第2話 ヴェルトバウム魔法剣士中等学校実技入試2

 アレックスの元を離れ、俺は皆の視線を集める広場へ足を運んだ。


 そこはコロシアムというには簡素な作りで、ほんと、ただ試験をするために作られた最低限の闘技場だった。

 白い線で書かれた直径30m程の円。その線から結界がドーム状に伸びているのを薄っすらと確認できる。

 恐らく試験官が魔法チョークを使って数分で作った結界。


 まあまだ入学すらしていない俺たちにあんな立派な闘技場を上級生が貸し出す訳がないか。



「おいお前、どこ見てんだよ髪金ロン毛」



 おっといけねぇ。対戦相手に集中しないと。


 対戦相手に全然興味ありません、みたいな舐めた態度でいるとこいつは後々何をしてくるか分かったもんじゃない。

 こういう貴族には目を付けられないようにするのが一番だ。



「すみませんね、ちょっと緊張してて」



 何も返事を返さないのも失礼かと思い適当な言葉を返した。


 ん? 俺、傍から見たらボーっとしている奴じゃないか? 全然緊張とは無縁な表情をしているような……まあいいか。

 視界に入りがちな自慢のストレートの金髪を整える。



「構えろ。お前気に入らないんだよ、田舎者の癖によ」



 生まれをどうこう言われてもどうしようもないんですけど、はぁ。


 まあいいや。とりあえず対戦相手に視線向けて、ちゃんと真剣に取り組んでますよアピールしとこう。


 ジェイコブ・マイヤー。

 身長170超えで、あの筋肉量だと軽く100キロは超えてるな。これぞヴェルトバウムの男って感じだ。

 使う武器は大剣。サイズは1メートル半、いや2メートル近いか。使う魔法はどうせ自己強化系だろ。

 魔法のローブに肩パッド、プレート、手甲、レッグアーマー……まあ無難な装備だな。

 ああいう奴とは何度も戦って来ている。



「ツェントルム闘技杯ジュニアの部で優勝していい気になってんだろうが、それも今日までだ」



 何だ、こいつ俺のことを知ってんのか。


 ジェイコブは大剣に巻かれた布を魔法で燃やす。

 現れたのは黒みがかった紫の刀身。


 あれは魔剣? 最近人造魔剣ってのが開発されたって聞いてたが、あれかな。



「これは人造魔剣だ! 人の手で作るのは不可能と呼ばれた魔剣。それに匹敵する魔力量と破壊力を有する最新兵器!」



 なんだ? 宣伝か? スポンサーが付くのも大変だな。


 まあいい。

 俺のこと知ってるみたいだし。それに対策としてそんな武器持って来たんだから、接戦を演じなくていいってことだよな。


 俺は手を棒を握るように手を少し曲げ、そこに杖を出現させた。


 そんな立派な杖ではない。小さい頃から使っている1メートル弱の木製の杖。

 装飾も何もない、片方の先端が太くて反対に行くにつれて細くなってる普通のロッド。

 そろそろ買い替え時かな。



「これでお前を潰す! クラウス・ルートヴィッヒ!」



 はあ。対戦相手の目、ガチになってるよ……苦手だな。



「それでは両者構えて…………レディ、ファイ!」



 試験官が俺と対戦相手の間に掲げていた手を真上に挙げた。


 刹那、一呼吸も置かずに目の前に大剣の刃が迫っていた。

 これ若干フライング気味だろ、いいのかよ試験官さんよぉ。


 全部かわし切る予定だったが予定変更。

 振り下ろされる大剣を杖で受け流し、一歩前へ踏み込んだ。


 大振りで突っ込んできたジェイコブは大剣を地面に叩きつけ砂煙を上げる。普通の大剣なら地面に突き刺さるものだが、あの魔剣の威力は高く、地面が抉れる。


 へぇ、中々いいものじゃん。


 ジェイコブがバランスを崩した瞬間、杖の先端で顎を遠心力任せで殴った。

 魔力を帯びた杖の衝撃が顎から脳へ伝わり、揺らし、よろけさせる。



 仕上げだ、力を貸せ。



 俺はそいつら・・・・に声を掛けた。

 人には見えない人の成れの果て。そいつらを圧縮し活性化、俺の頭上左から右へ計4本、1本1m程の魔法の矢を生み出す。

 それは紫色に輝き、雷のように宙を細かな魔力が走っていて、傍から見ると雷系の矢に見えるものだった。


 その4本を一斉に掃射する。その矢は魔力耐性の高いローブごとジェイコブの身体を貫いた。



「そこまで!」



 試験官が静止を促し、待機していた治癒魔法師がジェイコブを治療し始めた。


 まあこんなものか。結果は分かっていたが。

 魔力の差が違い過ぎるのだ。どれだけ優れた肉体だろうが防具だろうが俺の魔法には遠く及ばない。


 さて、実力は見せたし合格だろう。ちょっとやり過ぎたかもしれんが、あのボンボンも親の権力使えば入学ぐらい簡単にできるだろう。


 ではこれで俺の試験は終わりっと。



「クラウス・ルートヴィッヒ、ちょっと残りなさい」



 広場を去ろうとした俺を試験官は止めた。


 え? 何? 俺の試験もう終わったよね? それともさっきのやり過ぎだったとか?



「受験者が最後にあと1人居てね、奇数だからさ。君、余裕そうだから相手してやってよ」



 まだ試験受けてないのって……



「アレキサンダー・クライン、前へ」

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