第12回 ※情報を集めたのはワンちゃんです。
ほぉーほぉー、と外からは幾羽もの鳩の鳴き声が聞こえてくる。締め切ったカーテンからは日光が差し込んでいた。
「もう、あさか」
寝ぼけた頭で今日の予定を考えながらベッドから這い出る。下等生物の「寝床から出れない」と言う気持ちが少し分かった気がした。
リビングの方からは霧人が出かける準備をする音がしていた。霧人は吸血鬼ながら会社員をしている、だからこの時間にはもう家を出れる様に準備を終わらせないと間に合わないのだろう。
ただ今日はいつもよりドタバタしている様だった、何かあったのか。
…いやな予感がする。(下等生物らしく予感と言って見たものの実際は私の常に稼働する億、兆の感覚器官達が"奴"がこの部屋にいる事を示していた)
「…霧人ー、私もう出るねー?」
"奴"に聞こえないようにギリギリの声量でそう言いそそくさと外出の準備を開始する。
なぜ聞こえないのに言う必要があるのかって?そんなの勿論後で霧人に「なんで助けなかったのかな?」と言われた時の言い訳作りに決まってるだろう。
輝く知性、さすが神性、さすが私、これぞ神。いあいあ私。
「よし、あとはカメラを持って_「どこに行くのかしら、あ、な、た?」
くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?!?
「な、な、なぜバレッ!?」
い、いつの間にか私の真後ろにピッタリと"奴"が佇んでいた。私に気取られない様に闇から少しづつ体を寄越して来てたんだ。
けど本当にどうして気づかれたんだろうか。この生の支配者が相手の聴覚器官の限界を見誤った?いや、そんな訳が無い。絶対に、私の声量調節は間違っていなかった。絶対にだ。
ならどうしてコイツはここに?いや、そうか。そうなのか。声じゃ無い、声じゃないのか。
「ヘルハウンドを角度に潜ませてー…!」
我が息子にしてマイノグーラの眷属、ヘルハウンド。その能力はありとあらゆる角度に潜み出入りする力、最初から私の部屋に潜んでいたヘルハウンドがマイノグーラに私が動いたことを知らせたんだ。そうして私の動きを知ったマイノグーラは少しづつ、私に勘付かれない様に体を私の部屋に移動させたのか。
けど不可解だ。私がヘルハウンド如きの気配を察知できなかった?それも長時間、いくら人の化身を取っているとはいえ有り得ない。
角度に潜んだ程度で私から身を隠せる訳が無い、一体どうやって?
私の困惑を知らないヘルハウンドは(私が言い当てた瞬間普通に出て来た)呑気な顔でくつろいでいる。ここはお前の部屋じゃ無いんだぞ、と言いたい所だがそれは八つ当たりだろう。
「いったいどうやったのかなー?私に気づかれないようにヘルハウンドを私の部屋に忍ばせるー?無理だろ、ねぇマイノグーラ」
おそらくこの現状の犯人である奴を軽く睨みつける。本人はどこ吹く風どころかその敵愾心すら愉悦って様子だ。むかつくぜ。
「ふふ、せっかく貴方の困惑なんて珍しいものを見れるのに種明かしなんて無粋なこと私にしろと言うのかしら?」
そう恍惚に染まり切った表情で宣うマイノグーラ。人間に精神性が近いくせに根っこの所はあの混沌と同じクソ性悪野郎だ。野郎じゃないけど。
謎が解けたら覚悟しておけよ。ってそもそも何でマイノグーラはここに?
「そう言えば貴方なんで私の部屋に?こんなしょうもない事だけしに来た訳じゃないでしょー?」
するとマイノグーラは何か思い出したかの様に手をポンっと叩き闇から小さな封筒を取り出し渡して来た。
開いて見てみると中には人の写真が貼られた紙が4枚入っておりそれぞれにその人物についての情報が事細かに書き込まれていた。
「なにこれー?」
「貴方、今ダンジョンに潜っているのよね?そのダンジョン最深記録保持パーティー、それについてちょっと面白い事があったから教えてあげようと思ったのよ」
「最深記録?…あぁ、あの『暗黒男の四肢』とか言う胡散臭さMAXのー?」
「そう、それなのだけど実はある神性があのパーティーには深く関わってる様なの」
「いやー、そんなの名前から分かりきってるんですけどー?」
あからさまにあれじゃん。あの混沌が関わってる案件じゃん。
そう思ったのだがマイノグーラは私の返答に対して意味ありげに笑った。含み笑いってやつだろう。ムカつくな。
「はぁー?なにそれ違うって言うのー?」
「ふふ、ネタバレはつまらないでしょう?貴方も背信者?なのだから自分で答えを確かめて見るのが良いと思うわよ?」
成る程。そう言われると耳が痛い。面倒臭いが自分でコンタクトを取ってみようか。
「因みに彼らは一度ダンジョンに入ったら半年は出てこないそうよ。今ならダンジョンでバッタリ出くわすんじゃないかしら?」
「分かった分かった、ダンジョンに潜る時にぼちぼち探してみるよー、情報ありがとねー」
また会いましょう、そう言ってマイノグーラは闇の中へと帰っていった。ヘルハウンド達ももちろん一緒に。
朝から騒がしい奴だった。けれどあいつの持って来た情報の価値は大きい。
「えー、なになに1人目はリーダー『
…中々に強い。もちろん神性には及ばないがエイリアンくらいなら殺せそうだ。
次は『ウォーリ•ゴダン』槍使いか。
「スキルは『
こっちは強さがわからないな。その死に瀕する度にと言うのがもし無限に強くなれるなら神性にすら届きうるかもしれない。
次は『セヴィウス•ユーピル』雷使い。
「スキルは『スプリームサンダー』ありとあらゆる場所から雷を発生させ操る事ができる。その威力は地面に10mの穴を穿つほどー」
これまた強力。本当に粘液や菌糸類相手なら勝負になりそうなくらいには強い。
最後は『ヴァルフマン』
「スキルは『三権能』、拳に触れた全てを破壊する『破壊者』、仲間と認識する相手の能力を底上げする『恩寵者』、自身の想像できるものを何でも創造できる『創生者』の三つを切り替える事ができるー」
全て、か。それが空間もなら人の身に余る力だけどもしそんな常時空間破壊なんてしていたら日常生活もままならないはず。だから全てと言っても物質に限るのだろう。
と言うか良くここまで調べたな、マイノグーラ。暇なのかな?
全員のスキルを見て見たが確かに人としては破格に強い。様々な宇宙生物と戦っても勝ち残りそうなほどに、強い。
しかし当然ながら
「なんでマイノグーラはこの程度の存在をわざわざ私に知らせにー?」
とある神性が深く関わっていると言っていたが全くわからない。
見た目も名前も人間のまま、悪趣味な邪神どもが関わってそう居られるわけが無い。じゃあ、つまり?
「ははっ、分かった。確かにネタバレは要らなかったよ、答え合わせが楽しみだねー」
スッキリしたので明日の配信に備えてダンジョンの下見にでも行くか。
そう言えば霧人が朝食を用意してくれてあるはず、そう思いリビングに入った…のだが。
そこにはいつも通り霧人の用意した朝食があった。大変美味しそうだ、その上に冒涜的ナニカがトッピングされていなければ、だが。
「……、マイノグーラぁああああ!!!!!」
この怒りをぶつけるべき相手はすでに闇へ帰った。だからどうしようもない。
今日の私のダンジョンの下見が八つ当たりへと変わった瞬間だった。
配信切り忘れたら人外バレしました~一夜で顔も彼女も人外もバレた最強存在~ 負雷パン @heytakusea
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