第3話 ヴェルトバウム魔法剣士中等学校実技入試3

 俺は試験を終えたというのにまだ広場に残されていた。


 ジェイコブと変わる形で前に立つのは俺よりちょい背の低い男。確か最近150㎝を超えたらしい。

 まあヴェルトバウム男児が150超えないとか何の冗談だってなるんだが。


 アレックス。

 アレキサンダー・クラインはヴェルトバウムの男としては小柄だ。まだ12歳だからって言い訳もできるが、それでも同年代の人と比べて小柄。

 まあ俺も人のこと言えないが。

 なんだったら筋肉量に関しては俺より上だ。俺の体重が75㎏であいつが78㎏だ。


 毎日筋トレしてご飯も人一倍食べているアレックスだが、人には向き不向きがある。


 紅茶を毎日飲んでいるヴェルトバウム国民は比較的に肉体面と魔力量で困ることはない。

 なので戦士として困ることはないのだが、俺たちは違う。


 肉体差のある連中と小さい頃から比べられて生きていかなくてはならない。


 では肉体面で恵まれないならどうすればいいか。こんな筋骨隆々の戦士が畑で採れるように生まれるヴェルトバウムで。


 答えは簡単。肉体以外で代わりとなる力を極めればいい。


 俺は魔力の才に恵まれていたから魔法を極めた。

 アレックスはというと俺には及ばないがそこそこの魔力の才があった。


 まあ似たもの同士ってことだ。


 違うところといえば……まあ負けず嫌いなとこか。

 こいつはほんと負けず嫌い。


 似たもの同士でちょっと俺の方が魔力の才があって、こいつはそれが悔しくて。

 俺との差を埋めるため、こいつは頭を使って差を埋めた。


 こいつは頭がいい。だから今からどんなスタイルで挑んでくるのか大体わかるが、こいつとは何度も戦っているのでどのパターンで挑んでくるのかよく分からない。


 つまり必ず俺が後攻になってしまう。


 アレックスが棒を握るように手を丸め、次の瞬間その手から先へ1m以上はある剣が光と共に出現した。


 片手剣か。しかもあれは魔剣?

 いやジェイコブが使ってたのと同じ人造魔剣か?


 人造魔剣だろうけど、あの瘴気は何だ? ぱっと見ではあるが、本物の魔剣と同等、もしくはそれ以上だぞ。


 魔剣は強力な武器ではあるが誰しもが扱える武器ではない。

 魔剣の持つ魔力は様々あるが、そのほとんどは呪いの類だ。魔剣は瘴気を放ち、使用者の身体を蝕む。

 この蝕む度合いは人それぞれだが……。


 あいつ、そんなに魔剣適正が高かったのか。


 アレックスからは苦しいといった表情は見られない。かといって魔剣に憑りつかれて狂っているって感じでもない。

 いつものアレックスだ。



「びっくりした? 僕も買ってもらったんだ魔剣。作り物だけど、いいでしょ?」


「ああ、いい魔剣だ。……しかしアレックスが魔剣適正高かったとはな。これは負けるかな」


「ふふっ、心にもないことを言わないでくれよ。でもそうやって慢心してくれてた方が、僕にとってはありがたいかな」



 慢心なんかしてないよ。

 さっきまで勝てる気でいたのに、それが急に揺らいだんだから。


 あのレベルの魔剣だと頭脳を使った戦術だけじゃなくてゴリ押しの戦術もいけてしまう。今まで戦ったことのない戦闘スタイルと今までの戦闘経験が絡み合って、そこ魔剣の純粋なパワーまで加わると……なるほどなるほど。


 こいつ、今日はやたらと目を輝かせているなとは思ったが……すべてはこのためか。

 よかったな、いい試し斬りができるぜまったく!


 俺は近くにいた人型の黒い影、そいつ・・・を圧縮し魔力に変換、握る杖に魔力を馴染ませた。

 油断はできない。予め杖に魔力を通しておく。



「それでは両者構えて…………レディ、ファイ!」

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