶった切ってしまうかもしれない。
ゆえに刃という線ではなく衝撃波という面で吹き飛ばした。
アレックスは結界を突き破り、場外で倒れていた。
意識はあるだろうか。
「そ、そこまで!」
試験官が慌てて止めに入った。
そんなに慌てなくても追撃とかしないのに。
しかし、やり過ぎただろうか……。
まあ、とりあえず合格かな。
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