紅茶戦記

@iona107

洗脳国家ヴェルトバウムの生活

第1話 ヴェルトバウム魔法剣士中等学校実技入試1

 ヴェルトバウム国の中心、そこには世界樹がある。

 それは大きい。

 サイズは直径100㎞といったところか。高さは9㎞ほど。


 中心街は太陽がよほど傾かないと顔を覗かない。

 日中でも中心街は日が差さないのだ。


 だからといって暗い訳ではない。

 雪が積もっていない低所の葉は、その緑を黄金に輝かせ、民に光を届ける。


 そこのあるじである神は言う。この木より高い山はない。


 神は世界樹を成長させ、国土を広げ、力を増大させる。

 すべては亡き創造主の悲願のため。






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 目の前で魔法と剣撃が絶え間なく衝突している。

 他の試験者はコロシアムで観戦するかのように囲み、応援や罵声、ああしろこうしろなど。まあ、盛り上がっている。


 俺はというと校舎とか学校近くの店はどんなものがあるかとか、街並みを見ていた。


 久々の都会だ。


 他人同級生がどんな戦いをしてようが興味はない。

 それよりも今後ここで学校生活を送るって想像する方が興をそそる。


 世界樹に隣接した校舎。最新鋭の結界ドームがある闘技場。学校近くの防具屋や魔法雑貨屋、ごはん処。

 国の中心ってこともあって街を行き交う人が多い。馬車に乗る商人の服装は薄着の人もいれば厚着の人もいる。一体どれ程遠い所から来たのやら。

 そして何より実家では味わえない空を覆う世界樹。黄金に輝く葉は星空より綺麗で、日差しが届いてないとは思えない明るさ。


 これぞヴェルトバウムの中心街ツェントルム。


 まあ、あまり見慣れない街並みを見るのは時間を忘れるものだが。時間を忘れても、地に下ろしているケツは長時間経つと痛くなるってもんだ。

 もうかなり座ってるぞ、俺の番はまだなのか。



「次はクラウス・ルートヴィッヒ、ジェイコブ・マイヤー! 両者前へ!」



 試験官が俺と対戦相手を呼ぶ。ようやくか。

 しかし対戦相手がジェイコブねぇ……。


 俺が9歳ぐらいだった頃かな。たぶん3年ぐらい前だった気がする。

 別にこいつはそこまで強くなかったはず。


 だけどウザい印象しかねぇ。

 金にものを言わせていい装備を纏い、親の権力で名のある教官を雇い英才教育を受けたボンボン。

 これぞ貴族って感じだ。


 まあ貴族って言っても色んなタイプがいると思うが、あいつは嫌いだ。

 何か不都合があれば金で解決するタイプだ。

 こういう奴はできるだけ関わらないのが正解なんだけど……


 はぁ。


 ため息は吐いてない。心の中のため息。

 俺は何考えているか分からない、感情が表に出ないよね、とかよく言われる。



「まあ…その…頑張って」



 心の部分が顔に出ていたのか、長年の付き合いで察したのか、隣で一緒に座っていたアレックスは憐れむような目で俺を鼓舞した。


 なんだよその応援はよ。ったく。

 これから中等部の入学試験っていう大事な時ってのによ。



「あんな勝っても負けても面倒くさそうな奴よりお前と戦った方がよっぽどマシだったぜ」


 溜め込んだため息を悪態に変えて呟き、その場で立ち上がる。


 アレックスは強い。少なくとも同年代でこいつより強い奴は戦ったことはない。

 まあ貴族の生まれってのもあって装備とかちゃんとしてるから強いってのもあるけど、こいつは努力家で、俺に負けて悔しいのか何度も再戦を申し込んできた。

 何度も何度も挫けずに、何度も。


 同じ貴族であるが、あのボンボンとこいつは全くの別物だ。魂が違う。



「ドンマイドンマイ。僕も君と戦いたかったよ」



 その目は透き通っていた。強者に勝ちたいという戦闘狂の欲は裏も表もない。


 小耳に挟んだのだが、最近入学記念に親からいい剣を貰ったらしい。それの試し斬りを俺にしたかったのだろうか。

 試験は実力ができるだけ同じ者同士で戦うはずなんだが、これは運としか言いようがない。まあでも可能性は十分にあったな。



「んじゃ、行ってくる。またな」

「ああ」


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